花とライオン
雲田和夫
花とライオン
大草原は炎天下。
真昼の強い日差しに照らされながら、一頭の雄のライオンがのすのす歩いています。
ライオンは道端の草花に目をやります。
赤い色をした鮮やかな花です。
ライオンは言いました。
「俺はお前なんかいくらでも踏み潰せる。」
赤い花は震えあがりながら、答えます。
「まあ恐ろしい。でも、私なんかいくらでもまた生えるわ。」
ライオンは睨みつけながら言います。
「死んだらおしまいだろ。」
赤い花はぶるぶる花びらを震わせながら答えます。
「たとえ枯れても根っこは生きてるの。」
ライオンは、なかなか度胸があるやつだなと、興味深げに聞きます。
「そうか、大したものだな。こう見えて実は俺は死ぬのが怖い。もう二週間水しか飲んでいない。おいぼれライオンなんだ。」
赤い花は、なんだかめんどくさいなと思いながらも答えます。
「私も死ぬのが怖い。根っこが枯れかけてるの。もうずっと雨が降らなくて。」
すると、ライオンは川へ行き、口に水を含んで、赤い花にあげます。
しばらく赤い花を見ていたものの、ライオンは、どこかへ行ってしまいました。
赤い花は、ライオンがいなくなってほっとしました。そして、水が根っこにしみこんで生き返っていくのを感じました。
そのせいか、赤い花は、しばらくは咲いていました。
しかし、やがて枯れてしまいました。
それから二週間後。大草原に久々の雨が降りました。
赤い花は、根っこが枯れていなかったせいか、やがて小さな芽が生えました。
そこへ、「おいしそう。」と言いながら、シマウマがやってきました。
シマウマはムシャムシャ赤い花の新芽を食べてしまいました。
すると突然、物陰からライオンが飛び出て、シマウマに襲いかかります。
実は、ライオンは、あの赤い花の新芽を眺めながら、飢え死にしようと決意し、休んでいたところでした。
ライオンはそのシマウマを食べました。
おかげで飢え死にするのを免れるようです。
ライオンは食事を終え、ハイエナたちが集まります。
ライオンは思いました。
「赤い花は、俺に生きろと言っているのか」と。
大草原は今日も炎天下です。
花とライオン 雲田和夫 @spiderbutterdog
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