第44話 犯人からの要望

「へー、じゃあ愛花ちゃんって凄かったんだな……」

「……はぁ?」


いきなりそこで愛花ちゃんの名前が上がった事に驚いたと同時に、俺はその言葉の意味を瞬時に理解した。


「え……愛花ちゃんってvtuberなの?」


俺のその質問を聞いた瞬間拓夫が大袈裟に口を両手で塞いで、しまったと言う表情をした。


そしてその拓夫のリアクションで俺は愛花ちゃんがvtuberそれも、拓夫の反応からそこそこ有名なvtuberだと言うことが発覚した。


にしてもvtuberか〜・・・まさかあのエリート一家からvtuberが出てくるとはな、なんか感慨深いな!にしても愛花ちゃんがvtuberってよく大爺様が許したな。


俺みたいな落ちこぼれはともかく愛花ちゃんは、大爺様からも将来を期待されてるのにほど優秀なのに、vtuberが悪いって訳ではないけど世間体的にも、よくvtuber許されたよな。


そんな事を考えながら俺達は屋敷へと戻った。



屋敷に帰っている途中コンビニでお菓子を買いながら帰宅した俺たちに待っていたのは、何やら静まり返った屋敷だった。


本来なら使用人やその他屋敷にいる人達によって、足音や作業音などである程度音が鳴っているはずなのだが、周りを見渡してみると何故か皆ができるだけ音を立てない様に作業をしており、屋敷は鎮まり静寂がこの場を支配していた。


流石にいつもと違い違和感があった為、拓夫が近くにいた人に何でこんなことになっているか聞きに行くと、ちょうどその人物が拓夫を含めた使用人の長に当たる人物だったらしく、拓夫自ら話しかけに行った事で今の今まで仕事をサボっていたことがバレて、そのまま拓夫は使用人長に耳をつねられてどこかにドナドナされて行ってしまった。


その様子に呆れ笑いをしながらも俺も気になっていたので、拓夫が聞こうとしていた人とは違う使用人の人に何故今屋敷がこんなに静まり返っているのかと質問すると、使用人は黙って大爺様の部屋がある方を指差した。


それで俺はどこかのバカが大爺様を怒らせたのだと理解した。


過去まぁ言ってしまえばうちの父さんが母さんをくれと、大爺様やじいちゃんばあちゃんに頭を下げに来た時も、大爺様は大激怒したらしく毎度父さんが母さんの実家に来るたびにその事を愚痴っていた為、俺は瞬時にこの異常な状況を理解することができた。


そんな訳で今の屋敷は大変空気が重く居心地が悪いのだが、正直こんなプチ修羅場はいつもの配信(誹謗中傷)で慣れているので俺は特に気にする事なく、と言うよりもどちらかと言うとダメな配信者魂で、この居心地の悪さを出した張本人でもある大爺様になぜこんな事になったのか、聞きに行きたいと考えてしまうほどだ。


そんな事を考えながら俺なら大爺様の部屋の周りで、部屋の中に聞き耳を立てながらうろちょろしていると、部屋の中からバンっ!と大きな台盤の様な音が聞こえた。


そして次の瞬間俺が聞き耳を立てていた部屋の扉が勢いよく開き、俺と少し目元に涙を浮かべながら怒り部屋を飛び出した、大爺様を怒らせた大バカ者が勢いよくぶつかった。


「きゃっ!」

「うおっと……て、愛花ちゃん!?」


まさかの部屋から飛び出して来た人物に驚きながらも、ごめんねと軽く謝りながら俺は、俺とぶつかった際に後ろに倒れて尻餅をついた愛花ちゃんに手を差し伸べた。


愛花ちゃんは小さな声で俺にありがとうございますと呟きながら俺の手を取り立ち上がると、自分の部屋がある方へと駆け足で走り去ってしまった。


俺は大爺様を怒らせた人物が意外すぎた為、愛花ちゃんが走り去って行った方向を見ながら少し呆けていると、愛花ちゃんが飛び出して来た部屋の中から鋭い視線を感じた。


俺はそこでようやく今の自分の状況を理解し、ゆっくりと錆びついたロボットの様に首を部屋の中へと回すとそこには、100歳を超えてこの顔の赤さは大丈夫なのか?と心配になるほどカンカンになっている大爺様と目があった。


「……っスー…………えーっとどもっス。ハハ」


その後は勿論当然の様に聞き耳を立てていた俺は、大爺様に長々と説教されるハメになった。



その後聞き耳を立てていた事と昼間有耶無耶にした例の件について、30分以上ぐちぐちと説教をされた俺は、大爺様の圧によっていつもの配信よりも疲れてげっそりとした。


それも実際聞き耳を立てていた事は100%俺が悪い事なので、勿論何も反論することが出来ず合間合間に来るお見合い攻撃を受け流すことがやっとだった。


そんな訳で大爺様からの説教が終わり部屋を出た俺は、さずにカラオケからの連チャンで説教が来たので、ちょっと疲労が溜まっていたのかため息が自然と口から漏れ出た。


「……はぁ。疲れた」


やっぱり変な事はするもんじゃねぇな……


そんな事を考えながら俺は今日泊まる部屋へと戻った。


部屋に入るとそこには横に二つ並べられた布団の上で座り込み、一枚の紙切れを手に持った真冬がいた。


「何見てんだ真冬?」

「あ、夏兄!これ」


そうして真冬から手渡された紙切れにはこう書かれていた。


「今この屋敷で起こっている問題を解決しろ。さもなければ貴様の正体がネットの海に解き放たれるであろう……って何だこれ?」


この屋敷で起こっている問題って何の事だ?それと俺の正体がどうのこうのって…………


「あ!」

「ねぇ夏兄この夏兄の正体ってもしかして」

「ああ、多分だが俺のメモ帳の事だろう」


そこでようやく俺は自分がメモ帳を無くしていた事を思い出した。


そんな風に俺が少し考えていると、俺の表情を見た真冬が不安そうな声で聞いて来た。


「夏兄これってまずくない?」

「そうだな。まずいかまずくないかで言えば、コレは大変まずいな。」

「だ、だよね!どうしよう……」


何故か身バレの危機にある俺以上に真冬が頭を抱えて困っていた為、俺は何とか冷静さを保てていたのだが……


いや本当コレどうしようか。


この文を見るに実際にはホムラの件をネットに晒しそうな感じはしないが、だからと言ってそれが100%とそうかと言うと勿論そんなわけ無いので、出来ればこの俺のメモ帳を盗んだ犯人の要求をすぐにでも解決しておきたいのだが……


「この屋敷で起こっている問題って何だ?」

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