第69話 一次審査

「vtuber事務所ユメノミライ?」


いつもの様にネットサーフィンをしていたある日、俺はそんな怪しさ満点なサイトを見つけてしまった。


「事務所って事はアイドルとかそういうのか?でもこのvtuberっのは何だ?」


そうして俺はvtuberというものについて調べてみた。


それはユーチューブで活動しているらしく、それを知った俺は何だ単なるユーチューバー事務所かと、思い動画を閉じようとしたところで、衝撃を覚えた。


「あ、アニメのキャラがユーチューバーやってる!?」


そう、まさかの二次元のキャラがユーチューブをやっていたのだ。


そのあまりの衝撃に驚かされた俺は、そのまま見入る様にして最後までその動画を再生し、さらに次も続け様に再生し、さらにその次もそのその次もと動画を再生し続けて、俺はそのまま徹夜までしてそのvtuberの動画を全て視聴した。


そうして一通り動画を見終えた俺は、ふとどうしてこのvtuberを見始めたのかを思い出し、その要因となったサイトへと急いで戻った。


「vtuber事務所ユメノミライか……」


俺はこの事務所のことが気になり、色々と隅から隅までを舐める様に見たところ、この事務所のやるvtuberは先程俺が見たvtuberとは違い、3Dでは無く2Dにする事でもっとローコストに、更には手軽に出来る様にと考えていた。


「なるほど……頭いいな」


そう感心しながらサイトを読み進めていると、俺は1つの項目に目が言った。


「ライバー募集……」


そうそれは自分達の事務所でvtuberになろうとのお誘いだった。


俺は今絶賛vtuberというものに興味を持って来ている最中で、無意識でいつの間にかマウスカーソルが応募のリンクをクリックしようとしたところで、俺はそれに気が付き勢いよくマウスから手を離した。


「ダメだダメだ!流石にまだよく分からん事務所に応募はダメだ。もしかしたら詐欺かもしれないし、それに本当だったとして、このvtuberってのは俺に出来るものなのか?ユーチューブやら他の動画配信サイトも、見る専で投稿なんかしたこともないし、一応何度か知り合いに頼まれて生徒会選挙やら何やらで演説はした事はあるが、それ以上の事はやったことのない俺がvtuberなんてのになれるのか?と言うかそもそも大学生がどこかの事務所に所属していいのか?」


分からん。


けど万一に出来るとしたのならば……


「まぁでも流石に俺1人で考えれるもんでもないし、もっと詳しく調べてやりたかったら、父さんか母さんにでも相談するか」


そう言って俺はパソコンの電源を落とし、大学に行かなければならない時間までの短時間仮眠を取ることにした。


それから数日後、結局はこの数日間俺の頭からvtuberという存在が離れることがなく、ユメノミライという事務所やvtuberについて調べることにした。


その結果受かるまでに何工程があることがわかり、その一つに動画撮影があり、俺は幾つかのサイトで動画の撮影の方法と機材を調べるのと同時に、この事を父さんと母さんに相談した。


相談する際俺は、「そんな怪しいのは辞めなさい」と言われ反対されると思い、自分なりにそれに反論できる様にと色々と資料を作り、両親に話したところ。


「まぁ夏がやりたいというならいいんじゃないかしら?ねぇお父さん」

「そうだなやらない後悔よりやって後悔って言うしな」


まさかの速攻で了承してくれた。


それに何なら新しいパソコンとかマイクとか防音室とか、色々お金の支援までしてくれた。


それで良いのか両親よ……。なんか詐欺とかに引っかかりそうだぞ。

息子は心配だぞ……


ありがたいから貰うけどさ。


そんな訳で両親の手助けもあって完全武装になった俺は、動画撮影を始めたのだが……


これがめちゃくちゃ難しい!!


まず第一に思ったのが、内容のつまんなさだ。


作った本人ですらが笑えないものが、他人を笑わせられるわけがない。


という訳で俺は色んな人気のユーチューバーを見たりして、何が面白いのかを研究し始め、それを組み込んだ動画を作っては、やり直しを繰り返した。


結果、爆笑とは言わないがクスッと自然と笑いが出る作品ができた。


この瞬間俺は思った。


俺もしかしてvtuberの才能あんじゃね?と

今やってる事はどっちかというとvtuberでは無く、単なるユーチューバーであることを忘れて。


そうして内容に満足出来たら次は、声や編集が気になり始めた。


俺個人としては声を張ること自体は何ら恥ずかしいとも思わない為、何の躊躇もなく出せるのだが、その声を取り込んだ際の音量バランスが難しい。


それに自分的には結構起伏を作っているつもりだったが、それも他のユーチューバー達に比べると全然ダメだ。


それからは編集の勉強と、もっと大袈裟に驚いたりなんだりする練習を始めた。


そんな練習を始めて気づいたことがある。


オーバーリアクションはすごい恥ずかしいという事だ。


初めの頃は全然恥ずかしくも何ともなかったのだが、動画を見返している時がもう本当地獄で、何でこんな地獄に自分から突っ込んで行ってるんだ?


と思うほど恥ずかしく、それを繰り返しているうちにオーバーリアクションをした後に、照れ隠しから誰に誤魔化しているのか分からないが、誤魔化す様に変な笑いが出ることが増えて、それを強制するのが1番大変だった。


それに比べて編集はプロに何度か見てもらう様に依頼したお陰ですぐに軽い編集ならできる様になった。


そうして俺の汗と努力と多額の資金が掛かった至高の一作ができた。


そうして俺は自分に残っている最後の恥を無くすために、両親に真冬を呼んでリビングにある大型テレビで、その一作を視聴する事にした。


俺は自分の作品を何度も何度も自分で見直していたが、ふと考えると人には見せた事がないことを思い出し、vtuberになるのならば、それが例え自分の家族であっても、自信満々に見せれなければプロにはなれないと考えた俺は、家族全員でその動画を視聴する事にした。


結果は可もなく不可もなくと言った感じだった。


真冬は動画を見て笑っていたが、両親は俺の動画を舐める様に何度も何度も繰り返し、時には巻き戻したり止めたりしながら視聴した。


その結果が可もなく不可もなくだ。


初めはその意見を聞いて落ち込んだが、よくよく考えてみたら動画制作を始めて行ったのに、世間での普通を取れていることの凄さに気が付き、俺は内心ガッツポーズをした。


それからはその上機嫌のまま俺は、動画をユメノミライの事務所へと送り返事を待った。


その返事が返ってくるまでの間も、何本か自分なりに動画を撮ったり編集の練習を続けた。


そうして動画を送ってから1週間後、俺宛にユメノミライの事務所から一次審査を突破を伝えるメールが届いた。

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