第6話、悪の結束

 真白からの軽快なトークを聞きながらうどんを食べ続ける俺。


 この子にはたくさんのギャル系の友人がいるようで、食事の途中で俺の席の周りがギャルだらけになった。


 真白以外のギャル達からも進藤龍介という人間は有名人らしく、悪役としての立場を確固たるものにしているのを再認識する。


 俺が学校に居る姿を見て、もうすぐ夏なのに雪が降りそうだとか、空から隕石が落ちてきそうだとか、それはもう散々な言われようだった。


 だが真白だけは俺に優しい言葉をかけてくる。いくら俺が彼女に冷たく接しても離れないのは小学生時代からの幼馴染という関係故らしい。幼い頃から二人が育んだ絆は固く、ちょっとやそっとじゃヒビさえ入らない。


 これがラブコメの主人公側の話なら俺と真白で甘酸っぱい青春を送れるのだろうが、悪役サイドである俺達の場合は少し事情が違うのだ。


「龍介、聞いてよー。生徒会長の桜宮先輩がね、風紀が乱れるからってわたし達の服装を注意してくるんだよ。おかしくない? この学校の校則じゃ服装も髪も自由にして良いって決まりじゃんっ」


「真白ちゃんも言われたの~? あたしもさっき廊下で注意されたよ、スカートの長さとか髪の色とか。うちの生徒会長ってマジうざいよねー。言うだけ言って屋上行っちゃうし」


「真白っちと菜々っちも? それヤバくない? ボク達は校則の範囲で好きにやってるのにさ~、いつかとっちめてやんないと!」


 ギャル達が愚痴を言い合っているのを聞く限りだと、彼女達はヒロインの一人である生徒会長『桜宮美雪』と敵対する立場らしい。


 俺の知る悪役を任された不良ギャルの活躍と言えば、才色兼備で性格も良いヒロインを妬み『調子乗んな!』と詰め寄ったり、気に入らないという理由でヒロインを精神的に追い詰めたり意地悪したりと、そういう悪事を働くパターンが定番だ。


 だがその悪事は総じて主人公によって阻止されるか断罪されて、主人公とヒロインの仲を縮めるイベントとして消化される。実際『ふせこい』の中にもそういった展開があった。


 要するにだ。


 ここにいる俺達は揃いも揃ってただの噛ませ犬で、そしてそんな俺達の間で発生する関係は恋愛のような甘酸っぱいものではない。主人公と戦う為の悪の結束といったところなのだ。


 そしてその先にあるのは絶対的な敗北、いくら巧妙に策を練って主人公達を引きずり降ろそうとしても、迎える結末は必ずバッドエンドに収束するだろう。


 それが原作にもあった未来の光景で、俺達はどうあっても主人公とヒロインとの絆を深めるイベントの、乗り越えられる壁にしかならないのだ。


 彼女達との関係が続けば俺は決して悪役という立場を脱却出来ない。なんとかしてこの悪の結束から抜け出し、破滅する未来を回避して、誰もが憧れるような青春を送らなければ。


 明日からは彼女達に絡まれないよう弁当が必要だろう。食堂での食事は危険、それがはっきりと分かったからな。


 再び決意を固めた俺は空になった食器を持って立ち上がる。


「真白、俺は戻るから。じゃあな」

「龍介? まだ昼休み30分くらいあるじゃんっ! もう戻っちゃうの?」


「ああ。授業まで寝たいからな」

「授業って……龍介が学校に来てるだけじゃなくて、授業まで受けてるって。うそ、本当に何があったの? 何か悪いものでも食べた?」


「俺は至って健康だぞ。ただ昨日は随分と遅くまで起きてたみたいでな、今めちゃくちゃ眠いんだ」

「なるほどー。龍介は夜更かし常習犯だもんねっ。昼夜逆転生活が龍介の基本だし」


 信じられないという顔で俺を見つめてくる真白だったが、俺が眠そうに目を擦る姿を見てうんうんと納得する仕草を見せる。


 まあ真白が驚いている理由も分かるのだ。俺が転生する以前の進藤龍介なら授業なんてサボり放題だった。でも今は違うのだ。


 転生してきた俺は悪役ではない違う人生を進む。出席日数もギリギリで内申点だって最悪そのもの。それを何とか挽回する為にも真面目に授業を受ける事で、俺自身が幸せになる努力が必要なのだ。


 食堂に集まったギャル達を置いて、俺は一人で返却口に食器を戻して教室へと歩き始める。


 俺が廊下を歩くと周囲の生徒は怖がったり、ひそひそと話し合ったりするのだが、とにかく今は我慢が大事。悪役として乱暴な行動をしても絶対に良い事はない。まずは優等生を目指していこう。


 そうして教室に辿り着いた俺は自分の席で突っ伏すように昼寝を始める。


 今頃、屋上では主人公である布施川頼人とヒロインである花崎優奈と姫野夏恋、そして桜宮美雪の四人がラブコメらしい会話をしているはずだ。


 俺もこの世界でそんな青春を送れる事を願いながら夢の中へと意識を手放した。

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