戦いの後に
どうやら俺はジュードを倒したあと、気絶してしまったらしい。
それでシルが咄嗟にカナタからもらったエリクサーのことを思い出し、俺に使ったらあっという間に回復したということだ。
……さすが最高位の万能ポーション。
カナタには感謝だな。今度会ったらまた料理でも振る舞ってやろう。
そんなことをぼんやり考える俺の前で、赤髪を揺らしてイオナが小さく頭を下げる。
「……ごめんなさい、ロイ」
「ごめんって……何がだ?」
「あたしが考えなしにブレスを撃ったせいで、あの鎧の男に跳ね返されて、ロイが酷い火傷をしたわ。……反省してる」
しゅん、と俯きながらイオナが謝罪してくる。
こんなに落ち込んだ様子のイオナを見るのは初めてだ。
「さっきも言ったけど、気にしなくていい。むしろ余計なお世話だっただろ」
イオナは首を横に振った。
「いいえ、嬉しかったわ。誰かに守ってもらったことなんてなかったから」
「そうか。それならよかった」
「だから、その、」
「?」
「……これからはちゃんとロイをご主人様として、ちゃんと言うことを聞くわ」
どうやらイオナは俺のことを認めてくれる気になったらしい。
別に大したことをした気はしてないが……まあ、イオナが友好的になってくれたのはありがたい。
「わかった。改めてよろしくな、イオナ」
「ええ、よろしく」
イオナと固い握手を交わす。
「おおっ、ついにイオナもロイの魅力に気付いたんだね~! これからは一緒にロイを支えていこうね!」
「何よ魅力って……そ、そりゃ、嫌なやつじゃないとは思うけど」
シルとイオナが仲睦まじそうに話している。この二人が打ち解けられて何よりだ。
イオナが、ちら、と俺を見てきた。
「ね、ねえ、ロイ。あたし、これからはちゃんとあんたに力を貸すわけだけど」
「ああ、助かるよ」
「あたしがちゃんと役に立って、あんたがどうしても褒めたくなったら……あ、頭とか、撫でてもいいわよ」
恥ずかしそうに視線を逸らしつつ、そんなことを言ってくるイオナ。
もしかしてこれは。
「……甘えたいのか?」
「ばっ、ちがっ、がるるるるるるる!」
「やめろ唸るな! わかった、いくらでも撫でさせてもらうから!」
俺は顔を真っ赤にするイオナをなだめるのに、それから数分を要した。
▽
「もしもし、聞こえてるでござるかー?」
着物に袴、腰には刀というこの地域では独特な服装の少女。
冒険者のカナタは耳に当てた『通信石』に声をかける。
通信石は魔力の籠った鉱石を加工したもので、遠方の相手と会話することができるアイテムである。
『ああ、聞こえているよ。カナタ、そっちの調子はどうだい?』
通信石から聞こえてくる青年の声に、カナタは応じる。
「何日か前にアルムの街に着いて、色々と見て回ってるところでござるよ」
『そうかい。何か面白いものは見つかったかな?』
「面白いもの……あっ、道中で素晴らしい<召喚士>の御仁に出会ったでござるよ!」
『<召喚士>?』
「うむ。なんとかの御仁、一度に何体もの召喚獣を呼び出し、近くからあっという間に食材を集めてのけたのでござる! あれほど多くの召喚獣を操る<召喚士>は初めて見たでござるなあ」
しみじみとカナタは告げる。
もちろん彼女が言っているのはロイのことである。
通話口の青年は感心したように答える。
『確かにそれは興味深いね。僕も会ってみたかったな』
「料理の腕も見事でござった!」
『うん、何となくどんな流れでカナタがその<召喚士>と知り合ったかわかったよ』
呆れ交じりで青年が呟いたところで、会話は本題に入る。
『……それで、街の様子は?』
「いたって普通でござるよ。姫殿の言葉はまことでござるか?」
『ああ。彼女の予言が外れたことはないと、きみも知っているだろう?』
カナタは複雑そうに確認する。
「――では、この街は本当にあと半月以内に壊滅するでござるか」
カナタはとある依頼を受けてアルムの街に来た。
それはアルムの街が近いうちに崩壊するから、被害を最小限に抑えろ、というものだ。
依頼主はこの国が誇る予知能力者の『姫』。
彼女の予言は必ず当たる。
「せめて何が起こるかがちゃんとわかれば気も楽になるでござるが……」
『残念ながらそれはわからないそうだ。現場判断に任せるよ』
「……拙者、そういうの苦手でござる」
カナタは、しゅうー、と頭から煙を出しながら溜め息を吐く。
『はは、君ならできるさ。数少ないSランク冒険者の一人だろう?』
「むう、それを言われると弱い。全力を尽くすでござるよ」
そんなやり取りを最後にカナタは通信を切るのだった。
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