第16話 新人マネージャー

 どうも……皆さん。初めまして。


 私。水瀬彩夏さんのマネージャを務めている川島絵梨と言います……。


 半年前に専門学校を卒業して、就活でこの大手事務所『ダイヤモンド・プレッツェル』に採用された者です。


 ここに入れるとは当初、微塵も思わなかったのですが……。


 テレビ画面でしか見れなかった憧れの方達と出会うのは、もはや夢のようです。


 なので、最初は少し張り切りすぎて、周りの方に迷惑をかけてしまった経験があります。

 ちょっと反省です。


 で、ですが、この芸能界の中での仕事というのは、想像以上に厳しいです。

 体力が必要です……。


 高校時代に陸上部にも入っていたので、それなりに体力はある方なのですが……。

 そんな自信のある人でも、心が折れそうになるぐらいヤバいです。


 と、特に私は、あの国民的芸能人である水瀬さんのマネージャーに任命されてしまったので……。

 も、もう言葉で表すことが難しいほど、忙しいです。


 事務的な連絡やら、スケジュールの調整やらでもうてんやわんやで……。


 う、うう……。

 私の前にマネージャーをやっていた人は、一体、これをどう乗り越えたのでしょうか……。


 も、もう少し早く採用が決まっていれば……その方とお会いして引き継ぎのご指導を受けられたかもしれないのに。


 で、でも。こればかりは嘆いても仕方ありません。

 きっと、自分で何とかするしかないのでしょう。


 しかしこの頃……全然睡眠が取れていないので体がなんか重いです。

 まだ社会人になって半年しか経っていないのに……。な、情けない。


「ねえ。あなた、最近ちゃんと眠れてるの? 目の下に隈が出来てるわよ」

「――っふえぇ!? え、す、すみません! これからは水瀬さんの前では隈を作らないように努力しますっ!」

「もう、そうじゃないでしょ。真面目なのは良いんだけど、ちょっと頑張り過ぎ。簡単なことは私がやってあげるから……あなたは少し仮眠を取りなさい」

「え、えええええ!? だ、ダメですよそんなの! み、水瀬さんだってドラマに向けた収録がこれからあるっていうのに!」

「いーいーの。私の仕事に慣れるまでは……やっぱりどうしても数年はかかると思うから。それに、あなたに体壊されちゃ、元も子もないし」


 そう言って、私の頭を優しく撫でる水瀬さん。


 当初、私がマネージャーになった時はすごく、元気が無かったように見えたのですが……。


 それでも最近になってからは、自分に笑顔を見せてくれる機会が増えたような気がします。


 うう……なんて美しい方なのでしょうか。

 こんな人とお仕事ができるなんて、そもそも夢のまた夢であったはずなのに……。


 で、でも。

 この水瀬さんの優しさに甘えてはいけません。


 そ、そうです。何をぼーっとしているのですか私は。


 いくらマネージャーだからといって、事務的な仕事を大物の女優さんにやらせるなんて……。

 そ、そんなの、私のプライドが許せません。


「大丈夫です! 自分、体力お化けで昔から有名なので、これぐらいどうってこと無いです!」

「はあ……もう。そこまで言うんだったらこれ以上、口出しはしないけれど……絶対に無理だけはしちゃダメよ? いい?」

「は、はい! 肝に銘じて!」

「ふふ。それなら、行きましょうか。ちょっと早いかもしれないけど……向こうで休憩はできるし、そっちの方が良いかもね」

「りょ、了解しました! で、では私、車を用意して待機してます!」

「うん。今日もまたな長い一日になりそうだけど、これからもよろしくね。川島さん」

「はい! こ、こちらこそ、宜しくお願いします!」


 や、やる気がみなぎってみました。

 さっきまであった眠気も……なんだか嘘みたいに吹っ飛んだようです。


 これからはドラマ撮影に向けて現地に出発するので、色々と準備をしないとと……。


 あ、でもその前に、明日の予定表を上司に渡さないといけない……。


 う、うう……やることがいっぱいありすぎます。


 で、でもここで止まるわけにはいきません。


 水瀬さんの力になれるように、少しでも私がカバーしなければ……!




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