ブルードセレナーデ

港龍香

前編

今でも思い出す、あの時の記憶。

真っ赤な空、家に覆いかぶさる炎。

そして……大量の吸血鬼。

私の家を、街を壊した大量の吸血鬼。

いや……吸血鬼が壊したんじゃない。

私が……私が壊してしまったのだ。

私のこの力を欲して、吸血鬼はやってきた。

私が……私が……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

……嫌な夢を見てしまった。

昔の夢、私がいまこの山奥に住んでる理由を。


「お嬢様、おはようございます。朝ですよ」


「おはよう、朱恵(しゅえ)今日もありがとう」


嫌な夢を見てしまったが、最低でも朱恵にはばれちゃいけない。

朱恵はあの時、私をあの場所から命をかけて連れ出してくれた。

きっと、バレたら物凄く心配するだろう。


「下で、友(ゆう)が朝ごはんの用意をしています。行きましょう」


「えぇ」


今この家には訳ありで引きっとた子供がいる。

その子供たちと家族のように暮らしている。


「あーっ、おねーちゃんおはよーっ!」


「おはよーっ!」


「おはよう、渓(けい)、奏(かな)」


まだ小さいのに、捨てられた双子の渓と奏。


「やっほー、お嬢様ーおはよー」


「おはよう、舞(まい)」


父親に家を追い出された舞。


「お嬢様、おはようございます」


「おはよう、友、今日も美味しいそうね」


「ありがとうございます」


学校と親からのいじめに耐えかねて家を出た友。


「おはよう、琴(こと)」


「………はよ…」


最近、ここに来た琴。

これが今の、私の家族。


「渓、奏、お皿運ぶの手伝ってくれるかい?」


「「はーい!!」」


「それじゃーあたし達は箸と飲み物準備しよー」


その言葉に琴はこくりと頷く。


「お嬢様、どうぞ」


「朱恵、もうそんな子供扱いしなくてもいいのに……」


「私は、お嬢様を守るために生まれた身……軽々しく出来ません」


むー……朱恵もガードが堅いなぁ……


「お嬢様、準備できました」


「それじゃあ……いただきます」


これが、毎朝の出来事。

今日は何をしよう。

買い物は昨日済ませてしまったから……

今日は散歩に出かけよう。


「お嬢様、今日はどうするのですか?」


「今日は散歩に行きます。そんな遠くにはいかないので、すぐ帰ってきますね」


「それではその間、渓、奏、お勉強ね」


「「はーい!!」」


「あたしはどうしようかなー」


「僕は、庭の整備をしています」


「……手伝う……」


「それじゃ、あたしも手伝うよー」


「ふふっ、それでは今日も元気に過ごしましょう!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「えっと・・・」


「朱恵さーん、ここわかんないー」


「はいはい」


んー……ここは……


「こうするのよ、この問題は、これを応用すれば出来るわよ」


「はーい!」


人に教えるのは難しいわねぇ……

確かに私たちは街に下りてこういうワケ有りの子をの勉強を見る仕事についてるけれど…

お嬢様は軽々とやっていくわ…運動の方は得意なんだけど…

そういえば、お嬢様大丈夫かしら?

あの汚物たちも諦めてるわけじゃない。

必ず……私たちの前に現れる。


「あら、2人ともお茶無いわね……持ってくるわ」


冷蔵庫に手をかけ、ふと窓の外を見ると。

見覚えのある姿が映し出された。

吸血鬼、私たちの街を壊したあの汚物共。

息を殺し、気配を最大限に無くす。

そっと、リビングに戻る。

幸いこの家には結界が張ってある。

こちらからコンタクトが無ければ、あっちは気づかない。

危険なのは外にいるお嬢様と友、舞、琴だ。

友と舞、琴は家の近くだから助けやすいが、お嬢様は少し離れている。

もしかしたらもう襲われてるかもしれない。

窓を見て、吸血鬼の行動をさぐろう、すると目の前の森からお嬢様が現れる。

危険を知らせなければいけない、それがたとえあの汚物にお嬢様の存在を知られようとも。


「お逃げください、お嬢様!!」


窓を勢いよく開け、お嬢様に伝える。

お嬢様は汚物の存在を知り、汚物はお嬢様の存在を知る。


「渓、奏、友たちにお嬢様守るよう伝えて!」


「「はーい!!」」


汚物たちはいかにも、下っ端のようなやつがお嬢様を追いかける。

あれくらいなら友たちでも大丈夫だが、ここにいるということは、親玉もいるだろう。

あいつがいたら、精一杯逃げるしかない。

そこに私がいたとしても、倒せないそれくらいあいつは強い。

すると目の前に、忘れない顔がこちらを見てくる。


「久しぶり……かしらね?覚えているのかしら?私のこと」


「覚えてる、覚えてるさ。僕が『わざと』逃がしたからね」


「あの頃と一緒にしたら痛い目見るわよ」


私をわざと逃がしたあいつが、あの吸血鬼が目の前にいる。

こいつはここで倒すしかない。

負けるかもしれない、刺し違えるかもしれない、いや……お嬢様のために勝つ…!


