第23話 「行先」

 後で確認するとどうも勇者と一部の戦力が何らかの手段で隠れて奇襲をかけて来たようだ。

 それによって国境付近の街が襲撃される事となった。

 俺が居た街は勇者を撃退した事によって被害は抑えられたが、それ以外の街は壊滅だったらしい。


 人族の勇者が侵攻して来た事により魔族は最後の戦いに臨むべく国境付近に戦力を展開。

 元々、決めていた事だったようで動きはかなり早かった。

 魔王の口振りからも勝てるとは思っていないようで、本当に抵抗の為だけの結果の分かり切った戦いだ。


 俺はどうしようかとも考え、協力を申し出たが魔族には感謝されはした。

 だが、それだけだった。 どいつもこいつももう諦めているので、積極的に俺を巻き込もうとしないのだ。

 理解できなかった。 それでもお呼びではないという事は分かったので俺は勝手に動くべきか。


 魔族には優しくしてもらったから手助けしたいとは思っているけど、救えるのかは怪しい。

 本気で助けたいのなら人族を滅ぼすしかない――いや、そこまではしなくてもいいか。

 俺は自分が何をやるべきかをぼんやりと考えて決めた。


 ……どうせ俺は帰れない。


 あの勇者連中を見て、それは確信に変わった。

 魔族側の魔法陣は壊れて使い物にならない。

 人族側はあいつ等の反応を見れば知識量は魔族側とそう変わらないのは察せられる。


 この世界はクソだ。 異世界召喚もの特有の優遇を受けられるならそれなりにいい気分にはなれるんだろうが、俺みたいに受けられない人間にとっては碌な物じゃない。

 別にこれ以上、被害を防ごうとか騙される人間を減らそうとかそんな高尚な考えはない。


 ただ、勝手な都合で俺を巻き込んだツケは払わせてやる。

 怒りも何もない俺だったが、冷静な部分でムカついてはいた。

 どうせこれと言ってやりたい事も――魔族国での短い日々の事を思ったが、滅んでしまえば日常を営む事すら出来ないだろう。 人族の国で暮らしたいとは思えないので、俺が魔族側に加担した結果、どうなろうと知った事じゃない。


 やる事は決まった。 目的は人族の国の召喚魔法陣だ。

 あれをぶっ壊して俺を巻き込んだ事を絶対に後悔させてやる。

 


 ――人間、やる事が決まればモチベーションが上がり、気持ちが上向きになる。


 勇者連中の相手もしていいけど、二人相手であの有様だった事を考えると三人以上に来られるとまず負けるな。 ただ、津軽と巌本あの二人に限って言うのなら一対一ならどうにでもなりそうだ。

 特に巌本は防御特化で動きも鈍そうなのであいつなら比較的ではあるけど楽に始末出来そうだった。


 会話できた事で実力もそうだが、色々収穫があったな。

 まず、連中は人族の王とやらに帰還を餌に戦わされている。 ついでに魔族とコミュニケーションを取れないように細工までされているので

 恐らく――いや、間違いなく騙されているだろう。 精霊と魔王の話を踏まえれば召喚陣を使って送り返すとの事だが帰れる訳がない。

 

 人族にしても勝手に死ねば処分の手間が省け、用が済んだら適当に礼を言って金貨でも握らせた後、召喚陣で訳の分からない場所に放逐と。 考えれば考える程、人族ってクソだな。

 次に勇者連中の強さだが、思っていたほどじゃなかった。 鑑定は弾かれたので詳細なステータスは不明だったが、感触からグラニュール程のステータスはない。


 それでも脅威と感じるのは膨大な量のスキルで底上げしているからだ。

 装備も明らかに一級品。 連中が貰ったチートの正体は膨大なスキルと高成長倍率のステータス。

 俺のレベルに驚いていた点から見ても魔族側の平均値と同等か少し上といった所か?


 レベリングに関しては同格かそれ以下の相手からはあまり経験値を得られない。

 裏を返せば格上を仕留めれば大量の経験値を得られるのだが。

 まぁ、グラニュールを殺しまくったからこそ俺はこのレベルまで成長できた。


 ……チートなしだから、数値はカスだが。


 総合すると連中に関してはレベルはそこまで高くない。

 魔族を殺しまくってそこそこ伸ばしはしただろうが、精々数百といった所だろう。

 戦闘能力に関してはスキルと装備に依存しているので、装備を剥がす事を意識した方がいいか?


 ただ、他にもいるはずなのでそいつらの強さがどの程度の物かも可能であれば見ておきたい所だが……。 もしも奏多がいるのなら可能な限り会いたくない。

 あいつに会った時、会ってしまった時、俺自身がどうなるのかが分からないのだ。


 それが恐ろしくてしょうがない。 津軽と巌本に会っただけで免罪武装プルガトリオ地上楽園アビスのステータスが一千万近くも跳ね上がったのだ。

 このまま行くと一億までそうかからないだろう。 どこまで育てば使えるようになるのかは不明だが、嫌な予感しかしないので永遠に使えない方がいいと思っている。


 懸念事項ではあるが、他の免罪武装の強化に連動しているので止める事ができないのだ。

 諦める事しかできないが、まるで災害が近づいて来るのを黙って見ているかのような気持ちになるのは俺の考え過ぎだろうか? 取りあえず召喚魔法陣を破壊する。


 後の事は後になってから考えればいい。

 思考停止なのは自覚している。 それでも俺にはもうやれる事もやる事も残っていないのだ。

 やるしかないとは思いたくない。 だけど、俺にはそれ以外のやり方を想いるかなかった。

 

 ……行こう。


 まずは砂漠を超えて人族の国へと向かうんだ。

 そう決めた俺は出発する為の準備を始めた。 旅支度はそこまで大仰な物は必要ない。

 食料も免罪武装で代用できるので精々、砂漠の熱気にやられないように遮光に気を使うぐらいか。

 

 その途中で街の要塞化工事を手伝ったりしていたが、我ながらダラダラとはっきりしない。


 「お、ユウヤじゃないか!」


 建材を運び終え、報酬として金銭を受け取りそれを使用して旅支度を整えた矢先だった。

 声をかけられて振り返るとイルバンが小さく手を上げて駆け寄って来ている。

 

 「あ、どうも」

 「街を助けてくれたんだってな。 お前のお陰で死なずに済んだ奴が大勢いたって喜んでたぞ?」

 「いえ、俺は別に大した事は……」

 

 どうせ先延ばしにしただけだと言いかけたが言葉を呑み込んだ。 

 イルバンは察したのか「そうか」と小さく呟く。

 

 「別に隠してた訳じゃないんだ。 この国の奴なら誰でも知ってる事だし、そのなんだ? 言い難かっただけなんだ」

  

 イルバンは言い訳をするようにそう言ったが魔王と話して事情は聞いているので責める気にはならなかった。

 ただただ、やるせなかっただけだ。

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