第42話 一条愛花

俺が広間に着くとそこには大爺様から色々言われたのか、それともここまで長時間運転したからか、それまたその両方かわからないが、少しげっそりとした顔つきで母さんに膝枕をされていた。


それも何やらイチャイチャイチャイチャしているようで、部屋がピンクな雰囲気になっており、それが実の両親が醸し出しているせいで俺は広間に入りづらく感じ、入り口で少し隠れながら見ていると、そこに真冬と姫ちゃんが2人仲良く歩いてやって来た。


「あれ?お兄ちゃん何してるの?入らないの?」

「夏兄何してるの?」


俺の近くに近づいてくるなり俺に体を押し付けるように密着してくる2人に、俺は両親の方を指差し答えた。


「いやなぁ実の両親があんな風に真っ昼間からイチャイチャしているのを見せられると、部屋に入りづらくってな……」


俺が気まずそうにそう言ったのだが、2人は俺と父さんを何度か交互に見たのちに、ふーんと適当に返すと俺は2人に手を引かれて広間へと入っていった。


そうして真冬と姫ちゃんに手を引かれて広間に入った俺と、母さんに膝枕されている父さんはお互いに視線が合い、少し気まずくなり俺たちはスッと目線を横へとずらした。



その後俺たちは広間で座布団に腰掛け昼食が運ばれるのを待っていた。


席順は俺の左右に真冬と姫ちゃんが居て、その向かい側に父さんと母さんが座っていた。


大爺様は基本的に自室でご飯を食べるためこの場には来ず、姫ちゃんのご両親にじいちゃんとばあちゃんは今は仕事中で家には居らず、今他に家にいる人は姫ちゃんの姉の一条愛花ちゃんだけだろう。


そんなこんな考えながらも俺は姫ちゃんと真冬にじっと見られながらも、ハジメやホムラガーズのみんな(ただし姫花さん、いや姫ちゃんは配信中の為不参加)とバーチャルキャバクラの話をしていた。


そんな時俺は広間の入り口から誰かに見られている視線を感じて、そちらの方へと目線を向けるとそこにはこちらに来いと手招きしている拓夫の姿があった。


俺はそんな拓夫の姿を見て心底めんどくさそうな顔を拓夫に向けるが、拓夫も此方に負けじと両手を合わせて出来るだけ可愛くお願いと口パクをした。


30後半のおっさんのそんな姿を見て大変気分が悪くなりながらも、これ以上は変な事をされると俺の身が持たないと考え、隣に座っている真冬と姫ちゃんに少し話して俺は席を立ち拓夫の元へと向かった。


「で?何なんだよ拓夫。俺達は今から昼飯なんだけど?」

「いやーごめんごめん。でもさ夏今回のは本当にお前にしか頼めないんだよ。な!」


そうぷりぷりしながら言ってくる拓夫に若干イラッとしながら要件を聞くと、拓夫は俺に要件を話して来た。


「……愛花ちゃんを連れてこい?」

「そうそう爺さんに頼まれたんだけどさ、何度も部屋の外から呼んだんだけど返事がなくてな、けど部屋の中からうっすらと音が漏れてたから中に入るとは思うけど、流石に30後半のおっさんがJKの部屋に入るのはなんか犯罪臭くってな……」


そう頭をポリポリかきながら言う拓夫に、俺だって20代後半のおっさんなんだが?と言いたかったものの、まぁ30後半のまともに仕事をしようとしないおっさんと、一応親戚のvtuberという妙な仕事をしている20後半のおっさんなら、まだ後者の方がマシだと感じ俺はイヤイヤながらに拓夫の頼みを聞くことにした。


というのも俺は一条愛花という女性が苦手だ。


彼女は先ほども言ったように年齢は18歳の高校生で、こんなエリート一家の中でも優秀な方で、何でも全国模試で一位を取ったことがあるとかないとか、それに何より愛花ちゃんはクールを通り越して無の境地に行っているのか、俺が何を話しかけても一切返事がなく表情筋の一つさえ動いたところを見たことがないこともあり、俺が小さい頃は愛花ちゃんを本物のロボットだと信じていたぐらいだ。


と言うか何なら俺は愛花ちゃんの声すら聞いたことがない。


まぁと言う訳でそんなこんなで俺は愛花ちゃんのことが少し苦手だ。


そんな事を考えながら俺は愛花ちゃんの部屋の前まで移動すると、軽く部屋の扉をノックし声をかけた。


「愛花ちゃんちょっといいかな?」


そう俺が声をかけたのだが、部屋は防音がしっかりしているせいか中からの音は一切聞こえず、多分だがその逆に外から中への音も遮断されているのだろうと俺は考えた。


だが扉に耳を当ててみると拓夫が言っていた通り、中からは何やら少し電子音のようなものが聞こえるような気もする。


俺はその後も何度か声掛けを続けたが、一向に返事が返ってくることがなかったため、俺はドンドンと先ほどまでとは違い少し力を入れて扉を叩くと、部屋の中にいた愛花ちゃんにもその音が聞こえたのか、それから少ししてラフなTシャツ一枚で下には何も履いていない様に見える愛花ちゃんが、中で運動でもしていたのか少し額に汗をかきながら高そうなヘッドホンを首にかけた状態で、部屋から少し怒った表情で出て来た。


「誰!」

「あ、えっと久しぶり愛花ちゃん夏だけどわかる?」


俺がそう答えると愛花ちゃんは先程までの怒りの表情をどこにやったのか、スゥッとその表情から感情が無くなり俺のよく知るロボットの様な無表情に戻った。


俺は初めて愛花ちゃんの声を聞いて驚きのあまり素っ頓狂な返答をしてしまった事を後悔しながらも、いきなり俺的に色々あったせいで忘れていたが、目の前の10人に聞けば10人が絶世の美女と言うほどの美貌を持った現役女子高生が、他人に見せてはいけない様な格好をしているのを思い出し、俺は自分のシャツを一枚脱ぎそれを愛花ちゃんの肩にかけて、そのまま後ろを向いた。


「愛花ちゃん拓夫……お手伝いさんが大爺様が呼んでるって言ってたよ。それと大きなお世話かもしれないけど、あまり女の子が家族でもない男の前にそんな無防備な姿で出るのは良くないと思うよ」


そう言われた愛花ちゃんは今一度自分の今の格好を確認すると、恥ずかしかったのか顔を少し赤らめて勢いよく部屋の中へと戻っていった。


俺はやっぱり嫌だったかな?と言った事を内心後悔しながら、要件は伝えたしそれにそろそろ昼食が運ばれている頃だし、さっさと広間に戻ろうとしたその時、愛花ちゃんの部屋の扉が少し開かれた。


「……ありがとう」


そう言って愛花ちゃんは扉を閉めたのだが、美少女からの感謝の言葉を言われた当人である俺は、何に対してお礼を言われたのかが全く分からず、内心もしかして愛花ちゃんってコミュ障なのでは?と大変失礼な事を考えながら広間へと戻った。

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