第28話無双のデッサン解散


 オオカミの搬入が完了して数日後、無双のデッサンと悠然の強者はトドンドさんのお屋敷に招待されていた。


「先日は護衛任務ご苦労様でした。本日は毛皮の処理が終わりましたので、その報告をさせて貰うためにお越し願いました。その前に家の者を紹介させて頂きます」


「家内のラリカでございます。先日は主人が危ないところを助けて頂いたそうで、ありがとうございました。今日はお食事をご用意しておりますので、ごゆっくりしていって下さい」

 改まった口調のトドンドさんの隣にいた、少し太めだが品のいい女性が丁重に頭をさげた。


「娘のサーシアです。父から皆様の冒険談を聞き、お会いするのを楽しみにしていました。素敵なお話しをたくさん聞かせて下さい」

 奥さんの隣にいたドレス姿の女性が、ペコリとお辞儀をした。


(あれが、トドンドさんの娘さんか、美しい女性だ)

 僕は時折向けてくるサーシアさんの視線に気づき俯いた。八頭身でロングの金髪に透き通った水色の瞳、落ち着いた美しさが漂っている。


「娘はまだ十六才でして、躾が行き届いておりませんので、失礼がありましたらお許し下さい」


「奥様、ご冗談を。我々のような荒くれた仕事をしている者には、お嬢様の美しさは眩しすぎますよ」

 ライフさんが顔を赤くしている。


「確かに、お美しいです」

 いつも冷静なカインさんまでもが呆けた顔になっている。


「少し仕事の話しがあるから、二人は向こうで食事の準備を手伝ってきなさい」


「はい」

 ラリカさんとサーシアさんは、お辞儀をして応接間を出ていった。


「先ほどもお話ししましたが、オオカミの毛皮が予想以上の高値で売れましたので、皆様にその一部をお支払するためにご用意しました」

 トドンドさんが革の袋をテーブルの上に出した。


「かなり重たそうですが、どれだけ入っているのですか」


「金貨百枚です」


「セミコン村で仰っていたのは一頭辺り銀貨五枚でした。我々は解体もしていませんから、かなり多すぎますよ」

 グランベルさんをはじめ全員が驚いている。


「それだけ儲けさせて頂きました」


「せっかくだから貰っておこうぜ」

 ライフさんがグランベルさんの肩を叩いた。


「そうですよ。それと、六人では分けづらいでしょうからもう二十枚、私のポケットマネーから出させて貰います」

 トドンドさんは小袋を隣に並べた。


「いくら何でも、それは受け取れませんよ」


「トドンドさん、太っ腹なのはありがたいのですが、何か魂胆がありませんか?」


「カインさんには敵いませんな。私どもジムニー商会は半年に一度は商売に出掛けます、その時の護衛を信頼のおける皆さんに専属的にお願いしたいのです」


「それは我々全員にと言う訳ですか?」

 カインさんは僕を見詰めてきた。


「はい。悠然の強者と無双のデッサンは、私どもの護衛の仕事を最優先に考えて頂くと言う事です」


「我々は構わないが、ミリアナ達はどうなのだ?」


「討伐任務に比べてれば、護衛任務は安全だから構わないわ」

 ミリアナさんは乗り気ではなさそうな表情で、グランベルさんに答えている。


「では、決まりですね。よろしくお願いしますよ」

 トドンドさんは革の袋を差し出した。


 見計らったようにドアがノックされ、メイドが食事の準備が出来た事を伝えにきた。


「仕事の話しはここまでにしましょう。今日はゆっくりと楽しんでいってください」

 トドンドさんに案内されて全員が食堂に移動した。




 緊張しぱなっしだったジムニー邸から『夕焼け亭』に戻った僕の部屋に、ミリアナさんが訪ねてきた。


「タカヒロ、今日で無双のデッサンを解散しましょう」

 ベッドに腰掛けるなり、ミリアナさんが切り出してきた。


「突然どうしたの?」


「サーシアさん、綺麗な人だったわね。それにタカヒロの事も気にいったみたいだったし、タカヒロも満更ではなかったでしょ」


「確かに美人だったけど、それと解散とどんな関係があるのだい?」


「タカヒロはジムニー商会に就職しなさい。トドンドさんも望んでおられる事だし、冒険者より遥かに安全だから私も安心だわ」

 ミリアナさんの声はいつもより低くなっている。


「日本に帰るまでにはまだ九年以上あるから商売を勉強するのもいいかもしれないけれど、今すぐ無双のデッサンを解散する必要はないのじゃないかな」


「私はタカヒロの命を守りたかっただけだから、安全な生活が約束されるならそれでいいの。私はもう一つの夢を目指して頑張る事にしたわ」


「もう一つの夢?」


「そう、師匠と同じS級冒険者になる事。商売人を目指すタカヒロのお守をしていては叶えられない夢なの。だから解散よ。日本に帰る時は連絡をしてね」

 ミリアナさんはそれだけ言って、僕が止めるのも聞かずに部屋を出ていった。


(相変わらず強引なのだから。S級冒険者か、ミリアナらしい夢だな)

 僕は深く考える事もなく眠りについた。


 翌朝、ミリアナさんの部屋を覗くと、すでに引き払われていた。

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