第8話・不思議な力

 昨日は興奮して夜遅くまでなかなか寝付けなかった。

 それにしても……

 あまりにもの衝撃に昨日はビックリした俺だったが、これで暫くは安心して暮らしていける目処がたったことに喜んだ。


「はぁ……役立たずと罵られた俺が、たったの1時間程で作ったポーション売って15万か……材料費と言っても最初のこの、すり鉢と、すり棒とポーション瓶買っただけだしなぁ。まぁ、ポーションがあると、冒険者達だけじゃなく、怪我した人とかも助かるだろうから、良かったと言えば良かったのかもなぁ……」


「また作ってくれって頼まれたことだしな。でも、もう材料の薬草がなくなったしなぁ。またギルドに依頼を出しに行かないといけないなぁ」


「薬草って、うちの庭で育てることって出来ないのかなあ? 根つきの薬草を採取して来てもらったら? 相談してみるか! 冒険者ギルド? それとも商業ギルドがいいのか?取り敢えず、ギルマスにも紹介されたことだし、商業ギルドに行ってみるか!」そう思い俺は家を飛び出した。




「こんにちはー」


 俺は元気に挨拶をした。


 そう言えば、個室に行けと言われたなぁ……


 キョロキョロしている俺に

「ああ、アレックスさん。こっちこっち」と

 アリサさんに手招きされた。


「あぁすいません。慣れないもので……」


「次に来た時は直接ここに来るか、もしここに誰もいなかったら、カウンターでギルドカードを出して、アレックスさんの名前と私の名前を言ってくれたら大丈夫だから」

 笑顔でアリサさんが教えてくれた。


「わかりました。ありがとうございます」


「で? 今日はまた納品?」


「いえ、今日はちょっと相談と言うか……」


「どうしました? 私にできることがあれば何でも相談にのりますよ?」

 親切に言ってくれた。


「実はですねぇ、ポーション作りの為の薬草を仕入れたいんですが、ウチの庭で育ててみようかと思って……」


「なるほど。ただ、薬草はなかなか育ち難いと言われていますけど、まぁ、上級ポーションを作ることができる、アレックスさんなら育てられるかもですね」

 笑顔で言われた。


「それでですねぇ、根つきの薬草をいくつか採取してくれる人を紹介してもらえないかと思って、冒険者ギルドに行こうか? とも考えたんですけど、取り敢えずこちらでも聞いてみようと思って」


「なるほどね。勿論うちでもご紹介可能ですよ」


「本当ですか! 助かります!」


「では早速依頼に出しますか?」


「はい! 是非お願いします」


「種類は? 回復ポーション用と魔力ポーション用の薬草だけでいいですか?」


「そうですねぇ。それに加え、毒消しのポーションにも挑戦しようと思いまして、これなんですけど」

 俺は家から持ってきた「ポーション作り」の本に載ってある「毒消しポーション」に必要な、薬草の絵を見せた。


「なるほど……」


「これなら多分、採取可能だと思いますよ」


「では3種ですか?」


「そうですね。取り敢えず今回は3種類をお願いしたいです」


「ではすべて根つきにしますか?」


「そうですね、それでお願いします」


「100本で10000ペニーが1セットになります。3セットでよろしいですか?」


「そうですねぇ今回は念のため枯れてもいいように、2セットづつ600本お願いしたいんですけど、大丈夫でしょうか?」


「わかりました。手配しますね」


「助かります!」


「では、報酬金額は60000ペニーになります。それと手数料10%を含め、66000ペニーになりますがよろしいですか?」


「はい、お願いします」


「では、依頼が完了したらご連絡しますね」


「お願いします!」


 アリサさんにお願いしてギルドを出た。

 家に帰る途中、雑貨屋に寄ってポーション瓶を追加で買った。


 結構の出費だったけれど、もし薬草を自分で育てることができるようになれば今よりもっと安定した収入を得ることができるかも? と思うと俺は期待を膨らました。



「お腹が空いてきたなぁ。お金も入ったことだし、久々に外で食べて帰るか!」


 俺は近くの食堂へ向かった。

 1年程前にできた店で、気になっていた店だ。



「いらっしゃいー」

 元気なおばちゃんの声がしている。


 店内はとても明るく、昼前だから客も多く賑わっていた。


「いらっしゃいませ。ちょっと今いっぱいで、ここで待ってもらっていいかい?」


 ふくよかで、愛想のいい女将さんが俺に声をかけてきた。


「あ、忙しい時間にすいません」


「いいってことよ。お兄ちゃん見ない顔だねぇ」


「ええ、あまり外食することがないんで……」


「そうなのかい? おや、空いたよ。どうぞ、こちらへ」

 と、案内された。


 メニューを見て店員さんにお願いし、待っていると、入口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「腹へったなぁ」


「おい、席いっぱいかよ!」


「チッ空いてねぇのかよ」


「おめーがちゃんと席取っておかねーからだろ!」


 大きな声で話をしているその声に、置いてあった植木の影に隠れるようにぎゅっと身を小さくした。


「おい! あれ、見てみろ!」

「あれ、クズアレックスじゃねえか?」

「なんだって?」


 ばれた……


 流石、弓使いの「フレドリー」だ。

 彼は子供の頃から視力が凄く良かったのだ。



「なんだよ、あんなクズが食いにきてるような店かよ」

「たいしたこねぇ店だな」

 ブラッドとマルセルの声がした。


 その時、


「ちょっと、あんた達、ウチの店にケチつけようってのかい? そんな奴らは客じゃないよ! 出ていっておくれ!」


 先程の女将さんが、ブラッド達に噛み付いた。



「なんだと? このババァ!」


「俺達を誰だと思ってるんだ?」


「生意気な!」


「こんな店!」


 ガシャン! 何かが倒れる音がした。


「何だ? 何だ?」

 ザワザワしだす。


 俺のせいで……

 なんの関係もない、女将さんや、他の客にも迷惑を……



 俺は立ち上がり、店を出ようとした

 その時、


「兄ちゃん、あんたは悪くないよ!」


「こんなバカな客なんかこっちから願い下げだよ! とっとと帰っておくれ!」

 女将さんがブラッド達に強く言った。


 俺はそんな凛とした態度をとる女将さんを見て、今まで逃げてばかりの自分を恥じた。




 変わらないと!


 俺も変わらないと!


 そう思い、俺は再び立ち上がり、入口にいる元パーティーメンバーである『暁』の前に立った。


 俺はブラッドの目をしっかり見ながら

「久しぶりだなブラッド。俺達の前に二度と現れるな! ってあの日言ったのはお前たちの方だぞ。だから、お前達も俺の前に二度ともう顔を見せないでくれ! 俺とお前達はもう何の関係もない! だから俺にもう二度と関わらないでくれ!」


 ブラッドにそう言うと、ブラッドは怒りに震え鬼のような形相で俺を睨みつけ、

 近くにあった水の入ったコップを俺に投げつけようとした。



 俺は咄嗟に目を閉じてしまう





 バシャ!


 コップを振り上げたブラッドの手から水が溢れ出し、溢れた水がにかかっていたのだ。


「何? アレックス! お前何をした?」


「何を? 何もしてないだろ!」


「勝手にお前が怒って、勝手に……」

 ブラッドを見ると、びしょ濡れだ。

 周りのお客からは、クスクスと笑い声が聞こえる。


「まあいい。今日のところは、見逃してやる!」

「おい! お前ら! 気分が悪いから帰るぞ!」と言い残し

 元パーティーメンバーの『暁』のやつらは、そそくさと帰って行った。




 しかし……さっきのは何だったんだろう?


 コップの水が勝手に溢れ出して流れた?

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