使用人#1

 呆れるほどに酷いのだ。現実と言うものは。だから人は妄想し、想像し、欲に溺れ、暇を持て余す。上の命令は逆らえないし、下のミスは上のミス。立場が人を変えるのでは無く、人が立場を変えるのだ。


 私は塩崎しおざき 理央りお。父がお世話になっている会社の社長の秘書をしていた。しかし後輩のミスが私の責任になり、秘書は剥奪。


 その上、山奥の、子供の世話をしろと言われた。別に子供の世話が嫌なわけでは無い。でもその子は「死を呼ぶ子」らしい。


 私がそこに行く理由も、前の使用人が死んだからだとか。やめて欲しいそう言う縁起の悪いことは。まだ成人して間もないのだ。重い足取りで重いドアを開ける。


「お邪魔しまーす。」

「えっと、理央さんだったかしら。よろしくね。」


 そこにはまさにお人形そのもののような、大きく綺麗な目、薄いピンクの唇、ストレートで柔らかな黒髪を持った肌の白い女の子がいた。


「あなたがお嬢様、、、で間違いない?」

「ああそうよ。恭子って呼んでちょうだい。」

「かしこまりました恭子様。」


 なんだろう?この不気味さは、ただの可愛い少女のはずなのに、他の子とは違う空気を感じた。


「案内するわね。右手からお風呂場、トイレ、空き部屋、物置、そして奥にリビング。

左手前から、あなたの部屋、空き部屋、ロウデ、、前の使用人の部屋、物置、

2階は私の部屋ぐらいしか使っている部屋は無いわね。あと、客間もあるかしら。」


 淡々と述べる彼女の口調を見ているとやはり少し寒気がした。え?、、なんだろ?頭が、ボケーっと、



バタッッ!!


「んんっん、、、、、」


 目を覚ますとそこには彼女の姿があった。


「あっ、すいません。もう大丈夫です。恭子様」

「あなたって相当耐性ないわよ。意識が飛ばれたのは初めてだわ。」

「何の話でしょうか?」

「あなた、何も聞かされてないの?」

「はい、とりあえずここに行けと言われましたので。」


 あのクソ社長。一人で仕事してたのにそれを考えずにここに送りつけてきたのだ。


「私は呪われてるの、喋ったり触ったりすると気分が悪くなるみたい。」 

「今も?」

「そうでしょ?」

「いえ、特には」

「じゃあ、あなたがその人なのかしら?」

「その人?」

「いいえ、こっちの話よ。さっきはなんで倒れたの?」

「急に頭がボケーっと仕出してしまって。申し訳ありません。」

「いいわ。別に、私のせいでもあるんだし。」


 この子はどれだけの苦悩を歩んできたのだろう。誰ともまともに会話できず、深く関わった相手には死を呼び、相手からは拒絶され、親からは見放され、私には到底計り知れるものでは無かった。


私は決めた。この子に一生を捧げようと。

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