万朶隊
たこ爺
第一章 編成
特攻
それは特別攻撃の略称であり、日本ではこれを大戦末期枢軸国側で多数行なわれた十死零生の攻撃法としている。
そして、この攻撃法はひとつの命と少ない資材を引き換えに敵に大損害を与える事を理想としており、当然ながら攻撃に成功したものが生きて帰ることほとんどありませんでした。
そして、理想というのは所詮理想であり攻撃に成功し、敵を単機で沈めることは稀であり、それに加え米軍の熾烈な防護砲火により目標に到達する前に文字通り全滅する部隊も最早珍しくもありませんでした。
しかし、そんな中、特攻作戦開始から終戦まで九度特攻隊員として出撃命令を受理しながら終戦後も生き残った隊員がいます。
佐々木友次伍長
これは、そんな大戦と呼ばれた戦争の末期
佐々木友次が所属していた万朶隊という部隊の一部を綴った物語……
一九四一年に開戦した後に言うアジア・太平洋戦争。
帝国軍は初戦を順調に進め、マレー、フィリピン、インドネシア、ニューギニア等の南洋諸島、並びに東アジアを次々に占領その手はオーストラリア目前まで伸びており、大日本帝国の勝利は確実かに見えた。
しかし、翌四二年四月一二日のドーリットル空襲をきっかけに勃発したミッドウェー作戦に大敗した日本軍は善戦をしつつもじりじりと後退。
翌四三年には連合艦隊司令長官である山本五十六、その後継の古賀峯一も失い戦況は刻一刻と悪化
より敵を効率よく殲滅するための新戦法、新兵器の開発が求められた。
既存の反跳爆撃や陸軍機による攻撃法も検討されるがいずれも目を見張るほどの費用対効果を挙げることは叶わず、ついに
特別攻撃隊の編成、並びに特別攻撃用兵器の研究、製造が天皇により許可され
同年一〇月ついに後の神風隊、万朶隊等の陸海軍特別攻撃隊が編成される。
その編成には細心の注意が払われ、中央から命令することは決してしないことが絶対条件とされました。
しかし、陸軍では後の万朶隊の編成を編成する際、志願制にすると多数の希望が募り選考に時間がかかる可能性があるという懸念から各隊から精鋭一六名が召集されます。
そしてその一六の影の中には佐々木友次の姿もあるのでした……
―第一章 編成―
― 一九四四年一〇月一七日 立川陸軍飛行場 ―
「何なんですか、この機体は……」
その機体は
異様
というしかない姿をしていた。
機銃口でもピトー管でもない機体の先端から生えた三つの突起は、
とても機体をよくするための物体には見えなかった。
「お前らこれで召集された隊員か……気の毒にな。」
「どういうことだ?」
「その様子じゃ、まだ説明がないのか…これはお前らがやる特殊作戦……ようは体当たりだな。それをするために改造した機体だよ……全くいやなもんだ……」
整備士の淡々とした、どこか他人行儀な説明に真っ先に激怒したのは他でもない隊長だった。
「………ふざけてるのか!俺たちが日々訓練しているのは敵に爆弾を命中させるためだ。生きて帰ってまた敵を殺すためだ!上は、お前らは、俺たちがそんな技量も持ってないっていうのか!」
「………」
「答えろ!」
「岩本少尉、落ち着いてください。確かに私たちの技量は陸軍随一だと自負しています。しかし、今回の目標は海上の敵艦隊。地上の敵部隊を攻撃するのとはわけが違います。飛龍で構成された上、海軍直々に指導を受けた九八戦隊が雷撃前に敵対空砲で全滅したのを忘れたとは言わせませんよ……」
「くっ……俺たちには体当たりの道しか残されてないって言うのか……いや、しかし…」
「少尉……」
「わかってる!命令は命令だ皇国の軍人として、きちんと最後までやり遂げる!
…っ……いくぞ中川、その海軍航空隊がこの後直々に訓練してくれるそうだ。」
「はっ……」
その後海軍より基本的な対艦攻撃法をものにするため、岩本大尉率いる部隊は猛特訓に励んでいたが、二〇日、新婚であった岩本隊長は特別に外出の許可をもらい妻の和子と一度目の結婚記念日を過ごすのだった。
ひさびさに帰ってきた…がしかし、気が重い。いや、しっかりしろおれ!そう、めでたいことを伝えに行くんだ。何も気に病むことはない……
「お帰りなさい。ごはん用意できてますよ。」
「……ありがとう。」
「どうしたんですか、そんな浮かない顔して。折角の記念日が台無しじゃありませんか」
「……すまない。」
「はぁ、本当に何があったっていうんです?」
「あぁ、ほんとにダメだな俺は。笑って伝えようと思ったんだが…実はな今度配属された部隊なんだが……敵に体当たりする部隊なんだ。自分の命と引き換えに敵を討つ。当然、お前を1人になんてしたくない。でも、それと同時に俺は最後まで皇国の軍人でありたいと思っている…あとは、わかるな。いつになるかはわからない。でも、俺は行ってくる。そして、こんな約束をしたお詫びとして、一つ約束する。必ず、出撃前にはまた帰ってくる。だから……だから、ゆるしてくれ………」
いつの間にか目からは涙が溢れていた。それが、いつ来るかもわからない別れへの恐怖なのか死への恐怖なのか、岩本には分らなかった。
しかし、これだけは言える
運命とはこの世の何よりも非情なものだと。
翌日、立川へと変えるとまた、休暇をもらった。今度は岩本一人じゃないほとんど全員だ。何故か?
出撃の日がきまったからだ。
二階級上の階級章を渡され、家族への別れを告げるよう言われた。
全くうれしくとも何ともないじゃないか。
しばらくの別れを告げた和子に今度は最後の別れを告げなければならない。二度と顔を合わせることはないだろう。
腹を…くくるか……
つい数時間前に閉じた家の戸を開け中に入る。
中には驚いた顔をした和子がいた。
「どうしたのです。今日からはまた訓練じゃないのですか?」
星の二つ増えた階級章を渡す。言葉はいらなかった。
「すぐに…栗飯を作りますね……」
夕食はできるだけ笑って過ごした。最後の思い出が気の重い食卓なんてまっぴらごめんだ。そのうちぎこちかった会話も少しずつ和み、永遠にこんな時が続けばいいのに、そう思った。しかし、やはり運命は非情だ。そんなときさえ流していってしまう。
そして、その時は訪れた。
「和子……二二日の朝八時ぐらいにここを通る。それじゃあ……いってくる。」
「わかりました。益臣さん…いつまでも待っています……いってらっしゃい」
一九四四年一〇月二二日朝、一二機の航空機が並んでいた。その機体からは特徴的な三本の突起が突き出しており、発動機を回しては出撃を今か今かと待っていた。
その周りには総勢十六名の隊員と初の陸軍特攻隊の出撃とあって詰めかけた多くの将兵の姿があった。
「さて諸君……我々、陸軍特別攻撃隊はこれより戦地フィリピンへと向かう。そこで我々は国を護るため敵へと体当たりを敢行し敵を撃滅するのである!では、出撃だ。総員、搭乗。順次発進せよ!」
「「「はっ!」」」
その掛け声とともに一斉に機体に乗り込む搭乗員、数が一人二人の差はあれど皆、大きな双発の機体を揺らしエンジン音を響きわたらせながら次々に大空へと舞い上がっていった。
その日、東京の秋空に十数機の航空機が東京上空を通過した。その際、先頭の機が機体をバンクさせ長い間別れを告げていたという。その姿は白みがかった富士の山を背に光り輝いていたという……
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