師匠の手紙。
おまめあずき
師匠の手紙。
その日、偉大なる魔法使い、アメジスト・シトリンが、この世を去った。
「師匠!? 師匠! 師匠!」
黒いくせ毛の髪を振り乱して、ベットに横たわっている一人の老人にすがるアクアマリンのような瞳を持つ少女がいた。
「師匠! まだ、まだなのに……!」
まだ恩を返しきれていないのに、と、少女が叫ぶ。嗚咽をこらえきれていない、幼いその声は、老人――魔法使い、アメジスト・シトリンの弟子の声だった。
「し、しょうっ……っぐ、ひっ、ぐ……」
涙を抑えるように、目をこする。そのままゆっくりと立ち上がって、うわごとのように、「師匠の夢を叶えないと」と、呟きながら小屋の外へ出ていこうと、扉へ向かっている。
その姿は、真っ黒なローブ、とんがり帽子、その容姿も相まって、魔女のように見えた。
「?」
少女が少し振り返った時、泣き腫らして赤く腫れた目が、
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親愛なる弟子へ
すまないな。
最近は、起き上がることすらできなくなって、お主に全てを任せっきりだった。
師匠なのに、師匠として、不甲斐なかったと、己でも思う。
本当に、すまなかった。
しみったれた話は終わりだ。お主もこんな話は望んでおらんだろう。
お主と出会ってから、面白いことばかりだった。
転移魔法の訓練の時、植物図鑑を転移しようとして、図鑑の五ページほどを転移させてしまったこともあったな。
「
あの時は、初めてお主が魔物と戦った。
が、その若さで大人でさえ討伐には苦労するという、ワードウルフに勝ったのには腰を抜かしたなぁ。
ダンジョンにも行った。
上級ダンジョン「夢の迷宮」で、催眠の呪いを自力で跳ね返したのには驚かされた。
お主はその歳で論文も完成させたな。
その論文、一つ穴があって発表できなくなって、惜しかったものよ。
あの論文は、我がカラット王国第一王女、アクアマリン・カラット王女が穴を改善して発表してくれたそうだ。
お主は世の中の事象に疎いから、知らんかったろう。
お主と出会えて、妾は幸せだった。
妾の死後、お主が幸せであることを祈る。
我が弟子、アク
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手紙はそこで終わっていた。
「……っ、知って、たんですね。師匠……!
……あんな、体で…! なんで、ここまで……っ! ぅっ、ひっ、ぐ…ぅ………」
アメジストの体は、もう歩けないほどに衰弱していた。
そのため、身の回りの事を全て少女がしていた。
アメジスト・シトリンの弟子の少女―――アクアマリン・カラットは、師との思い出を思い返し、師匠の手紙を胸に抱いて、泣き続けた。
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作者から
前作「青春と神と婚約と、卒業パーティーと。」に、カラット王国というものが出てくるのですが、この作品のカラット王国は、前作のカラット王国から数百年経った時代です。
関係ないかもしれませんが、一応のため、書かせていただきます。
小説を楽しんでくだされば幸いです。
師匠の手紙。 おまめあずき @400725AZ
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