「朱恵さん!友さんたちに伝えたー!」


「下がっていなさい、渓、奏、自分の後ろに気を付けながら私の後ろにいなさい」


流石に渓と奏を守りきる自身はないが、少なくとも、二人ぼっちでいるより安全だろう……

相手の様子を探る。

焦らないように、相手が指一本でも動いたら戦いは始まる。

落ち着け、神経を研ぎ澄ませろ。

そうしてキッチンの蛇口から雫が落ちる。

落ちた音と瞬間に攻撃を繰り出す。

相手は私の首を取りに来た。

だろうと思ったよ。あの時もお前は私の首をとって殺そうとした。

そして、それが失敗するとお腹に一発入れようとする。

前、私は食らってしまった。

同じとは限らないが、どれがきてもいいように対策をとらないと。

守れ、守れ。相手の次の行動を予測して守れ…!

そうすれば一発、一発だけでも出来たら…!

確実に、攻撃を避けきっている。

すると、相手は少しだけ攻撃が大降りになってくる。

そこだっ!

すかさず一発当てる。

そしてこの出来た隙を逃さない!

テーブルの上にあった砂糖を目暗ましに投げる。

出来たといってもほんの数秒。

その隙に……!


「渓、奏、全力で隠れなさい!」


「「わかったよ、朱恵さん!」」


と二人で息を合わして姿を消していく。

「隠れなさい」と言ったら、自分を透明化して、あの場所に隠れなさいと言ってある。

きっとここからは二人を守れない。


「へぇ……びっくり、仲間を増やしたのかい?」


「仲間?違うわ、家族よ」


ここからはガチ勝負、自分の体力とあいつの体力がどこまで持つかの持久戦

相手は、あの時に苦戦した吸血鬼……きっとあの頃より強くなっているだろう。

だけど私だって、強くなるために鍛えた。

お嬢様を……守るために……!


~数年前~


「はぁ……はぁ……はぁ……」


なんで……どうして……!

街がこんなに赤いの……?

外に出られないのに、ドアが開いていた……不思議だと思った。

でも誰が開けてくれたの?

いや、そんなことはどうでもいい。

今は、今はこの街を守らなきゃ……!

辺りを見渡すと、立っている人影を見つけた。


「あの……!」


すると、その人影はこっちを向いた。


『わぁ……巫女だ……♪』


『巫女って力もってるんだっけ?』


『その血吸えば、俺も強くなれる…!』


あ……違う……人じゃない…吸血鬼だ…!

逃げなきゃ…!捕まって血でも吸われたら、この世界は終わってしまう!

動いて、その場で震えていないで、動かなきゃいけないのに……動けない。

吸血鬼がこっちに向かってくる。逃げなきゃいけないのに……!


「危ない!」


目の前に、見知った背中が出てくる。


「大丈夫ですか?お嬢様!」


「朱恵……ありがとう、ねぇ朱恵、これはどういう状況なの!?なんでこの街に吸血鬼が…!」


「分かりません……吸血鬼はどんどん街の人を殺しています。早く逃げないと!」


「まってっ!まだ死んでない人がいるんでしょう?ならその人を助けないと…!」


「しかしお嬢様っ!」


「そうだよ……」


朱恵の背後に新しい吸血鬼が現れる。


「巫女さんはちゃんと残ってくれないとね?」


「お嬢様逃げて!」


「で……でも!」


「早くっ!」


私の足はまだ震えて動かない。

操り人形になったように、私の足は動かなかった。


「よそ見していていいのかなぁ?」


吸血鬼は朱恵のすぐ近くに寄り話しかける。


「近寄るなっ!」


そう吸血鬼と距離をとって、戦っていた。

でも相手は、子供と遊ぶかのように戦っている。

これじゃあ、朱恵は負けてしまう……!

するとそこに、新しい吸血鬼がやってくる。

これまでと比較にならない、とてつもない気を感じる。


「おい、何を遊んでいる?」


「おやおや、大将ではないですか」


「その呼び方やめろ」


そうして気を逸らしてる間に朱恵は私を抱え、走り去る


「朱恵、待って、まだ街の人が!」


「お嬢様!さっきのを見てわかっているでしょう!?あいつはわざと私たちを逃がすように気を逸らしました。街にはもう……戻れません」


まだ、残っているかもしれない。手を伸ばして、自分が生まれ育った街から、少しでも長くいようと、長く長く伸ばす。

赤く染まった、街を。


~現在~


やった……かしら?

相手はもう動かない。

でも、きっとすぐ復活するだろう。

少しだけでいい、時間がとれればそれで。

渓と奏はそのままにして、お嬢様の方に行こう。

あの二人はまだ、戦う力を持っていない、その二人を戦場につれていくわけにいかない。

あぁ、ちょっと疲れちゃった……

でも、早くお嬢様のところにいかなきゃ。

行かなきゃ行けないのに、瞼が……重い……

お嬢様、そっちにいくの少し休んでからにしますね。


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ブルードセレナーデ 港龍香 @minatoRK

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