第7話「君」と一緒

「んん…おはよ…。私、いつの間にか寝ちゃってたんだね…。

 き、昨日の夜はさ…、ほんとにごめんね…。もうあんなことは言わないから…」


 首を振る君。


「今日からまた、よろしく…ね」


(あーっ…ダメだダメだ…。どうしてこんなにローテンションなの!?

 こんなんじゃダメ。どうしたのいつもの私…。どこ行っちゃったの?もう…。

 ん?学校行く準備?…もうそんな時間なんだね…)


「ええっ?…どうして私をケースに入れてるの…?

 昨日は…学校で目を離した時に心配になるから、別のギターを持っていくって言ってなかった?…」


「――」


「ん…?私と…少しでも…、一緒にいたい!?

 …う、うわああっ!な、何言ってるのっ!?

 そんなにストレートに言われたら私…、あううう…」


(もう…。とんでもないこと言うんだから…全く。

 で、でも…嬉しい…。ずっと君のそばにいられると思うと…)


「ちゃんと朝ごはん食べたほうがいいよ!少しでもいいから…」


 慌ただしい音。


(私もこないだまで、食パンくわえて通学…してたんだよね…。

 なんだか遠い昔のことみたいに思えるな…)


「それじゃあ、しゅっぱ~つっ!おお~、朝はまだひんやりするねえ~」


 たくさんの通勤通学の自転車。ベルの音がそこかしこで聞こえる。


「うわあ…みんな急いでるね…。いっけえ~!誰にも負けるなあ~!」


(うんうん、笑ってくれてる…。私が君にできることはこれなの…。

 君が少しでも楽しく、前向きに生活できるようにしたい…。それだけだよ…)


 学校に到着。


「いえ~いっ!一番乗り~、でもないか?

 ていうか…ギリギリじゃない!?みんなもう教室にいるよ…。

 うわっ…チャイム鳴ってるしぃ~!」


 猛ダッシュする君。


「うわわわっ…!ちょっと待って…、はやいっ…、危ないよ~!」


 ジジジ…、ボコンッ!!


「痛った~い!!あうう…」


(少し開けてくれてたファスナーが全部開いちゃったんだ…。

 痛ててて…。よかった…下にマットがあって…)


「大丈夫!?君に当たってない?…ねえ?」


「――」


(よかった…ケガはないみたい…)


 ペグを回したり、スイッチを切り替えたりする音。


(いろんなところを触って、私が大丈夫か確かめてくれてる…)


 ふと、君の顔を見る。


「えっ?な、なんで泣いてるの!?やっぱりどこか痛いの!?」


 首を振っている。


「…私をこんな目にあわせた自分が…許せない?…だ、大丈夫だよ…ほら、もう痛くないし…ねっ?そんなに謝らないで…」


 立ち上がる君。


(…ケースごと両手で抱えてくれてる…。歩きにくいのに…。優しいな…。

 あ…、これだと君の体温が感じられるね…。

 ほんわかして…いい気分。眠くなってきちゃったな…)



(んむ…、むにゃむにゃ…あれ…?ここはどこかな?

 掃除道具にスコップに、いっぱい物がある…。

 用務員室?…あっ、針金をもらって…ファスナーが開かないようにしてくれてるんだ…)


「ありがと…。これで大丈夫だね…」


 教室に戻る君と私。


「えっ…、もう放課後なの?私、ずっと眠ってたってこと?」


「――」


「そっかあ…。授業、ちゃんと聞けた?居眠りしてない?

 まあ…ずっと寝てた私が言うのも変な話だけど…」


「――」


「そ、そんなに笑わなくてもいいでしょっ!?

 …えっ?笑うべきところだと思ったから笑った…?

 そ、そっか…。ごめん…気を遣わせちゃって…」


「――」


「ん…?元気そうで…安心した…?ありがと…。

 身体もなんともないよ…。それで…これから部活?」


 希望でいっぱいの表情。


「うんうん…いい感じだね。その元気があれば大丈夫。

 周りの人たちともきっと上手くやれるよっ!

 じゃあ、行こっかあ~!楽しみ~。部室ってどんなところなんだろう~?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る