3 箱入り息子

「取り敢えず、説明して下さい」


リビングには今、三人の男女が座っている。


僕、リノちゃん、そして……シノさん。

シノさんの正座はなんとも綺麗だ。

背筋がピンと張り、そして、胸部や太もももパツンと張っていて……

これはもう、いち個の芸術品だ。


「ちょっとお兄ちゃーん、そんなにお姉と見比べないでよー。私は発展途上で来年にはお姉と同等……いやそれ以上に育つんだよっ」

「しかし彼女もまた育つ可能性だってある。その距離は永遠に縮まらない」

「ぐぬぬ……アキレスと亀……!」

「何の話ですか……」


はぁ、とシノさんは息を吐く。

こう見るとこの姉妹、見た目にそれぞれ特徴がある。

年齢差による肉付き具合は置いといて……


姉のシノさんは、髪が腰ぐらいまでの長さで、目の形はキリッとして鋭く、真面目そうな印象があり。

妹のリノちゃんは、髪は肩ぐらいまでで前髪パッツン、目の形はクリッとしていて、子犬みたいな可愛らしさがある。


というか、そう。

今更ながら、姉妹なのだ、この二人は。


「リノ、全て貴方の企みでしょう。説明しなさい。それに……お、お兄ちゃんって、何です」

「んふふ、お姉、仲良しな私達に妬いてるー?」

「わけがわかりません。こちらは真面目な話をしているのです。そのふざけた『距離感』もやめなさい」

「私は巫山戯てませんけどー?」


そう言って、リノちゃんは『僕の脚の間』で左右にユラユラする。

僕はさながら座椅子。


「貴方も……その子を甘やかさないで下さい」

「…………え、僕?」

「はい、貴方に言ってます」

「わぁ、初めてシノさんと話しちゃった。なんか感動」

「えーっ、お姉同じクラスなのに何もしなかったのっ? 信じらんなーいっ」

「そ、それは……」

「なんか僕、いつも睨まれてた」

「カワイソー、お姉ぇ目付き悪いからー」

「に、睨んでませんっ。それに、話したのは初めてでも……(ブツブツ)」


睨んでたんじゃなければ、何故僕を見てたんだろう?


「ふぅ。脱線しすぎです……リノ、何を企んでるんです?」

「企みはもう実行に移しちゃったけどねぇ。この状況に持ち込めた時点で、私はもうこれ以上何もしないっ」

「んー? リノちゃん、何したの?」

「ずっとここで見てたのに鈍感ってレベルじゃ無いよお兄ちゃんっ。まぁ折角なんで口に出して教えてしんぜようっ」


グッと、リノちゃんは拳を握って天井に掲げ、


「お兄ちゃんとの同棲計画っ、ですっ」


「……わー(パチパチ)」

「どーもどーも」

「呑気に拍手なんてしないで下さい。貴方はコレを知ってたんですか?」

「いや、今聞いた」

「ニブちんだなぁお兄ちゃんは。思いっきり目の前でお兄ちゃんの部屋の家具類をそこの部屋に運んでたってのに」

「あー、既視感それかぁ」

「えっ、そこの部屋にっ?」


サッと立ち上がったシノさんはリビングを出て、そこの扉を開け中を覗き、中へと消えた。


「……中々出てこないな。面白いもん(私物)はなかったはずだけど?」

「うふふ、『堪能』してるんじゃないの? 私はこうして『生』を味わえてるからいいけどっ」


それから、シノさんは時間にして一分ぐらい部屋の中にいて、何事もなかったようにリビングに戻り、スンッとした顔でまた美しい正座に。


「……しかし、同棲など急過ぎるでしょう。本人も知らなかったというでは無いですか」

「お兄ちゃんのご両親からは了承済みだよっ。本当は私、家まで迎えに行く予定だったけど、バッタリ会えたから手間が省けたっ」

「知らなかったの僕とマイシスター(妹)だけかぁ」

「……そういう貴方はいいのですか? まるで他人事のような態度ですが」

「えー、なんかお泊まり会みたいで楽しそー」

「ご両親含めその場のノリで生き過ぎでしょう……」


学校からも近くなるしね。

特にデメリットは感じない。

というか、シノさんは特に反対はしないんだな?


「さて……僕がここで暮らすに当たって、何かする事はあるかい? 二人とも既に手に職があって自立してるようだけど」

「ああ、仕事ねぇ…………思えば色んな仕事したなぁ」


しみじみ、遠くを見るリノちゃん。


「アイドルやったはいいけどトップの方でも言うほど稼げなくって……それまぁ元から知名度アップが目的だったから良いんだけど……それで、得た知名度で配信者やら作家やらをしてそこそこ稼げるようになって……漸く、『この為の』資金が貯まって」


定年まで働いたリーマンみたいな苦労話だ。

何が、彼女達をそこまでつき動かしたんだろう?


「で、こうして全てが報われたわけだ。お姉、正直私もう『目的達成』したから燃え尽き症候群なんだけど」

「……今更辞める気ですか? 生活水準を維持するには何かしら続けないとですよ」

「別に、ボロアパートでもよくない? 寧ろ部屋が少ないなら物理的に距離が縮まるしっ」

「……それを、親御さんに伝えられます?」

「うっ……確かに。こっちは大切な息子さんを預かってるわけだからね。粗末な部屋には住ませられないか。しゃあない、仕事は細々続けるかぁ」

「僕そこまで箱入り息子みたいに過保護に育てられてないんだけどなぁ」


あとなんか話が逸れてる。


「あっ、お兄ちゃんの仕事の話だったよねっ。まぁ普通にそこは気にしないでいいんだけど……『宝の持ち腐れ』感はあるなぁ」

「言っとくが、自慢じゃないけど僕には何の才能も無いぜ?」

「本当に自慢じゃないですね……」

「そんな事ないよっ。お兄ちゃん何でも出来るからっ。てか……ほらっ、例えばこの動画とかっ」


言って、リノちゃんはスマホを見せてくる。

そこは動画サイトのようで。


「これっ、私達のアイドル時代の動画より伸びてる動画っ」

「ああ、それ」

「お兄ちゃんが投稿したやつでしょっ?」

「よく分かったね。でもそれが伸びたのは『妹ちゃん』のポテンシャルなだけで」

「でもこっちの子はお兄ちゃんでしょっ?」

「バレるもんだねぇ。でも、刺身のツマみたいなもんさ」

「そうじゃないってのはコメントで分かるでしょもうっ。お兄ちゃんは自分を過小評価し過ぎっ。他にも、私はお兄ちゃんが裏で色々してるの知ってるんだからっ」

「まぁバレても特に問題は無いんだけど。いや、妹ちゃんは嫌がるか」

「本当に貴方は自身に無頓着ですね……」


でも。


「それで何か力添えが出来るってんなら助力するよ?」

「あー…………でもなぁ。お兄ちゃんをこれ以上表に出すのはなぁ。独占してぇんだよなぁ」

「気持ちの悪い妹ですね……」

「ま! 兎に角、その話は今度するとして、今はこの新たな生活のスタートを祝おうよっ。ご飯ご飯っ」

「あ、もう夕時かぁ。普段は二人で自炊?」

「まちまちですね。デリバリーの日もあったり。一応冷蔵庫に食材はありますが」

「祝いの日なんだしお寿司取ろうよー。あとなんかチキンとかケーキっ」

「じゃあ僕は冷蔵庫の物で何か作ろうかな。サラダとか汁物とか」



その後は、三人で夕飯の準備、三人で夕食の時間を過ごして……


三人でお風呂タイム。

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