第7話
ボルグは、この屋敷を離れて暮らす母に、愛人との間に子どもが出来たことを手紙で告げた。アメリアと離縁し、ウィルに売ったことは伏せておいた。
すると数十日後、母から返事が返ってきた。
そこに書かれていたのは――
『セーラという女性が身ごもったのは、恐らく貴方の子どもではないでしょう。何故なら、貴方は物心つかない程幼い頃に事故に遭い、男性としての機能を失っているのですから』
後頭部を殴られたような衝撃が、頭の中で走った。
手紙はこう続いていた。
『アメリアは、このことを知っていて、あなたとの結婚を承諾しました。貴方と結婚を決めたのは、心の底から、一生を添い遂げたい相手だからと。子どもは、貴方の弟妹の子を養子に貰えばいいと。自分の子を持てなくて、辛いのは彼女のはずだったのに、笑ってそう言ってくれたのです。どれだけ、私の心が救われたか分かりません。この事実を今になって、手紙で告げるしかできない母を許してください。どうか、アメリアを大切に』
手紙が手から滑り落ちると同時に、ボルグは膝から崩れ落ちた。
瞳から、止めどなく涙がこぼれ落ちる。アメリアと過ごした日々が、走馬灯のように駆け巡った。
今になって、ようやくアメリアがどれだけ自分に尽くしてくれたのか、愛してくれていたのか、気付いたのだ。
欠けていたのは、自分の方だったのだ。
それを知りつつも、彼女は自分と一生添い遂げようとしていてくれたのに。
それなのに、いつからだろうか。
アメリアの至らない点ばかり目に付き、責め、疎ましく思うようになったのは。
彼女は、ずっとボルグのことを気遣い、決して自分の功績を自慢することなく、陰ながら支えてくれていたというのに。
ああっ、と声を漏らすと、ボルグは両手で顔を覆って泣き崩れた。
気持ちが落ち着くと、ボルグはセーラの元に向かい、お腹の子の父親を問い詰めた。最後までしらばっくれる彼女に、自身が子を成せぬ身体だということを明かすと、離縁届を書かせ、身一つで屋敷から放り出した。
そしてその身体で、アメリアを売った先――ネヴィル家へと向かったのだった。
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