【GA文庫】ラブコメの悪役に転生した俺は、推しのヒロインと青春を楽しむ

そらちあき

第一章

第1話、転生

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悪役転生×青春やり直しラブコメ!

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 鏡の前には俺ではない俺がいた。

 茶色に染めた髪、耳にはいくつものピアス、鋭い切れ目に、厳つい顔つき。身長も高いし筋肉もある。


 朝日が差し込む洗面所の鏡の前で俺は頬をつねりながら考えていた。


 一体こいつは誰なのか。

 頬に広がるじんじんとした痛みと共に昨日の記憶が蘇ってくる。


 連日連夜の残業続きの毎日に休日出勤が何ヶ月にも渡って続いたせいで、アパートに帰った直後の俺は玄関でそのまま倒れるように眠ったのを覚えている。


 そして目が覚めたらベッドの上で横たわっていて、無意識の内にこの洗面所で顔を洗おうとして気が付いたのだ。自分が自分でない事に。


 知らない誰かになっている俺。よくよく見渡してみればここが何処かも分からない。俺の過ごす一人暮らしでろくに片付いていなかったアパートの一室ではない、掃除が行き届いていて他の誰かと一緒に生活しているような大きな一軒家だ。


 混乱した頭のまま俺は自分の手を見た。


 ごつごつとしている大きなその手が俺自身のものではない事は一目瞭然だった。何かを殴ったような古い傷痕が拳にいくつも残っていて、派手な骸骨のシルバーリングが指にはまっている。


「どうなってんだ……?」


 全く知らない別の声が俺の口から漏れ出す。明らかに聞き覚えのない声色だった。しかしそれは確かに俺の声なのだ。


 どうしたものかと悩んでいると、廊下の方から足音が聞こえてくる。慌てて俺は隠れようと思ったのだが……洗面所にこのガタイの良い体を隠すスペースなどあるわけもなく、結局はそのままそこに立ち尽くしていた。


 扉を開いて現れたその姿には見覚えがあった。知らないはずなのにどうしてかその人物が俺の妹だと理解する、理屈はさっぱり分からないが。


「え? お兄ちゃんがこんな時間に起きてる? 朝7時に? うっそ?」


 俺の姿を視界に収めて妹らしい人物は驚いた様子を見せていた。


 いつも始発の電車に乗って会社に向かっていた俺からすれば朝7時に起きるなんて遅すぎるくらいなのだが、知らない誰かになった俺からするとかなり早い時間になるらしい。一体どんな生活を送っているんだ、知らない俺。


「もしかして今日は学校行くつもりなの? そろそろやばそうだもんね、出席日数とか」

「あ? あぁ……」

「とりあえずあたしも朝の支度あるからそこどいて。お化粧とか出来ないじゃん」


 そう言って俺を押しのけ洗面所の前に立つ妹(と思わしき人物)は、ポーチの中から取り出した化粧品を手に取って鏡の前で化粧を始める。


 今の俺もかなり不良めいた風貌なのだが、妹もかなりのギャルっぽい見た目だ。ピアスはしてないものの俺みたいに髪の毛は茶色に染めているし、メイクも手慣れていて化粧でそのギャルさが磨かれていった。


 そんな姿を横で眺めていると、俺の頭の中を覆っていた靄がゆっくりと晴れていく。


 俺の頭の中に向けて語りかけるように、何かが今の状況を説明し始めたのだ。言葉ではなく抽象的で概念的なものだが、その内容をすっと頭の中に染み渡るように理解出来た。


 その謎の説明によれば、これは『転生』というやつで間違いない。


 死んでしまった人間が別の世界に生まれ変わって、その世界で成り上がるというアレだ。


 頭の中で続く説明によれば、この世界はいわゆる『ラブコメの世界』だという。


 どの漫画や小説、ゲームやアニメなどを舞台にしているかなどは今のところ不明だが、ともかく俺は若い男女が甘酸っぱい青春を送るポップな恋愛物語の世界に転生してきたという事だ。


 俺も高校や大学時代に漫画や小説、ゲームやアニメにどっぷりハマっていたし、今も熱心なオタクを自負しているから、異世界転生についても詳しいしラブコメの世界がどんなものなのかよく知っている。


 まさか自分が異世界転生するとは夢にも思っていなかったが、現に俺は別の誰かになっているわけで、こうなってしまえば信じざるを得ないだろう。というかそうでなければ今の状況を説明できない。


 でも記憶によれば俺は死んだ覚えがないのだ。


 もしかして……玄関で寝たつもりがあれは過労死で本当にそのまま――。


「お兄ちゃん、あたしの支度終わったよ。洗面所使っていいから、歯磨きしたり顔洗ったりしてきなよー。久しぶりの学校なんだからしっかりね」

「お。おう……」


 妹が出ていった後、俺は現状確認の為に鏡と向き合った。


 俺の頭の中に響いた説明の通り、過労死して転生したというのが間違いない事実だとするなら、俺は人生をやり直すチャンスを得たわけだ。


 友人もいなかった灰色の青春時代、勉強に明け暮れた末に受かった大学でもそれは変わらなかった。何度も面接を受けた先に就職したあの会社では過労死するまで働き続けた。恋人だっていなかった。


 ラブコメの世界に転生したのなら、可愛い幼馴染がいて、生徒会長と仲良くて、クラスの隣の席に美少女がいるような、ヒロインからモテモテの主人公になるのが定番だ。ここがラブコメの世界だと認識した今、そんな色鮮やかな青春に期待してしまうのは当たり前。


 だが、だが――。


「どう見ても、今の俺ってラブコメに登場する『悪役の不良キャラ』だろ……」


 ――二度目の人生もそう上手くはいかないようだ。



-★★★あとがき★★★-

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