浜の銀風
忌川遊
始まり 港公園
ようやく夜空には満月が現れ、少しの海風が吹く夜の公園。消えかけの電灯が冷たい地面を照らしている。
一つ人影が現れた。マッシュルームヘアーのこの男は慣れない手つきで煙草に火をつける。紫の煙が風に揺れる。
「高井だな、湾高特進科の」
静まり返った夜の公園に低い声が響き、電灯の下に一人の男が現れた。高井は驚いたような顔で男の方を向く。髪はナチュラルなオールバック。上下白の服に身を包み、右手にはなぜか紅薔薇の花束を携えている。
「偶然だなぁ、俺たちも湾高なんだ。まあ普通科だけどな」
高井の背後からもう一人男が現れた。少し高めの声に髪はソフトリーゼント。上下黒調の洒落たジャージを着ている。
共に背丈は180、顔には何故かサングラス。高校生とは言い難い二人だ。
「高井、お前のお客が来ることは無いぜ」
低い声が響く。
「俺が一緒に遊んでやったからな」
今度は少し高い声。
マッシュルームヘアーがのった顔が少しひきつった。だがこの二人に挟まれ何一つ言い返すことが出来ない。
「なぁ京一。このチビさっきから何にも言わねぇじゃねぇか。誰だよ、面白い遊び相手だとか言った奴は」
「瀧、お前の格好に戸惑ってんじゃねぇか?今時流行らねぇんだよ。白に薔薇は」
男はまだ戸惑いを隠せず狼狽えている。
「大体お前よ、17で喫煙してんじゃねぇぞ。俺たちだって我慢してんだぜ。ホントは車もバイクも武器も欲しいのに」
二人は高井に一歩ずつ近づく。
「…何訳分かんねぇこと言ってんだ!お前らゴチャゴチャうるせぇぞ!」
遂にマッシュ男が叫んだ。それと同時にポケットに手を突っ込んだ。
「お、動き出したぞぉ小動物が」
二人は同時にサングラスを外し臨戦体勢に入る。同時に高井が二つの鈍い銀色の球をを地面に投げた。
バチッ! バチバチッ!
目の前で火花が飛び散った。
「へっへっへ、バーカ!普通科の能無しが」
捨て台詞を吐くと同時に高井が走り出す。
「ちっくしょぉ、理系野郎がぁ」
すぐに二人は追いかける。
ボン! ボン!ボン!
また足元で爆発音。土の中に埋められていたようだ。植えてある木の陰からもう一人現れ男の前に立つが、走ってくる男にそのまま突き飛ばされた。
「智!お前ちゃんとしろ!」
京一が叫んだ。
「へっへっへ。あばよ!」
高井は公園の外に停めてあった原付に跨がった。京一と智はただそれを傍観することしか出来ない。
「生意気に原付なんて…」
呟く京一の背後でエンジン音が聞こえた。
「この音は…」
瀧島が乗った原付は二人の背後から目の前に現れ、高井を追いかける。
「おっしゃあ!行けー!原付かっこいい!最高ー!」
騒がしい音が駆け抜けていった。
十五分程して一台の原付が公園に戻ってきた。瀧島が戻ってくるなり、智は二人に頭をこづかれていた。
堂々と輝いた満月にも雲がかかっている。そうしてまた、静かな夜に戻っていった。
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