転生したら盗賊神獣カーバンクルだったけど、剣と魔法の世界でHP10, MP0と言う弱小ぶり。おまけに魔族に命を狙われていて、どうやって生き延びろうと言うのか!!

@kazu46mu

第1話 開場

 50年に一度という大雪で街は、雪に埋もれていた。雪は、すべての音を吸収してしまうのだろうか、辺りは静寂に包み込まれていた。


 子供病院の個室は、大人が入院する一般の病室とくらべ照明も壁紙の色も暖色系で統一されていて、温かみが感じられた。病室の中は、薄桃色のカーテンで仕切られていていて、ドアが開いた時、廊下から直接中の患者が見えないように工夫されていた。


 目の前のベットには孫の健太郎が横たわっていた。

 健太郎が目を覚ました。


「おじいちゃん、早いね」


 健太郎は。枕の下にしまい込んでいるスマホを取り出し、時刻を確認した。


 10歳の孫にスマホをもたせることに当初は抵抗があったが、この病院への入院が決まると、その日のうちに、最新機種を買い与えてしまった。


「まだ、面会時間前だよ。看護師さんに見つかったら怒られるよ」

「おじいちゃんは、見つからないから大丈夫だ」


 健太郎はクスッと笑った。


「おじいちゃん、僕、死ぬのかな」

「大丈夫だ、おじいちゃんがついている」


「でも、お母さん、泣いていたよ。僕が寝ていると思ったみたいで、でもこっそり聞いていたんだ。手術しなければ一年、手術すれば、治る確率が10%、植物人間になる確率が50%なんだって」


 舌打ちしたくなる気持ちをぐっとこらえた。


「植物人間って何?」

「そんなこと知らなくていい」


 思わず語気が荒くなった。どうして子供の前でそんな話をするのか。まったく迂闊すぎる。


「僕、できれば手術したくない」

「おじいちゃんは、手術なんて話は聞いていないから、きっと夢でも見たんだろう」


「そんなことないよ。だって僕、最近夢をみないんだよ」

「それは良くないな」


「そうだ、おじいちゃんが見たとっておきの夢がある。ちょっと長いけど、聞きたいか」


「うん、聞きたい」

「そうか、それじゃ話をしてみよ。実は誰にも話したことがないから、うまく話せるかわからないけど」


「じらさないでよ」

「そんなつもりはないんだけど、今から話す夢の話は、他の誰にも話しては行けないよ。約束できるかい」

「もちろん」


 健太郎は笑いながらうなずいた。


====== ====== ====== ====== ======


 その定食屋は下町にあった。

 全国どこにでもあるような店構えだ。しかし、店の味は店構えだけでは決めてはいけない。その店は、いわゆる隠れた名店だった。


 二階建ての建物の一階部分は定食屋で二階部分は居住スペースだったのだが、今は店主の個人的なギャラリーになっていた。


 店内には4人がけのテーブルが4つ、カウンター席が4席ある。

 俺は、まだ23歳だった。体はそんなに大きくはなかったが、体は、丈夫で、腕は運動選手のように太くたくましかった。


 食材の購入、搬入、下ごしらえから、トイレ、店内の掃除まで全部一人でこなし、この店を切り盛りしていた。

 両親が生きていたころは、昼の部、夜の部とにわけて営業していたが、両親が不意の事故で亡くなってからは、夜の部のみの営業に変更していた。休みは、週一回、日曜日のみだった。


 店主が変わったことで店の味も変わることはよくあることだ。それを機に人気がでたり、逆に客足が遠のいたりする。幸いなことに、この店では、これまで通り、いや人によってこれまで以上賑わっているといわれていた。


 それは、小さい頃から祖父母、両親から料理の腕を仕込まれていたからであり、高校を卒業して、すぐ店を手伝い始めていたからでもある。自分自身が考える最大の理由は、料理は嫌いじゃなかったからだと思っていた。

