イモータル・ハント~其は『最強』を断つ刃~

筆菜

序章:『完全飢餓』

最強の生命体、そして

 世の中には、己の力だけではどうしようのないものがいくつも存在する。他人の感情、天候、偶然によっておこる災害。

 そのなかでも、この世界群において最も理不尽であり、避けがたい災害が一つ存在する。


 最強の生命体イモータル。死の運命を否定するもの。あまたある世界の主として存在する、種族。

 それそのものが生き残るために、その世界に住まうほかの種族すべてを顧みないことすらあるような災害。ただの人にとっては何もなしえることのない、物語における大怪獣のような存在。それは、彼らが出現した際に共鳴リンクしたとされる無数の世界にそれぞれ存在している。


 彼らはその世界にただいるだけで、そこに住む人類たちに対して選択を迫ることになる。即ち、――――『共存』か、『排除』か。

 大半の世界では、共存を選ぶ。最強の生命体イモータルによっても様々な種類があり、害を与えるよりもむしろ共存しやすい形に進化したものもいる。そのような最強の生命体イモータルがいた世界は幸運で、むしろそれらを利用し産業とすることも出来るだろう。

 しかし、そうではない最強の生命体イモータルの方が多いこともまた事実だ。結局のところ最強の生命体イモータルは完全に消滅することはないが、一度退治することによって向こう数千年は復活しなくなるといわれているため『排除』の択は望まれやすい。しかし、そもそもそれを可能とする者たちは少ない。


 ――――それこそ、世界踏破者トラベラーでもない限りは手も足も出ない。そういうものだ。だからこそ、最強の生命体イモータルを狩るハンターとして私は今も生きている。



 今回の任務は、第1018世界の最強の生命体イモータル、『完全飢餓』の退治だ。自身周辺の空間に存在する土地の養分を吸い尽くし、枯れた土地にした後にまた餌を求めて移動するといった性質を持つ。被害としては甚大なものだが、対処するだけなら容易いタイプだ。物理が通るならそれが一番早い。危険度としても最低に近い四文字級だから、滅多なことさえなければ何事もなく退治することができると考えていた。


 『完全飢餓』の進行方向にはひとつの屋敷が存在していた。なんでも地方貴族が道楽のために建てた別荘のようなもので、そこでは他の世界のものを含む様々な作物を育てていたらしい。栄養を求める性質のあるアレにとっては格好の餌だろう。彼は自身のコレクションが惜しかったのか酷く屋敷に固執していたが、なんとか言い含めて屋敷を釣り餌として使う作戦を了承させた。

 だが、実行段階になってから「置いてきた奴がいる」などというのだから驚いた。作物の世話をさせていた使用人の少女だと言うが、特に何も言わずに出てきたという。「アレはあの屋敷しか知りませんからな、屋敷と共に死ぬというのなら本望でしょう」だと?全く胸糞悪い。自分の命さえ助かればいいなどという考えは理解こそできるが共感は全くない。ましてや幼子なら尚更だ。

 残された時間は少ないが、まだ間に合うはずだ。そう思い、予定よりも早く屋敷へと赴いた。



 時に、世界踏破トラベルを行うにあたっての注意点は少ない。

 まず、資格が必要だ。世界を渡るためのパスポートのようなものにあたり、これがなければ自分の生まれ育った世界から出ることも出来ない。尤も、目的を持たずに世界を渡ることも珍しいためそう高い水準は要求されない。観光目的や世界探索者ツーリストのようにただ世界を訪れ、そこで何かをするというのであれば容易に行える。

 それより大事なのは、「最強の生命体イモータルを倒すに値する力」だ。もちろん直接的な手段は必要となるが、それ以上に精神力が問われる。それは、と同義だ。何を切り捨て、何を優先するかをはっきりとさせないことには己が身すらも無碍に危険へと晒すことになってしまう。


 ――――そして、私はこの時迷ってしまった。


 彼女を助けてあげたい。その気持ちはもちろんあった。だが。

 それと同時に、「

 それこそが、私の過ちだったのだろう。



 これは、彼女と私の物語だ。だが、主役は決して私では無い。彼女が紡ぐ、彼女の物語なのだから。

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