第13話 それだけじゃ、俺たちが戦いをやめる理由にはならないのかな
「お〜いアラシ〜。起きろよ〜。起きてくれよ〜アラシ〜」
そう言ってヤマアラシの獣人、アラシの肩を揺するのは、ブタの獣人、ピグルである。
ピグルの献身的な声かけもあり、アラシはなんとか意識を覚醒させる。
「あー、起きたぞ、ピグル、俺は、どのくらい寝てたんだ?」
「そんなのオイラにも分からないよ〜。気づいたらボスもツバメ野郎もカラス野郎もいないじゃんか〜。オイラだってアラシなら何か知ってると思ったのに〜」
「何? ボスがいないだと!?」
その言葉を聞き、ヤマアラシは慌てて地面から飛び起きる。本当だ、確かにボスがいない。確かスアロとかいう獣人には一瞬で勝った筈だ。そこまでの記憶はある。だから、あとはそのサンとかいうやつは、もうすでにボスが倒していて、イエナを探すだけだと思っていたんだが。
そこまで考えを巡らせていた時、アラシに一つの可能性が浮かぶ。彼は、ズキズキと痛む頭を抑えながら、ピグルに向かってそれを伝える。
「まさかボス、まだ戦ってるんじゃないか?」
「あのサンっていうやつとかい? なんでまたオイラたちを置いてっちゃうんだよ」
「本当だよ、クソ。なんで肝心な時、ボスは全部一人で背負い込んじゃうんだ。まだガキの俺たちは足手まといって言うのかよ!」
アラシは、ガンっと地面をたたく。そして、一度頭を冷やし、考えを巡らせる。大丈夫だ、
もう自分なら思いつく筈だ、ボスの居場所を。イエナにもピグルにも力で勝てない自分が頭で役に立てなかったらなんだって言うのか。
その時、とあるひらめきが、アラシの頭を駆け抜ける。
「なぁピグル、あの宿に行こう」
「え〜でも、ボスの朝は早いから部屋で寝てるってことはないと思うけど〜」
「ちげぇよ! もし仮にボスが俺たちを置いてどこかで戦っているとしても、あのサンって標的にはなんらかの手がかりを残しておくはず。だって今回の一番の目的はあいつなんだから、あいつだけおいて飛行船に行くってことはない。だから、さっきの宿屋に行けば、ボスの場所もわかる筈だ」
「流石アラシ〜。よし、そうと分かったら早く行こう!」
そして、アラシとピグルは走り出した。もう一人でなんて戦わせない。ボスだけじゃなく俺たちみんなで自由を掴むんだ。朝日が照らす中、その光を背に受けて、ピグルとアラシは走り出した。
激しくぶつかる刀と大剣。互いに激しい音を響かせながら、サンとフォンは命をかけて戦っていた。
武器同士のぶつかり合いから、フォンは一気にサンと距離をとり、大剣を構えられる隙を作る。そして、サンに向かって大きく振り下ろす。
しかし、それを敏感に察知して、陽天流四照型、旭日で大剣を上に弾き返すサン。そして、そのまま刀を振り下ろし、フォンを狙う。フォンはそれをまた大きく引いてギリギリのところでかわす。そしてフォンは、サンを睨みつける。
「つまらねえなぁ。さっきからお前が繰り出すのは、旭日と洛陽の防御技ばかり。俺だって陽天流の技は知ってるんだぞ! もっと全力で攻めてこいよ! それとも、まだ、お前は、戦うことためらってるのか!?」
「…………」
ただフォンに視線をぶつけ押し黙るサン。そんな彼に、フォンはまた大きく振りかぶり、持ち前の武器で彼に切りかかる。
――ガキィィィィン。
大きく音を立てる二人の剣先。そして、フォンは、その勢いのままサンに言葉をぶつける。
「あめぇぞサン! もう戦いは始まったんだ! つまらねえ私情で剣を振るな! そんなんじゃ、目の前の奴らなんて誰も守れやしねえぞ!!」
「――だって」
大きく離れる両者そして、サンは、刀を握りしめ、フォンに自らの感情を晒し出す。
「本当の家族みたいだなって思ったんだ。フォンのそばは、本当に暖かくて、心地よくて、家族の温もりってこんな感じなのかなって思ったんだ。なあ、フォン、俺さ」
サンは刀をおろす。そして、言葉を続ける。
「あの時分けてもらったコロッケが、一人で食う時の何倍も上手く感じたんだ。それだけじゃ、俺たちが戦いをやめる理由にはならないのかな……?」
ポツポツと、力なく繰り出される彼の言葉。痛々しいほどの彼の純粋さは、フォンの心にも間違いなく真っ直ぐに届いていた。しかし、フォンは、彼に向かって、ゆっくりと首を振る。
「……ならないんだ。ならないんだよ、サン。そんな気持ちだけじゃ人の腹は膨れねえんだ。しっかりと武器を構えろよ、サン。俺はお前を殺すつもりで行くぞ」
地面を蹴り、再びサンに突進するフォン。サンは、あらゆる感情を押し殺してどうにか武器を構える。
――ダメだ。やらなきゃやられるんだ。だから、頼むよ……俺の体。
――動いてくれよ。頼むからさ。俺をフォンと戦わせてくれよ……。
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