第32話 サイン会と握手会

 さて、と。

 ここからは、やっと俺……井上秀太様の時間帯がやってきたな。くく。


 ついさっき、クソ怠いリハーサルも無事に終わった所だ。


 いつもなら周りの連中が足引っ張ってクソ長引くんだが……。


 今回はそこそこの役者どもが集まっているおかげか、予定よりも早く進んだぜ。


 ま、それにしてはまだまだ猿程度の実力ではあったがな。

 猿程度の。


 この俺様の力まで及ぶ奴はほとんどいなかったのが非常に残念だ。


 まあ、蜜柑だけは別格だったけどな。

 蜜柑だけは。


 くく。流石。

 俺の認めた女だけあって、やりがいがある。


 前々から思っていた通り。


 演者としての完成度も周りと比べて一段階……いや、二段階は飛び抜けていた。


 そのぐらいの実力の持ち主ってことだ。


 ふ。まあこの俺……井上秀太の伴侶となる者はそれぐらいやってもらわないと困るんだけどな。


 顔も良し。スタイルも良し。

 おまけにこっちを焦らす程のツンデレ属性。


 全く。

 本当に困っちゃうなぁ。


 この俺様を、ここまで追い込むなんて……。くくく。


 そうそう。今日の夜は最高の時間を送る予定だったな。


 楽しみすぎて、逆に忘れていたぜ……。


 蜜柑。お前が俺の事をどうしようもなく好きなのは十分理解している。


 俺もそうだ。

 この数か月間。お前の事で夢中になりすぎて、ハッキリ言ってしまえば劇団の稽古なんざどうでも良かった。


 特に最近は。

 誰かさんが構ってくれないせいで、不満が溜まりに溜まってたからな……。


 本当にイラつかせやがるぜ。


 でも、まあいい。

 そんな溜まってる感情も、全て蜜柑にぶつければ解決する話だ。


 まあ、それだけじゃ全然足りないと思うがな。


 まずは一発決めて抵抗が無くなるまで、思う存分楽しませてもらわないと。


 そんでもって。

 じわじわと身体を舐め回して。


 蜜柑の喘ぐ表情を見ながら、じっくりと俺は……。


 おっと。いかんいかん。

 想像を膨らませるのはこんくらいにしとかねえと。


 今から我慢できなくなっちまったら元も子もないしな。


 ククク。ここは性欲を抑えないといかねえ。


 爆発するまではしっかりと俺のムスコも温存する必要がある。


 それまでは待機だ。待機。

 爪痕をがっつり残すにはそれだけのパワーがいるからな。


 今夜。

 蜜柑とのを確実に作る。


 それまでは、しっかりと世間ではカッコいい井上秀太という人物を演じなければ。


「秀ちゃーん! 空き時間出来たぽいから、ファンとの交流会を……って。秀ちゃん? どしたの、そんな嬉しそうな顔して。何か良いことでもあった?」

「くく。いや、何でもねえよさや子。ちょっとだけ考え事をしてただけだからな」

「ふふっ! そっかそっか! 今ね、本番が始まる前にサイン会と握手会が行われてるんだけど……秀ちゃんもあっちにスペシャルゲストとして参入してみない? 絶対に盛り上がるはずだよー!」

「ああー。なんか向こうの方ですげえ人だかりが出来てるみたいだが……誰かやってんのか?」

「うん! そうなんだよー。あれは影山さんがやってるんだー。私もさっき行ったけど、本当に凄かったよー!」


 ほう……?

 あの蜜柑がサイン会と握手会をねえ。


 ファンからしてみれば、とてもありがたい事だろう。


 男性ファンの奴らが圧倒的に多いと思うが……。


 ケッ。お前らはこの時代に生まれて本当に良かったなぁ。


 普通だったら、握手するだけでも数億円払わないといけないんだぞ。数億円。

 ましてや蜜柑レベルだったらな。


 くく。まあでも、俺もよくあーいうファンサービスをやっていたものだ。


 どいつもこいつも、奴隷以下のモブキャラでしかない存在で反吐が出るレベルだったが……。


 特に男どもはヒョロヒョロで面白くない奴らばっかりだし。


 女性陣に関してはブスばっかでテンション駄々下がり。


 たまに可愛いヤツらもちらほら居るには居るが、俺を意識させるレベルではなかった。


 まあ、つまり。

 この俺と対等の存在でいられるのは、蜜柑か彩夏の二人しかいないってことだ。


 ほんと、嫌になってくるぜ。


 チッ。

 まあでも。


 流石に有名人ともなると、ああいうのをやらざるを得なくなるのも確かだ。


 本番が始まる前に行うお決まりのやつなんざ、とっとと捨てちまった方が楽になるってのにな。


 はぁ。まじでめんどくせえ。


「しゃーないな、分かったよ。俺も蜜柑の野郎と一緒にやれば良いんだろ?」

「おお? 秀ちゃんにしては珍しくやる気だね? いつもはああいうの、あんまりやらないタイプだったのに」

「うっせーな。俺もやる時はやる男だっつーの。くく、さや子……傍で見て居ろよ? すぐに蜜柑と同じくらい人を集めてやるからな」

「ふふっ。秀ちゃんが本気出したら、もう世界一に決まってるじゃーん! 私、一生付いていくね?」


 くく。

 そんなの当たり前だろ。


 この俺、井上秀太はあの水瀬彩夏と同様。

 国民的芸能人なんだからな。


 そこら辺の俳優とは格が違うということを、改めて証明してやる。


 そんでもって。

 世界で一番の実力者は誰なのかを決めようじゃねえか。


 ふ。まあ今日の劇で観客は皆。

 俺一人に魅了することは百パーセント確定しているけどな。


 超ダルいが。

 ここは準備運動がてら、いっちょかましてやるか。


 くく。

 今に見てろよ。蜜柑。




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