 ただ、そんなに俺が完璧かと問われれば、そうではなかった。店を一人で切り盛りするプレッシャやストレスで、自分の趣味にのめり込むようになっていた。


「ありがとうございました」


 今週最後のお客さんが、店を出た。外の看板の電気を落とした。入り口の扉に鍵を掛けようとしゃがんだとき、扉を力強く押され、俺は尻もちをついた。


「すいません、お客さん、今日はもう店じまいです」


 俺は、顔を上げた。上下白のスーツに金色のネクタイ。髪型は五輪角刈りで、耳と唇にピアスをしていた。


「これは、金城さん」


 俺は愛想笑いを浮かべた。


「これは、金城さん。じゃあねえ。借金返せないと、どうなるかわかっている? この商売なめられたら終わりなんだよ」

「わかっています、借金返済ですよね。でもまだ、返済期日まで間がありますし」


「もう、毎月の返済なんていいんだよ」

「でも、一括返済なんてできませんし」


「この土地と建物を売れば、問題ないんだよ」

「ここは、代々親父たちが守ってきた土地だから売るつもりはないんです。毎月の返済額を増やしますので」


「ダメダメ、俺たちは、この土地が欲しいんよ」

「そ、それじゃ弁護士さんと相談させてもらいます」


「出るところに出ようってことだね」


 金城はニヤリと笑った。


「まっとうなこと言うね。俺たちに借金しておいて。まあ、俺は、そういうの嫌いじゃないぜ。弁護士さんと、せいぜいじっくり話し合ってくれよ。それじゃ、また来るよ」


 俺は、冷や汗を袖で拭き取った。何しに来たんだと思うほどあっさりと引き下がってくれた。もしかしたら、話せばわかる人なのかもしれない。


 俺は、気が変わって金城が店に戻ってくる前にと、いそいで扉の鍵を閉めようと鍵に手を伸ばした。

 再び扉を力強く押され二度目の尻もちをついた。


「ああ、ごめんごめん、アキラ」

「なんだ、キョウコか」


「なんだって、何よ?」

「いや、なんでもない」


「何でもないわけないでしょう」

「見たわよ、ヤクザが店からでてきたの」


「ヤクザじゃないよ」

「うそ。今どきあんな服着るのはヤクザしかいない」


「ところで腹減ってないか。店の残り物でもよければ食べていくか」

「もちろん、変人の唯一の取り柄が料理なんだから、それ以外ここに来る理由なんてない」


「冷たいな。幼馴染だっていうのに」


 キョウコは、カウンターのいつもの席に座った。


「アキラ、あんた、2階に溜め込んでいるガラクタ売っちゃいなさいよ」 


 二階には六畳の部屋が2つあり、そこに入りきれないほどの現代アート作品、その多くはまだ名が売れるまえの作家、俺は将来取引額が爆発すると見込んでいるわけだが、の作品が置かれていた。


「ガラクタじゃないし、だ、ダメだ。そんなこと」

「あんたの唯一の楽しみが近代美術のコレクションだっていうのは知っているけど」


「ちがう現代アートだ」

「そんなもののために、ヤクザから借金するなんて頭おかしい」


「キョウコが心配することじゃない」


 俺は、無心になってパスタとソースの入った鍋を振った。


「変人アキラの唯一の友人にそんなこと言っていいの」

「変人、変人、言うな。コレクションは俺の人生、そのものだ。これだけは誰にも邪魔されたくないし、コレクションを売る必要はない、やつらの狙いは、この土地だから」


 皿をキョウコの前に置いた。キョウコは、皿の上の料理をフォークで指し示した。


「この皿一つ見ても、あんたには審美眼はないと断言できる」

「ほう、それは興味深い意見だ」


「一皿の上に、生姜焼きとボロネーゼパスタのハーフアンドハーフを盛るようなヤツにアートとかいわれたくない」


「まあ、食べてごらんよ、うまいから」

「うまいのは知っているわよ。私が言いたいのは、審美眼、美的感覚よ」


 そういってキョウコは、料理を頬張った。


「相変わらず、うまそうに食べるね」

「食べ物なんかで忘れたりしないから。いい、ヤクザから借りてしまったものはしょうがない。でも、あんたには、腕があるんだから、荷物を整理して別天地をさがすべきよ」


「それも難しいな。何代続いているとおもっているんだ。ご先祖様に申し訳たたない」

「あんた、まだそんなこと。ん? なんか焦げ臭くない」


「別に、もう火は使ってないけど」


 俺は厨房から出て周りを見回した。勝手口の扉のすりガラス越しに火の手が上がっているのが見えた。


「火事だ」


 勝手口の扉の隙間から黒煙がはいって来た。


「キョウコ、表だ。まだ表は大丈夫」


 俺は、そうキョウコに指示すると、二階へつづく階段に向かった。


「アキラ、どこ行くの」

「二階に作品があるんだ」


「そんなのほっときなさい」


 俺は、キョウコの忠告を無視して急な階段を駆け上がった。こんなことなら、作品は全部狭くても自宅に保管しておくべきだった。街金に借金までして集めたコレクションが灰になってしまう。


 ふすまを外した押入れの中、廊下、畳の上、天井に太い針金を渡して作った簡易的収納スペース、足の踏み場もないほど二階にはコレクションが置かれていた。


 一つ作品を手にとっては、それを元に戻し、また別の作品を手に取った。この中からどれを選べというのか。

 選べるわけがない。

 煙が二階の天井にまで登ってきた。煙が目にしみて、涙が出た。

 キョウコが階段を駆け上がってきた。


「何してんだ。早く逃げろ」

「私も大切なものを取りにきた」


「ここにお前のものなんて置いてない」

「迷ってい場合じゃないでしょ。早く持てるだけ持って」


 キョウコが大声をあげ、アキラをせかした。サイレンの音が聞こえてきた。近所の人が通報してくれたらしい。俺は、奥に仕舞ってあった油絵をキョウコに渡した。


「先に逃げろ」

「いやよ」


 俺は、両手で抱えられるだけ作品を抱え階段に向かった。キョウコがうしろについてくる。汗と涙と煙とで目が開けていられない。おまけに作品を抱えているので足元が見えにくかった。


 キョウコが悲鳴をあげた。キョウコの持っていた絵画が俺の顔をかすめ階段下に落ちていった。それを追うように、キョウコ自身が転がり落ちてきた。

 俺は、とっさに持っていた作品を手放しキョウコを受け止めた。

 しかし、俺もキョウコを受け止めたことでバランスを崩し、煙が充満する一階へと二人して階段を転がり落ちていった。

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