第41話 犯人はお前だ!

「あなたは九重ホムラですか?」


その紙を読み上げた瞬間俺は全身から嫌な汗が滝の様に流れ始め、周りから見たら雨にでも降られたのか?と思うほど俺は自分の汗で全身がびしゃびしゃに濡れた。


それから汗で濡れた服を脱ぎ別の服に着替えた俺は、例の紙をくしゃくしゃ丸めて自分の鞄の奥に、お見合い写真集と同じ様に封印し、頭の中で今回のメモ帳紛失事件の整理を始めた。


まず第一に多分だが俺はこの屋敷のどこかでメモ帳を落としている。それが大爺様の部屋なのか、姫ちゃんと真冬の2人と一緒にいた廊下なのか、はてまた全く関係ない場所なのかはわからないが、屋敷内という事は確定だろう。


そして第二にそれは誰かに拾われており、その人物は正直全くわからない。


なんせこの屋敷には人が沢山居る。


まず大爺様はもちろんじいちゃんとばあちゃんに、姫ちゃんのご両親に姫ちゃんの兄弟だって居るし、それだけならまだしもこの屋敷にはお手伝いさんや警備員に、その他大爺様のお客様などがよくこの家に来ているため、今のところ誰が俺のメモ帳を拾ったのかわからない。


だが相手はあのメモ帳を見て俺を九重ホムラだと思ったのなら、最低でも九重ホムラと言うvtuberを知っている、相当なvtuberオタクが犯人だと思われる。


なら多分だが犯人は男性だろう。


何たってうちの事務所は女性アイドルグループだからな。


そしてその犯人は俺のことをよく知っている人物になる。


何故かって?それは実はだがあのメモ帳には俺の本名は書かれていないから、あのメモ帳を見て俺と九重ホムラを結びつけるための条件は、俺の筆跡を知っていてそれがメモ帳の文字と一致しているのを見つけれる人物、他には俺の声と九重ホムラの声が同一だと認識できる人物ぐらいだろう。


そしてこれらの条件を全てひっくるめた時、俺の中にはとある1人の人物が思い上がったので、俺はその人物のいるであろう元へと向かい始めた。



そうして俺が向かった先は、使用人のようなことをしている人たちが住んで居る居住エリアだった。


俺はその居住エリアの中へと断りも無しに、ズカズカと入っていって俺のお目当ての人物が暮らしている部屋を探した。


昔は何度か来たことがあった為何となく場所は覚えていたが、それでも数年単位でここに来ていなかったこともあり、そのお目当ての人物の部屋を見つけるまで少し手こずったが、俺はその人物が住んで居る部屋を無事発見することに成功した。


そうして部屋の扉の前までやって来たのはいいものの、俺は今更ながら今の時間は俺のお目当ての人物が仕事中だった事を思い出し、今この部屋の中にいないのでは?と一瞬考えたがアイツは昔からよく仕事をサボっていたので、どうせ今も部屋の中でサボっているだろうと踏んで、俺はその扉をコンコンとノックした。


返事が返ってくるかやはり少し心配だったが、俺のそんな不安は一瞬で部屋の中にいる人物が返事を返して来た為吹っ飛んだ。


「はいはーいちょっとお待ちを」


その声と同時に扉の奥からはドタバタと部屋の中を片付けているのか、それとも急いで服でも着替えているのか、大きな音が漏れ聞こえて来た。


それから数分が経った頃俺の目の前にある扉が、バンっと大きな音と共に勢いよく開かれ、その中からは俺の予想通り急いで着替えをしたためか、ところどころにしわがついた仕事用の服を着込んだ30後半ぐらいの男性が、若干猫背気味ながらも出来る限り姿勢を良くしようと努力した感じの姿勢で出て来た。


そしてその部屋から出て来た男性は、俺のことを見つめると驚いた様な顔をしながら話しかけて来た。


「え!?夏?お前なんでこんなとこにいるんだ?今日って正月だったか?」


そんなバカな事を聞いて来た男性は、名前を拓夫と言い俺をvtuberと言うかネット文化というか、要するにオタクの道へと子供の頃から教育して来た、このエリート家にいる唯一の汚点だ。


ちなみに汚点と言われる所以は、基本仕事はせずに毎日どこかでサボってゲームをしていたり、何度かかわいい新人を見つけた時に公私関係なくアタックしまくって、その度相手の女性が仕事を辞めている点からきている。


何故こんな誰がどう見てもダメな大人がこのエリート家での仕事をクビになっていないかは、この屋敷にある七不思議のうちの一つだ。


そして昔から出来の悪かったせいで大爺様に叱られた後に、よく遊んでくれた俺からしたら兄貴の様な人だ。


とは言え全くの尊敬の念はないがな。


という訳でこの拓夫は男性で俺のことをよく知る人物、さらにはガチガチのオタクと言う事で、多分だが九重ホムラの存在もしっているであろう点から、俺はコイツが俺のメモ帳を拾った犯人である事を確信した。


「と言う訳だから拓夫さっさと俺のメモ帳を返してくれ」

「……何のことだ?」


俺が一連の推理を果たし拓夫にメモ帳を返してもらうために手を差し伸べながらそう言ったのだが、それを聞いた拓夫は俺の想像とは違いまさかのメモ帳を拾った犯人ではなかった。


「…………はぁ????いやどう考えたってお前だろ!」

「おいコラ年上にお前とか言うんじゃねぇぞ夏」

「って事は、拓夫は俺がホムラだってことも知らなかったのか?」

「いやそれは何となく知ってたぞ。声とかゲームの趣味とか、あとは配信内で真冬ちゃんのことを話す時の気持ち悪さとかでさ」


そう言った拓夫の顔はドッヤドヤのドヤ顔で腹たったので一発殴ってやろうか?と思ったが、そんな事をしてもただ俺の拳を無意味に痛めるだけだと思い、心のうちで振り上げた拳を俺はそっと下ろしながら考え始めた。


その間も拓夫は何かぺちゃくちゃと話していたが、今は正直拓夫なんかと話している暇はなかったので、拓夫の自慢話を右から左というか右耳にすら入れずに、色々考えた結果……


「わっかんね」


という訳で散々考えた結果俺は、どうせこれ以上考えても犯人がわからないと思い、それにバレたからどうしたと考え、今回の件を清く諦めることにした。


その後俺は久しぶりにあった拓夫とゲームしたり趣味の話をしたりして盛り上がった。


その際俺が今日来た理由を聞かれた際、俺がぽろっとお見合いの話をしてしまった為、拓夫にクソほど笑われたそれはもうびっくりするほどにだ。


「ぶっははははwwwお見合いってwww今時お見合いwヒーwそれにあの爺さん夏のことヒキニートの穀潰しと思ってたんだなw」

「いや流石にそこまでは言われてないけど……と言うか拓夫大爺様の事を爺さんって、お前本当そろそろクビになるんじゃないのか?」

「大丈夫大丈夫w俺みんなの前ではしっかり仕事してるからさ」


そうドヤ顔で言う拓夫に今現在仕事をサボってるくせにコイツは何を言ってんだ?と思った。


その後昼時まで俺は拓夫と時間を潰し、昼食を食べるために拓夫と別れ俺はすっかりとメモ帳の事なんか忘れて広間へと向かった。

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