第46話、お部屋でキャンプ③
二人でコーヒーを飲みながら他愛も無い話をしていた俺と真白。
穏やかで静かな空間でくっつき合い、お互いにゆったりとした時間を過ごしていた。
テントの中で真白は俺の肩に頭を乗せていて、俺は彼女の頭を優しく撫でる。さらさらの黒髪を手ぐしでとかすように、ゆっくりと丁寧に触れていく。
こうして撫でられるのが真白は好きだ。
今も幸せそうに目を細めながら、もっとして欲しいとばかりに俺の方へとすり寄ってくる。
そんな真白が可愛くて、少し悪戯心が芽生えた。
柔らかそうな白い頬を指先で撫でると、真白はくすぐったそうに身を捩らせる。
甘い息を漏らしながらとろんとした瞳で見つめてくる真白。
ランタンの光でぼんやりと浮かぶ顔が妙に色っぽく見えてしまって胸がざわついた。
そして俺は湧き続ける悪戯心を抑えきれないまま、頬から手を滑らせて真白の顎の下をくすぐる。
すると真白は猫のように気持ち良さそうに喉を鳴らした、どうやらお気に召したらしい。
無防備で可愛い真白、俺に身体を預けてされるがままになっている。今なら何処を触っても許してもらえるような雰囲気があって、俺はほんのりと赤く染まる小さな耳に手を伸ばしていた。
耳たぶを軽く摘まんでみると、真白はぴくりと小さく震える。その反応が面白くて何度も繰り返してみると、真白はもどかしそうにしながら上目遣いで俺を見つめた。
「今日の龍介、なんかずるい……っ」
「何がだ?」
「だって、こんなにいっぱい甘えさせてくれるの珍しいし……いつもより優しいからドキドキしちゃう」
「真白だっていつもより甘えん坊だろ。普段よりくっついてくるし」
「……今日は特別だから。仕方ないもん」
「確かにそうだな。じゃあ、もう少しだけ特別な日を続けようか」
真白は恥ずかしそうにもじもじしながら、こくりと小さく首を縦に振ってくれた。
今日という日を特別な日にしたい、幸せな夏の思い出をたくさん作りたい。
真白も同じ気持ちだからこそ、こうしていつもよりずっと甘えん坊になっているのだろう。
この時間を大切にしようと思えば思うほど、お互いの想いは強くなっていく。
悪役だって青春したい。
そう願って臨んだ夏休み。
その始まりの日は真白のおかげで幸せに包まれた一日となっていた。
真白はこちらを向いて潤んだ瞳で見つめる。青い瞳は潤んでいて吸い込まれてしまいそうな程に綺麗だった。
「ねえ、龍介。次は海に行こうね、夏祭りだって、花火大会だって行きたいな」
「そうだな。まだまだ夏は始まったばっかりだし、これからどんどん楽しい事していこう」
「うん。わたし、すっごく楽しみにしてるから」
「ああ、俺もだ」
ふにゃりと柔らかく微笑む真白の顔は本当に幸せそうで、見ているだけで俺まで嬉しくなってしまう。
可愛い真白の事をもっと甘やかしたくて、俺は彼女の身体を優しく抱きしめる。真白ももっと甘えようとぎゅっと抱き着いて俺の胸の中でうずくまる。
真白の小さな身体は俺の腕の中に収まってしまい、こうして包み込むと真白がいかに小さいのかがよく分かった。
華奢で、壊れてしまいそうなくらいに繊細で、それでいて柔らかい。甘くて熱っぽい吐息を漏らす真白をそっと撫でながら俺は静かに目を閉じる。
(落ち着くなあ……)
心の中でそう呟くと同時に段々と眠くなってきた。
真白の甘い香りに包まれて、優しい温もりと柔らかさが心地よくて、意識がふわりと飛んでいきそうになる。
俺の様子に気付いたのか、真白の小さな笑い声が聞こえて、まるで子供をあやすかのように背中をぽんぽんと叩かれた。
「龍介、ねむい?」
「ん、ちょっとだけな」
「いいよ、寝ても。わたしが寝かしつけてあげる」
「それは嬉しいけど。でも、このままだと俺が真白を抱き枕にするみたいになっちゃうぞ」
「龍介の抱き枕にして。むしろもっとぎゅーってしてほしい」
俺の事をあやしながら真白がそんな事を言ってくるものだから、胸の奥がじんと熱くなる。
そして真白に言われた通り、腕の中に収めた彼女をもう少しだけ強く抱きしめる。
それからゆっくりと身体を倒して、真白と一緒にテントの中で横になった。
鳴り響いていた雨の音も風の音もようやく落ち着き始めたのか、雨粒がぽつぽつと窓を優しく叩く音だけが聞こえる。
重い瞼を開くと目の前には幸せそうな表情の真白がいる。ほんのりと赤く染まった頬、柔らかで潤んだ唇は優しく弧を描き、長いまつ毛で縁取られた青い瞳は俺だけを映している。
真白はふやけたような笑顔を浮かべて瞳を閉じた。
「おやすみなさい、龍介」
「おやすみ、真白」
囁き合うように言葉を交わす。
真白の優しい息遣いと穏やかな雨音が俺を夢の世界へと誘っていく。
最後にもう一度だけ真白をぎゅっと抱きしめてから俺もゆっくりと瞼を閉じた。
今夜は素敵な夢が見れそうだ。
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