第11話 陽天流六照型、双陽返燕刃
一方そのころスアロは。
「おいてめえ、良い加減に守りに入ってないで戦えよ! ずるだぞ!」
「立派な戦略だよ。それに敵の言うことなんて、わざわざ聞くかよ」
鳥人のスピードを活かし、相手にひたすら木刀を叩きつけるスアロ。それを難なく捌くヤマアラシ。クラウとブタの獣人が戦いを終えてもなお、この両者は互いの武器を打ち合っていた。
――そろそろ、やばいな。
内心でそう呟くスアロ。先ほどからどうにか相手を崩そうと攻めを繰り返しているが、このヤマアラシは一向に隙を見せる気配はない。そして、攻めと守りであれば当然、長時間の打ち合いで消耗するのは攻めの方である。
「どうした? 息があがっているぞ。こんなに力のない剣を振るうやつだったか? これなら俺にでも倒せそうだな!」
スアロの木刀を強く弾き、ガードの空いたところに針を刺しこむヤマアラシ。スアロは、どうにかそれをかわし、一度間合いを取る。
「はっ限界みたいだな」
ヤマアラシはスアロに対して落ち着いた様子でそう語る。
「どこがだよ? バリバリ元気だわ」
「嘘をつくな。本来のお前なら、いまかわす際には、日輪とか言う技を打ち込みに来るはず。それをしないということは。技を繰り出す体力もないんだろう?」
「…………」
スアロはその問いに対して何も応えることが出来なかった。正直、ハイエナとの戦いの傷も残っていることもあり、スアロの体は満身創痍だった。
「図星か。いつまで待ってもピグルが来ないあたりやつは負けたんだろうが、まあお前は俺一人で片付けよう。さてそろそろこの戦いを終わらせようか?」
――そうだなぁ。あいつの言う通り、もう俺が出せる技なんて1、2個程度だろう。
スアロは、息を吐き出し覚悟を決める。次の技で自分の力全てを出し尽くす覚悟を。
「なぁ、ハイエナとの戦いでお前らに見せた陽天流の型は確か5個だったよな?」
「急に何を言いたいのかは、わからないが、そうだな」
「だよな。陽天流は、突き技の木洩れ日、切り下ろし技の洛陽。返し技の日輪。切り上げ技の旭日。連撃技の白夜の五つ。俺も先生にはそれしか教わってない。でも陽天流には、これより先があるんだ」
木刀を中段に構え、じっとヤマアラシを、見つめるスアロ。何か仕掛けてくる、ヤマアラシもそう思い、自らが持つ長針をじっと構える。
「実はな。陽天流の六照型からは、技を継承した弟子自身が自分の力で作り出すことになってる。自分に備わった獣の力。その強みを生かして、好きに型を作って良いんだそうだ。ところで針野郎。この俺、ツバメの強みはなんだと思う?」
「ツバメ? あの小さな鳥に何ができると言うんだ?」
馬鹿にしたように笑うヤマアラシ。スアロは、そんな彼に落ち着いた様子で、応える。
「そうだよな。俺もそう思うよ。早く飛行できても結構猛禽類には勝てないし、鳥の中で秀でて目がいいわけでもない。でもな、どうやら体が小さいから旋回する速さはめちゃくちゃ速いみたいなんだ。将来的には、どこかの剣豪が『燕返し』なんて技を作るかもしれないな」
「いい加減にしろ。話が長いぞ。何が言いたい?」
「だからさ、特別に一番最初にお前に見せてやるよ。武器を打ち下ろす技、洛陽と、武器を上に弾く技、旭日を生かした俺の六照型を!!」
――ダンッ。
瞬間、スアロは大きく飛翔した、そのまま相手の針に向かって、着地の勢いを生かし、武器を上から打ち下ろす。
「――ぐっ」
短く声を漏らすヤマアラシ。しかし、スアロの攻撃は、そこでは終わらない。彼は、洛陽の勢いを殺さずに、そのまま旭日の動きにつなげる。相手の武器を打ち上げ、技を繰り出す隙を作る技。空に登る太陽が、自らの勝利を告げるように。
――カアァァン。
そのまま大きく打ち上げられたヤマアラシの針は、彼の手を離れ高々と打ち上がる。上下に激しい力が加わり持っていることができなかったのだ。
目の前には、武器も何も持たない、ただの獣人。
スアロは、打ち上げた技の勢いを生かし、自らの木刀を激しく打ち下ろす。
それがスアロの六照型。切り下ろしから切り上げへと瞬間的につなげ、最後の斬り下ろしで相手を打ち負かす型。ツバメの宙返りに見立てた、陽天流をいち早くマスターした彼にしかできない、完璧なまでに美しき剣技。
空に浮かぶ日の光は、水面みなもに映りて照り返し、二つの光が敵を射抜く。
「陽天流六照型、双陽返燕刃(そうようへんえんじん)!!」
スアロは上段から相手の頭目掛けて大きく振り下ろす。
