好きとは言わない

小田カオリ

第1話 噂の男

「前の病院じゃ、各病棟に女がいたらしいわよ。」


先輩たちが噂をしている。


そんな医師が赴任してくるのか、なんか会う前からちょっと軽蔑しちゃうな。というか相変わらずよね、そんな情報どっから仕入れてくんのよ。


24歳の美里ミサトはそんなことを考えながら朝のカンファレンスの準備をしていた。仕事に集中しよう。


朝のカンファレンスを終え午前の検温や処置の準備をし、


「さあ行くぞ。」


と気合を入れる。なんせ美里の勤める病棟は病院一の激務と言われている部署だ。普通なら二つの病棟に分けるでしょ、というくらい仕事量が偏っている。緊急入院や急変、処置もしょっちゅうだ。


そんな激務だからすぐに看護士が辞めるし異動を希望するものもおらず慢性的な人手不足だ。ちなみに美里は新人で配属されてしまったので選択の余地がなかった。


「午前中にやれることはやってしまわなければ。もちろん患者に寄り添いながら。」


そんなことを考えながら鳥が羽ばたくような勢いで病室へと急ぐ。担当の患者に悟られない程度の猛スピードで午前の仕事を終えたのは2時間後のことだった。


さあカンファレンスルームに戻ろう。雑務も大量にある。一分一秒を争う。廊下を移動する時間すらもったいない。その上毎日一万歩は歩いている。看護士はみな尋常じゃない速さで歩けるようになる。美里もそうだ。


廊下を風を切るように歩き、カンファレンスルームに戻った美里の目前にいたのは白衣を着た見知らぬ男だった。

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