サタデーナイト・ワールドカップ・フィーバー

踊る猫

ビー玉をよく見たら

ぼくは今年で47歳になる。この歳になると老眼がそろそろ気になってきて、結局ぼくも遅まきながら老眼鏡というものを作った。行きつけのメガネ屋さんが「ここのところ『スマホ老眼』っていうのが増えているみたいですねえ」と教えてくれた。老眼鏡を場合に応じて掛けてみると、なるほどよく見える。ぼくはメガネを掛け始めた頃のことを思い出した。それまで目が悪くなってもただ為す術がないままぼやけた世界の中を暮らしていただけだったのに、メガネを掛けるようになってふと「世界はこう見えているのか」と驚いたのだ。


メガネにまつわる話、ということになるだろうか。ぼくはその時夏の路地裏を歩いていた。その日ぼくは、ガールフレンドの家から自宅に帰るところだった。なぜ路地裏かというと、その日はカンカン照りの太陽が射していて熱中症に気をつけるようにテレビで喧伝されていたからだ。直射日光を浴びると熱中症になる、と思って木陰の涼しいところを歩いていると、ふと道に何か落ちているのがわかった。それはビー玉だった。ぼくはそのビー玉を拾って眺める。ターコイズブルーのビー玉だ。だが、何かおかしいことに気づいた。


ぼくはもっとよく見ようとして、その時は掛けていなかったメガネを掛けた。すると、ビー玉の表面が何だか光ったり光らなかったりしていることに気がついた。どういうことだろう。じっと手のひらの上で動かしてもいないというのに。ぼくがもっとよくメガネを掛けた顔にビー玉を近づけてみると、そのビー玉の表面には白い霧のようなものが掛かっていることに気がついた。その霧がせわしなく動いている。確かに不思議な光景だと思った。だけどいったい何が起こっているのかぼくにはよくわからなかった。それで、そのビー玉を手放すことにした。


ビー玉を近所の川に持っていき、そして河原に手放す。そうするとそのビー玉はコロコロと転がって川に入っていった。ふと、あの白く動いている霧みたいなものは何だったのか思い当たった。多分、あれは「雲」だったのかもしれない。じゃ、あのビー玉はちっちゃくなった「地球」なのだろうか?……そう思い、またあのビー玉を拾おうとしたところ不意にあたりが暗くなって土砂降りの雨が降ってきた。ぼくはほうほうの体で逃げ出した。すぐに雨は止んだ。いったいどうして止んだのかはわからない。誰か拾ったのだろうか。まあ、そんなこともあるのが世の中だ。

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