第21話 「槍盾」

 「ゆ、勇者様! お助けを!」

 

 騎士の一部が焼け爛れた体を引き摺って少し離れた所にいた勇者に助けを求める。

 津軽とかいう勇者は俺に訝しむように視線を向けてきた。

 俺は無言で免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディアを構える。


 「日本人か? 見ない顔――あぁ、魔族側に召喚された勇者か?」

 「光る球にあんたらに巻き込まれたって言われましたね」

 「ほーん? あの球にあったって事は同郷で間違いないっぽいな。 一応、聞いとくけどこっちに付く気はないか? 俺の仕事は化け物退治であって人殺しじゃねぇからな」

 「そっちこそ人族に手を貸すの止めたらどうです? やってる事をよく見てくださいよ。 俺に言わせるとどっちが化け物か分かった物じゃない」


 津軽は俺の態度が気に入らなかったのか眉を顰めるが、槍を向けずに肩に担ぐ。

 それに合わせて俺も免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディアを下ろした。


 「何言ってんだお前? こんな言葉も通じねぇ・・・・・・・ようなキモい化け物が違って見えるのか?」 


 トントンと肩を叩きながらそんな事を言い出した。

 今度は俺が訝しむ番だった。 こっちに来た特典で言語に関しては問題ないはずなのにこいつらには魔族の言葉が理解できないのか?


 「俺には普通に理解できますがそっちには分からないんですか?」

 「耳障りなノイズにしか聞こえねーな。 あれか? 魔族側に――いや、違うのか。 なら何でだ?」


 おかしい。 俺にはあの騎士連中の言葉が理解できる。

 つまり言語を理解させるスキルは種族問わずに有効のはずだ。

 ――にもかかわらず、津軽には魔族の言葉がノイズに聞こえるのは妙だった。


 思いつく可能性としては人族側に召喚されたので裏切られないように魔族と会話ができないようになっている? 魔王からは特にそんな話は聞いていない。

 

 ……こいつらまさかとは思うけど何かされてる?


 もうちょっと情報を引き出したかったが、津軽はダラダラと話をしたいタイプではなかったらしい。

 

 「ま、よく分からねーけど、そっちはやる気って事でいいのか?」

 「引かないならそうですね」

 「だったら――……レベル4900? なんだそのバカげたレベルは? その割にはステが貧弱みてーだけど、それだけ上げてその程度のステータスしかねぇのかよ!」


 津軽が俺に鑑定を使ったらしくレベルに驚いた後、ステータスの低さに笑う。

 うるさいな。 俺はお前等と違って召喚特典を貰ってないからゴミみたいなステータスしかないんだよ。

 津軽のステータスは何らかの防御が施されているのか名前しか見えないけど、俺のステータスを鼻で笑えるなら数十万――いや、数百万あってもおかしくない。


 グラニュールと同等以上を想定するべきだ。


 「ま、敵ならやるしかねーよなぁ!」

 

 津軽は素早く槍を構えるとそのまま突っ込んで来る。

 俺は免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディアの矢を放つと同時に引っ込めて籠手二つと免罪武装Ⅲプルガトリオ朦朦悔悟イラを出して近接用の装備に切り替えた。


 「は、そんなもんで!」


 津軽は槍で矢を軽く打ち払う。 煙が広がるが片手で器用に槍を回転させるとそのまま吹き飛ばした。

 あの槍、あんなこともできるのか。 だが、防がれるのは想定内だ。

 効果範囲に入ったと同時に免罪武装Ⅰプルガトリオ高慢重石スペルビアの能力で重圧をかける。 俺を中心に地面が大きく陥没。 走れなくなったのか津軽の足が止まった。

 

 「重力魔法!? クソ、スキル欄が空だったのに魔法が使えるとかテメエ! ステータス隠蔽してやがったな!」

 「鑑定避けを持ってるやつが言うな!」


 さっさと焼け死ね。 情報が欲しかったから会話したけど、お前等に巻き込まれて俺は世界迷宮で酷い目に遭ったんだ。 八つ当たりとは分かってるけど原因の一端を担った以上はお前も同罪だからさっさとくたばれ。 俺の怒りを溜めこんだ炎が吹き荒れて津軽に襲いかかる。


 「舐めてんじゃねぇぞ!」


 津軽は手元で槍を回転させる。 槍は光を放つと円形の盾のような物を形成。

 炎はその盾を呑み込もうとするが、光は通さないと言わんばかりに抗う。

 防がれた事には驚いだが、足は止まった。 なら、遠距離から削る。


 免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディアに切り替えて連射。

 お世辞にも命中率は良くないが、十メートル程度ならどうにでもなる。

 それに下手な鉄砲も数撃てば当たるので、当たるまで撃てばいいんだ。


 矢は盾に当たって弾けるが、煙がじわじわと汚濁のように侵食を始める。

 あぁ、そういえばMPを喰うんだったなあの煙。


 「何だこれ!? MPが減って行くだと!? テメエ! チートか何か使ってんだろ!?」

 「使ってるのはお前だろうが。 一緒にするな!」


 煙によって強度が落ちた盾は炎に抗い切れず突破され津軽を焼き尽くそうと襲いかかるが――


 「――盾よ!」


 不意に割り込んだ第三者の声と共に城門のような新たな障壁が展開し津軽を守る。

 

 「津軽君! 煙を!」

 「おう、助かったぜ!」

 

 津軽が槍を回転させて突風を起こし、煙を吹き散らす。

 視界が良くなると津軽の隣には頑丈そうな全身鎧とタワーシールドを持った中年のおっさんが居た。

 鑑定をかけると巖本いわもと たけし。 ステータスとスキルは例によって見えない。


 巌本は俺と津軽を交互に見た後、俺に視線を固定する。


 「君は一体? 見た所、日本人のようだが……」

 「巌本サン、こいつは俺達に巻き込まれたとか言ってたけど、魔族側の勇者だ。 俺を殺そうとしやがった!」


 津軽は自分の事を棚に上げてそんな事を言っていたけど俺は無視して免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディアを向ける。 巌本は制するように手を上げた。


 「待つんだ! 同じ日本人同士で殺し合うなんて馬鹿げている。 ここは話し合いで穏便に済ませようじゃないか」

 「悪いんですけど魔族を皆殺しにするつもりで来てるあんた達とは組めない。 人族の連中に言ってここから手を引くっていうんなら戦わずに済むと思いますが?」

 

 不愉快だ。 本当に不愉快だった。

 さっきから免罪武装Ⅲプルガトリオ朦朦悔悟イラ免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディアのステータスが急上昇している。

 理由も分かる。 津軽と巌本の二人は仲間意識を出してお互いを認め合っている感を出している事。


 俺の事は誰も助けてくれなかったのに何でお前等は平然と助け合っているんだ?

 どうせチート貰って楽々ここまで来たんだろ? 怒りと嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。

 誰か助けてくれる人がいたならアルフレッドも死なずに済んだかもしれないんだぞ。


 あぁ、本当にどうしようもなく殺したくなる。

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