第49話、新たな策略
「ただいまー」
「おかえり、お兄ちゃん! 真白さんとのお部屋キャンプどうだったー?」
「すごく楽しかったよ。停電が良い味出してたな」
「そかそか。一時はどうなるかと思ったけど、お兄ちゃんが楽しめたなら良かったあ」
朝から真白とのんびりとした時間を過ごした俺は昼前に自宅へ戻り、待っていた妹の舞が玄関で出迎えてくれる。
午前中は二人でソファーの上で寄り添いながらゆったりとくつろぎ、お互いのスマホで動画を見たりして、いつもと変わらない時間を共有し合った。
そんな穏やかな時間を過ごした事で真白も満足したのか『午後からはお部屋のお掃除と、夏休みの課題やっちゃうね。龍介、付き合ってくれてありがとうっ』と元気いっぱいに俺を送り出してくれた。
寂しがりな真白の心を少しでも癒せたのであれば俺としても嬉しい限りだ。また寂しそうにしている気配を感じたら、すぐにでも真白の家に行こうと思う。
何より真白と二人で過ごす時間は幸せそのものだ。
胸の中はぽかぽかして落ち着くし、甘えてくる真白が可愛くて仕方ない。
ただ一つだけ問題があるとすれば真白の無防備さだろうか。
幼馴染という関係もあって俺と真白は距離感が非常に近い。それは今に始まった事ではなく小学生の時からずっとこんな感じだ。
その距離感もあって、真白は時々無意識に俺を誘惑してくる。
俺の脚の上に座ったり、後ろから抱きついてきたり、くっついて頬ずりしてみたり。
俺の理性が試されるような場面も多く本当に心臓に悪いものだ。それでも甘えたがりの真白が可愛くてついつい俺も許してしまう。
幼い頃からの付き合いで真白から信頼されているという証拠なんだとは思うんだが、あまりに無防備過ぎて男として意識されていないんじゃないかとも思ってしまう。
まあ……男女の恋愛に疎い俺なんかが、真白が俺の事をどう思っているかなんて分かるはずもないんだけどな。
そんな風に考えながら靴を脱いでいると、舞が俺の顔を覗き込んでいる事に気が付いた。
「どうした舞。俺の顔に何かついてるか?」
「ううんー。お兄ちゃんがうらやましいなーって。あたしも真白さんといっぱい遊びたいなーって」
「舞は真白の事が好きだよなあ。俺よりも懐いてるし」
「だって真白さんはあたしにとって理想の優しいお姉ちゃん的な存在だもんね。ちっちゃい頃からずーっと可愛がってくれて、あたしも真白さん大好きなんだー」
「確かに真白ってお前の事、妹みたいに可愛がってるよな」
「うんうん。それに真白さんっていつも甘くて良い匂いするし、おっぱいもおっきいしさ。はああ……真白さんのおっぱいに顔を埋めながらお昼寝したいよお……頼んだらさせてくれないかな?」
「めちゃくちゃ煩悩に
俺の話なんて聞いていない様子で舞はだらしなく頬を緩ませながら、真白と戯れる妄想に浸っているようだ。
いや確かにその気持ちは分かるけど、俺だってあのたゆんたゆんで柔らかくて甘い香りのするマシュマロみたいな胸に包まれて眠ってみたい。けれどそれを口に出す度胸はないし、実行に移したら間違いなく真白に怒られる。
それをこうも簡単に口にする俺の妹は変態なんじゃないかと思いながらも、俺は靴を片付けてリビングの扉を開ける。妹はまだ何か用事があるのか、俺の後ろにくっついて一緒に入ってきた。
そして俺が昨日のキャンプで使った荷物の整理を始めようとすると、そのすぐ隣でニコニコしながらスマホをいじり始める。
「お兄ちゃん、次は真白さんと海水浴に行くんだよねー?」
「まあな。今年の夏は真白と遊び尽くすって決めてるから」
「そしたら海水浴に向けて準備しないとね、水着でしょー? ビーチボールとか浮き輪、あとはタオルとかサンダルとか、日焼け止めは絶対必要だよねー」
そう言いながらスマホで通販サイトを開いて、ぽちぽちと海水浴に必要なものを検索し始める舞。でも何故か、その画面には女性ものの水着や女性向けの海水浴グッズばかりが表示されていた。
なんだろう、この妙な違和感のある光景は。
舞が見ているそれらの商品は全て、どれもこれも舞が使うもの。
この様子だともしかして。
「なあ、舞。もしかしてお前、ついてくるつもりなのか……?」
「え”っ!?」
俺の言葉を聞くなり、舞はぴたりと動きを止めてしまった。それから恐る恐るという様子でこちらを見つめてくる。
「……まさかとは思うけど、ダメ?」
「いやいや、お前。夏休みは部活で忙しいって言ってなかったか?」
舞は中学で陸上部に入っており、夏休みは毎日のように練習だ。今日の午前中も舞は学校のグラウンドでランニングをしてきただろう。
もちろんそれは夏休み中ずっと続くはず、大会が近いから練習漬けになるって言っていたし、だから夏休みの間は遊んでいる余裕はないような話を聞いていたのだが。
「だってだって大会よりも大切な事なの! 真白さんの水着姿が見たい! 見たい見たい!」
「お前の中では大会よりも真白の水着姿が優先なのかよ……」
「海水浴だって良いトレーニングになると思うし! 行きたい行きたい! 絶対行きたいよー!」
舞は両手を合わせて懇願してくる。うるうると瞳を潤ませながら必死に頼み込む姿には、どこか鬼気迫るものがあった。
こうなると妹は俺がうんと頷くまで絶対に諦めない。以前も似たような事があったから分かる。今もし断っても、それから毎日のように夜通し泣きつかれて寝る暇すらなくなるんだ、この場合。
「分かったよ。それなら妹を連れていっても良いか真白に聞いてみる。あいつが良いって言えばついてきてもいいぞ」
「やったあ! ありがとうお兄ちゃんっ!!」
「ぐへっ……」
俺が承諾すると舞は嬉しさのあまり飛びついてきた。
舞は俺に抱きつきながら喜びを爆発させている。けれど妹の中で嬉しさを爆発させている正体は、真白の水着姿が見れる事なので何だか複雑な気分である。
そうして俺は溜息混じりにスマホを取り出して、真白と連絡を取ろうとRINEを開くのだった。
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