第38話幕間8アンリーヌの死闘 その2
体力や魔力を回復させる薬も残り少なくなり、終わりが見えない戦いを切り抜けるには自然回復を図るしかなかった。
「これだけ連続で戦ったのは初めてだぞ」
「私達もよ」
「これ以上の強敵が現れたら、俺達の手に負えないぞ」
「古代龍様は、ここで何をさせようとしているのかしら?」
「知るか。呼ばれたのはお前だろ」
ヒラリオは私への対抗心をなくしているし、他の者も無口になってしまっている。
「必ずここを攻略して古代龍様に認めて頂くわ」
確かにこのダンジョンはS級冒険者でも攻略は難しそうだが、この世界を変革する為には今以上の力が必要なのだと教えられているような気がした。
「変革する者が何をするのか知らないが、俺達は普通の冒険者で十分だぜ。なぁ!」
ヒラリオの言葉に放浪の探究者のメンバーが頷いている。
「今は無事に戻るために、協力し合うしかないようね」
「そうだな」
携帯食を口にした後は、全員が無口になり体力の回復を図った。
一日休むと洞窟の奥へ進んだ。
石壁で出来た何もない広間に出ると、石壁の一部が崩れて人型を形成していった。
人間の大きさと変わらない石の人形は、ゆっくりとした動きで私達を見つけると唸り声を上げた。
それに反応したのか壁が数か所崩れて、同じように人型を形成していった。
「ゴーレム。それも六体だと! 撤退だ!」
ヒラリオが振り返ったが、通ってきた洞窟は消えていた。
「任せなさい」
フロリアがステッキを翳すと火の玉が飛び、ゴーレムを破壊した。
「やるな!」
ドルフが負けじと掌をゴーレムに向けると、無詠唱で破壊した。
「ゴーレムなど魔法使いの敵じゃないさ」
ドルフが高笑いを上げている。
六体のゴーレムが倒れると新たな洞窟が出現した。
「この壁は鉄鉱石のようね」
新たな広間の壁は鈍い光を放っていた。
「鉄鉱石で出来たゴーレムと言う訳ね」
笑みを浮かべるフロリアの魔法があっさりと倒すと、ドルフの魔法もひけを取らなかった。
「この広間には入らない方がいいわ。あの壁の白銀の輝きは、鋼鉄より遥かに硬いミスリルの輝きよ」
カトリエが言うように次の広間の壁は、白い輝きを放っていた。
「ミスリルゴーレムだと、私の魔法では通用しないかも知れないわ」
カトリエが表情を曇らせている。
「確かにミスリルは厳しいが、二人の同時攻撃なら何とかならないか?」
「タイミングが合わないと意味がないわ」
「合わせてみせるさ」
「どうせ後戻りは出来ないのだから、行きましょう!」
ドルフの自信を信じて進む事にした。
「おいおい。マジかよ、でか過ぎないか!」
ヒラリオ達が驚くのも無理はなかった。ミスリルの壁が崩れて現れたゴーレムは、人間の三倍近い巨体だったのだ。
「遣るしかないだろ。カトリエの最強魔法は?」
「フレームブレスよ」
「フレームブレスの火力を俺のフレームストームで十倍に引き上げてやる」
「そんな事をしたら全員焼け死んでしまうぞ」
「ここは、古代龍様の盾を信じるしかないわね」
私が腰を落として盾を構えると、全員が後ろに隠れた。
「行くわよ!」
カトリエがステッキを掲げると、劫火が白銀に輝くゴーレムを包み込んだ。
「行くぞ、フレームストーム!」
渦巻く炎の嵐が劫火を増幅させて、ミスリルゴーレムを包み込んで溶解させていく。
熱風が私達を襲ってきたが、古代龍様の盾は溶ける事なく守ってくれた。
膝を衝いたゴーレムが崩れだすと新たな洞窟が現れたが、完全に溶解する前に炎が消えてしまった。
「不味いわ。ゴーレムが再生する前に洞窟に駆け込むのよ!」
私の掛け声で、魔力を使い果たしたカトリエを背負ったオルタを先頭に走り出した。
ゴーレムが復活すれば洞窟が閉じる可能性があったが、しんがりを務めたヒラリオが無事に逃げ込む事が出来たので先を急いだ。
「また、ゴーレムか? もう、魔力は残っていないぞ」
蒼ざめたドルフは、ムサイに肩を借りないと立っていられないようだ。
大きな扉の前に二体の像が立っていたが、私達を見ても攻撃はしてこなかった。
「こいつらは門番で、こいつらを倒さないと中に入れないようだな」
「ここが最後の部屋だとすると、中にはダンジョンボスが居る事になるわね」
私の勘が最終決戦を予感させていた。
「ここが最後でなかったら、地上に戻るのは諦めるしかないだろうな」
「残っている回復薬を使って、少しでも体力と魔力を増やしておきましょう」
回復薬を分け合って最後の決戦に備えた。
私とヒラリオの斬撃が門番を倒すと大きな扉が開いた。
大広間の奥の玉座には、一つ目の巨人が座っていた。
「奴がボスだな」
「そのようね」
「行くぞ!」
玉砕覚悟で突っ込んでいったヒラリオだったが、巨人が座ったまま無数の棘がついた棍棒を振り回すだけで近づく事も出来なかった。
「スキル、氷結の斬撃!」
湖面を凍らせた最強の一撃を放ったが、あっさりと受け止められてしまった。
「一斉攻撃よ」
私達九人は全力で巨人に向かっていた。入ってきた扉が閉じられ、ボスを倒す以外に生き延びる術がないのだ。
立ち上がった巨人の一つ目が大きく開いて光ると、全てが終わった。
共闘していた放浪の探究者のメンバーが、私達氷結の乙女に刃を向けてきたのだ。
「どうした、止めろ!」
一人だけ仲間から刃を向けられたブライが叫んでいる。
どうやら巨人の眼光には、生き物を操る力があるようだ。
ダンジョンボスだけでも強敵なのに、放浪の探究者が敵に回っては私達に勝機はなくなってしまった。
古代龍様に認められたと思い上がっていた事を悔い、決死の覚悟で最後の一撃を巨人に叩き込もうとした時、轟音と共に鋼鉄の扉が吹き飛んだ。
私達が切り開いてきた道を辿ってきたのだろうが、誰が来てもこのダンジョンは普通の人間では攻略出来ないのだ。
「奥にいる巨人の眼光に気をつけろ」
私は大広間に入ってきた者に忠告すると、巨人に向かって行ったがヒラリオに阻止された。
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