第86話、妹は甘えんぼう

 秋は美味しい物がいっぱいだ。


 栗にさつまいも、かぼちゃといった食材がたくさんあって食の誘惑が多い季節だ。


 文化祭が開催されるのは10月、秋真っ只中。


 そんな季節柄を考慮して文化祭で提供するお菓子を決めるのはどうだろうかとペンを走らせる。


 スイートポテト、かぼちゃプリン、栗を入れたマフィン、この辺りなら売れると思うのだがどうだろう。


 美味しさだけでなく作りやすさや保存性、提供のスピードなど、それに見た目が映えるかどうかも重視してメニューを選ばないといけない。俺はますます真剣に考え込んでいた。


「お兄ちゃん、すっごく真剣だね~。何を考えてるの?」

「今度の文化祭で出すスイーツ。俺がそのメニューとかレシピを考える事になったんだ」


「ほへー。流石はお兄ちゃん。クラスでも人気者なんだ」

「そんなわけでもないよ。同じクラスで友達って言えるのは玲央くらいだし。真白は別のクラスだから休み時間以外だと話せないしな。もう一人、西川って友達もいるけどあいつもクラス違うから」


「今朝お見舞いに来てくれた玲央さん? 同じクラスなんだー」

「そういえば舞、玲央と話す時めちゃくちゃ緊張してたよな」


「だって緊張するよー。お兄ちゃん以外であんなイケメンさんと話したの初めてだし、それになんかオーラが凄くてお上品なんだもん」

「なんだそれ。舞は大袈裟だな」


「そんな事ないって。玲央さんって学校でも凄くモテてるでしょ? もしかして彼女とかいたり?」

「彼女はいないな。欲しいって話も一切しないし、恋愛事はあんまり考えてないんじゃないかな」


 原作の『ふせこい』でも玲央に恋人が出来たという話はなかった。あれだけのイケメンなのだから引く手数多だろうし、実際に玲央と付き合ってみたいと考える女子生徒は多いだろう。


 しかし今まで彼女の噂やそういった話は聞いた事がない。

 人当たりは良くて誰に対しても優しい対応をするけど、恋人を作るような素振りはないのだ。


 バスケに全力で色恋沙汰に興味が湧かないんだろうか? それとも何か理由があるのか……謎に包まれた部分である。


 俺の話を聞いていた舞はふむふむと呟きながら、腕を組んで頭を悩ませている。


「それにしてもお兄ちゃんの方も意外だなー。クラスで大人気で友達たくさんいるかなって思ってた」

「まさか。一学期の頃は授業の大半をサボってたし、有名な不良だからって怖がってる生徒の方が多い。最近は真面目にやってるんだけどな、友達になってくれる人は少ないよ」


 友達を増やす為にも文化祭でみんなと協力して結果を残したい。もちろん他のクラスの人からも文化祭を機会に、俺が怖くて近寄り難い不良ではなく真面目で誠実な普通の男子高校生である事を知ってもらいたい。


 一学期の期末テストで俺はその土台を作っている。文化祭を通じてクラスメイトとの信頼関係を構築する為にも、今はたくさんのアイデアをノートにまとめているところなのだ。


 舞はお菓子のレシピが書かれているノートを覗き込んでから、にまーっと楽しそうな笑顔を浮かべる。


「それで今、文化祭の為に頑張ってるんだねー。偉いね、お兄ちゃん」

「まあな。舞も楽しみにしててくれよ。それと真白のクラスはメイド喫茶やるらしいから、そっちの方も期待大だな」


「真白さんのメイド服姿……!? もしかして写真も撮り放題? スマホの容量いっぱいになるまで撮ってもいい?」

「校内での生徒の撮影は禁止。今はプライバシーとか厳しいからな」


「ええー! 真白さんのメイド姿とか絶対に可愛いのに~!」

「残念だったな。メイド服の真白を瞳に焼き付けとくだけにしとけ」


 ぶーぶー文句を言う妹の頭をぽんぽんと撫でる。それだけでも機嫌を治してくれるので、こういう時は本当にチョロくて助かる妹だ。


「へへっ……お兄ちゃんがなでなでしてくれたらもうどうでもよくなった!」

「そうか。それじゃあもう満足だな。ほら、先に風呂入っとけ」

「はーい、満足です! お兄ちゃんも文化祭の準備頑張ってね、ばいばーい!」


 用を済ませた舞は俺の部屋からぴょこんと跳び跳ねるように出て行く。


 甘えたりわがままを言ったりと忙しい妹だ。

 前世では一人っ子で妹が欲しかったと願っていた事もあるので、こうして元気いっぱいに懐いてくれる舞が可愛くて仕方がない。


 俺を慕ってくれる妹に背中を押されながら、文化祭のメニューをどんどんと練っていくのだった。

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