刀は、相手を捉え、ガンッと勢いよく音を立てる。
あまりの衝撃にヤマアラシの脳は揺れ、彼はそのまま地面に倒れた。彼の針が地面に突き刺さる。KO勝ち。勝負を制したのは、スアロだった。
「おっしゃぁぁぁぁ! 勝負あったな!!」
スアロは、木刀をしまい、眼前に倒れている獣人を見つめる。
正直言って、決して楽な相手ではなかった。勝負に出ずにあのまま戦っていたら負けていたのは自分の方であったろう。まだまだ訓練中の技が上手くいってよかった、スアロは心からそう思った。
――さて、はやくここから逃げないとな。
そう思い、早くここから飛び去ろうとするスアロに対して、後ろから声がかかる。
「なるほどな。斬り下ろしからの超高速の切り上げか。これは確かに反応できないな。やはりお前は俺の手には負えなかったか」
それは辛うじて目を覚ましたヤマアラシの姿だった。
「あんま喋らない方がいいぞ。頭にめちゃくちゃ強く一発入れたんだ。安静にしてた方がいい」
「気にするなよ。だが、すごいなぁ、お前らは、ピグルも帰ってこない様子を見ると、イエナもピグルも俺もお前らにやられたわけだ。大したもんだよ陽天流は。だけどな、お前は、俺がただピグルを待つためだけに時間を稼いでいると思ったのか?」
「何言ってんだよ? お前」
その時スアロは、すさまじい翼の音がこちらに向かっていることに気づいた。そしてそれを聞き、彼は、このヤマアラシが最初から何を目的として時間を稼いでいたのかに気づく。
「きっとお前ら3人は一人でも捕まえていたら残り二人が助けに来るんだろ。そしてもうお前は逃げられない。試合に負けて勝負に勝ったとはこのことだな」
ヤマアラシの声を背中に受けながらも、夜空を見つめるスアロ。すると、彼の目の前に、羽音の主が降り立つ。
大きな翼をはためかせ、敵のボスは、スアロの前方に降り立った。
――あー、これは流石に勝てそうにないな。
「後、大体そこを曲がったらつくんだっけ? クラウ」
「うん、暗闇でよく覚えてないけど、確かそうやって私は逃げてきたと思う」
サンは、クラウとともに、彼女の記憶を頼りに、商人たちが宿泊していた宿へと向かっていた。周囲は少しずつ明るさを取り戻していて、夜明けもすぐそこまできている。
しかし、彼らはそれでも決して帰ろうとはしなかった。いや帰るわけにはいかなかった。それはまだ、スアロが戻ってきてはいないからだ。
もちろん見捨てるなどという選択肢はサンの頭にはなかった。あのボスは強く、サンには未だ勝つイメージなど湧いていない。もし次戦うことになったら自分は命を落とすかもしれない。しかし、そうだとしてもサンにとっては、スアロを見捨てるよりもともに死んだ方が幾分かマシだった。
「宿に行けば、ボスがいるの?」
クラウは、ボロボロになったサンの背中に問う。
「うん、多分いるだろうね」
「勝てるの?」
「…………」
サンは押し黙った。先述したとおり、サンに勝てるイメージなど湧いていない。
クラウは、彼の沈黙から自らの問いの答えを知った。しかしもう彼を止める気など決して起こらなかった。長い付き合いだ。サンがここで止まらないということぐらい、痛いくらいによく知っている。
「ねえ、サン。絶対に、絶対に3人で帰ろうね。3人で帰ってさ、すぐにケイおばさんにご馳走作ってもらおうね」
だからこそ、クラウは彼に約束を突きつけた。サンはきっと自分が止めても止まらない。だからこそ、生きて帰ろうと、そうクラウはサンと約束をかわそうと思った。
すると、サンもこう答えた。
「ああ、必ず生きて帰ろう」
サンは、微かにクラウに微笑んだ。しかし、その微笑みはないあまりにも儚くて、クラウは、かえってこの先の未来を不安に感じるのだった。
それから二人は宿に着いた。だが、結局のところその宿には、スアロもボスもいなかった。
不思議に思い宿屋の店主に聞くと、店主は、大きな翼を持った獣人が、自分たちに一つの伝言を残したと答えた。その伝言はこうである。
『ツバメの獣人は預かった。返して欲しくば、西の森まで来い。サン。俺とお前でこの戦いの決着をつけよう』
の森とは、この宿場町を文字通り西に抜けることによって存在する緑の豊かな森である。ちなみに飛行船は、その森を抜けてすぐのところに存在している。
こうして西の森が、サンとそのボスとの決戦の舞台ということになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます