第十五話 ヤタ復活
仲良くなるきっかけは共通の敵が存在する事というのはよく言われるが、鈴城の件について途端に二人は意気投合しはじめた。
「そいつ、元々
「その可能性はあるわね。身長も同じぐらいで、ゲームの話題以前の
「ゲームをきっかけにクラスの人気者になったのが羨ましくて、か」
「今まで
二人の会話が弾むのは良かったが、それが人の悪口というのはいたたまれなくて、二人の話を聞きながら必死に次の話題を模索する。バーサーカーがよもや自分の可能性があるとはとても言いだせない。
「そ、そうだ、
「あ・い・り」
「えっと、
パァっと少女の顔が明るくなる。美少女の顔が輝くと、本当に周囲にキラキラが見えるんだ、と不思議な感覚になるが、
「で、なあに?
「えっと、
二人がケンカせず、誰かを貶めない話題といったら、もうこれしか思いつかなかった。
「パパの蔵書をいろいろ調べてわかったのは、古来から人が利用して来たものは全て、
「風水? 西に黄色とかいうやつか」
「昨今のインテリア風水のようなカジュアルなものじゃなくて、もっと根幹にあるものね。龍脈って聞いた事ある?」
「なんだっけ、地面にあるんだっけ」
「そう、地中にある気のルート。その気が噴き出す場所を
「風水かあ、確かに歴史も古いしなあ」
「そして風水では、音で気の流れを変えられるらしくて、風鈴なんかはよく活用されるらしいんだけど、一定の波長の音を出す事が出来れば、よりその気を集める事が出来るんだとか。今は
「鈴……」
あの峠での不思議な音と、霧のように大量に集まった
* * *
「なるほど、これにそんな効果が」
白い病室でパイプ椅子に座りながら掌に収まる小さな金剛鈴を、音が鳴らないように
「見た目は真言密教の物みたいだったから、それがまさか彼らが話題にしていた風水の鈴だとは思わなくて」
ベッドの上で月刊レムリア編集部員、須藤ミナトはしょんぼりと肩を落とす。
風水師が操る
思わずよろめいて、触れたのがこの鈴。音が鳴れば見つかってしまう恐怖から、思わず掴んでしまった。しかしその行動も虚しく見つかってしまい必死で逃げたのだが、後から鈴を握りしめたままだったことに気付いた。追われる原因はコレかもしれないと薄々感じてはいたが、捨てるわけにもいかず峠に逃げ込んで、見つかりそうになってはじめて鈴を鳴らしてみた。奴らに見つからないように願いを込めて。
そして発生したのがあの霧だったのだ。怪しげな団体から隠れる目的だったため、関係のない
「君が何処の誰かは、奴らには知られていない?」
「バイクも彼らの所にあったのを逃げる時に借りた形になったし、顔も見られてはいないと思います。女という事ぐらいはバレたかも」
入院のために化粧を落とした彼女は、骨格は整っていて化粧映えする感じだが、メイクなしでは比較的平凡な顔立ちだ。例え顔を見られていたとしても、少し雰囲気を変えれば気づかれないだろう。中肉中背でこれといった身体的特徴もないから、派手な行動をしなければ大丈夫そうだ。
「色々と情報を仕入れて来たようだが、残念ながらそれは雑誌に掲載できないと思う。載せれば即、逃げた女が編集部員の君だと気付かれるだろう」
「……はい、残念ですが」
「この鈴と情報は、
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
須藤ミナトは深々と傷の男に頭を下げた。
* * *
帰宅して即、リビングのテーブル上の段ボールを覗き込む。うずくまって震える黒い鳥がとても可哀相だ。
「おかえり、
「ただいま父さん。最近ずっと家にいるけど大丈夫なの?」
「ああ、論文が佳境で家で書いてるから。そいつの様子も見ておかないといけないしな」
「この子、治る?」
父が意味ありげに苦笑をした。
「もしかして原因がわかったの?」
「食べ過ぎ、らしい。鳥インフルも陰性だったから知り合いの獣医に来てもらったんだが、まあなんていうか、それこそ腹がはちきれる程食って、消化が追い付かなくてこの状態らしい」
「た、食べ過ぎ……?」
「何を食ったんだか。まあ野生でいると食べられる時に食べておかないといけないという所はあるが、動けなくなるまで食べるのはな……。野犬なんかに襲われずに済んで運が良かったよ」
段ボールに目を向ければ、鴉は少し頭を上げて
父が切れたプリンタのインクを買って来ると外出をしたので、ヤタに話しかけてみる。
「ヤタ、何を食べたの」
『ひげを……』
「ひげ!?」
ヤタが言うひげは、
『……あのね』
「何かして欲しい事があるの?」
『……したい』
「?」
『……んこ』
「え」
『うんこしたい』
「え、と、外に行く? トイレ使える?」
『動きたくない……』
どうしたらいいのかわからない。
パニックになった頭で必死に考えた結果、トイレットペーパーを大量に巻き出して、段ボールの中に突っ込んだ。これなら出したものが見えないから、彼女にとっても自分にとっても安心だ。
箱のふたをして、隣の部屋に逃げ込む。見た目は鴉とはいえ、音が聞こえたら申し訳ないし。公衆トイレにせせらぎ音等の消音装置が存在する点からも、聞いてはいけない物だと思った。
いつかヤタと暮らす事を夢見て、鴉を飼っている人のブログを見たが、鴉の排泄はまき散らす系らしく、天井にまで飛び散って大変だという話を見ていたので、大惨事も覚悟した。
『タクマ~、出た!』
やたらスッキリとして明るい声。あと、言い方が子供。幼児なら、一人で上手にできて偉いと褒めるべきだが、鴉の彼女の場合はどうしたら。
おそるおそる扉をあければ、箱がびっくり箱のように開いて、鳥が飛び出した。羽根を広げて足を交差し、ジャーンという効果音がつきそうな謎の誇らし気なポーズ。ウィンクまでして来た。こちらの情緒などお構いなしのマイペースさだ。
父が帰るまでに片付けておくべきかと箱をそっと覗きこめば。
そこには鶏卵を二回りほど大きくしたような立派な卵が。
「卵……?」
ヤタの「ひげを食べた」という主張を思い出す。人間を食べたわけじゃない
思春期の少年の頭からは”お腹がはちきれる程の食べ過ぎ”という情報が抜け落ちた。
「まさか二人に子供が」
あの
とにかく原因があっての結果が、卵である、はず?
スッキリして元気いっぱい踊るヤタを背後に、
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