4月の君に
ヒロコウ
第1話4月の君に
春
それは出会いの季節と呼ばれる。
だが反対に別れの季節とも呼ばれる。
ここにいる伊出亜 優人も今日別れを告げる人がいる。
いつも通りの平凡な日々。クラスに彼女の姿は無い。
「おい優人!」
親友の山口 直人が俺の名前を呼ぶ。
「どうしたんだ、そんな怖い顔して。教師にタバコでも見つかったか?」
いつもなら、2人でバカみたいな話になるが今日は違った。
「お前今日大事な日なんじゃないのか?」
「大事……なんかあったか?」
「夏菜が引っ越すんだろ、行かなくていいのか。」
「それなんだけど、昨日の夜電話したら見送りはしなくて良いって」
「……」
直人は何も言わない。
「優人の顔を見ると、寂しくなってしまうからって言ってたよ」
直人に顔を向ける。
次の瞬間、直人は俺の胸ぐらを掴んでいた。
「お前本気で言ってんのか!」
コイツに怒らえるのなんて初めてだ。
「何をそんなに怒ってんだよ」
服を掴む力が強くなる。
「何年も一緒にいて、寂しく無い訳がねぇだろ!」
掴む力が弱まる。
「来なくて良いって事は、来いって事なんだよ。」
俺はハッとして、足に力を込め走り出す。
「優人〜!!これ持っていけ〜!!」
20メートルも離れたところから、直人が何かを投げる。
「カギ……」
「早くいけ!」
俺は心のなかで、ありがとうを叫んだ。
直人の自転車を漕ぎ、学校から一番近い駅に向かう。
汗と涙で視界を塞がれながらも、必死にペダルを回す。
駅に着くと休む暇も無く、階段を上りホームに行く。
「優人?なんでここに?」
夏菜はベンチに座っていた。
「ハァハァハァハァ……」
呼吸を整える。
「昨日……来なくていいって言われたけど……寂しくないって言うのは嘘なんだろ?」
沈黙が流れたが夏菜は笑っていた。
「バレてたか。本当は学校を抜け出してでも、来てくれないかなって思ってた。でも本当に来るとは思わなかったよ」
踏切が降りて電車が来る。
「ありがとう。でも、もうお別れだね」
風を運びながら電車が来た。
思うように言葉が出てこない。
「今までありがとう。また戻ってきた時に会おうよ!」
夏菜は電車に乗る。
ドアが閉まりゆっくりと動き出す。
電車が見えなくなるまで俺はそこから動けなかった。
微かに残していった風がホームで吹く。
俺は小さく頷いた。
4月の君に ヒロコウ @takahiro1018
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