戦いの後に

 どうやら俺はジュードを倒したあと、気絶してしまったらしい。


 それでシルが咄嗟にカナタからもらったエリクサーのことを思い出し、俺に使ったらあっという間に回復したということだ。


 ……さすが最高位の万能ポーション。

 カナタには感謝だな。今度会ったらまた料理でも振る舞ってやろう。


 そんなことをぼんやり考える俺の前で、赤髪を揺らしてイオナが小さく頭を下げる。


「……ごめんなさい、ロイ」

「ごめんって……何がだ?」

「あたしが考えなしにブレスを撃ったせいで、あの鎧の男に跳ね返されて、ロイが酷い火傷をしたわ。……反省してる」


 しゅん、と俯きながらイオナが謝罪してくる。

 こんなに落ち込んだ様子のイオナを見るのは初めてだ。


「さっきも言ったけど、気にしなくていい。むしろ余計なお世話だっただろ」


 イオナは首を横に振った。


「いいえ、嬉しかったわ。誰かに守ってもらったことなんてなかったから」

「そうか。それならよかった」

「だから、その、」

「?」

「……これからはちゃんとロイをご主人様として、ちゃんと言うことを聞くわ」


 どうやらイオナは俺のことを認めてくれる気になったらしい。


 別に大したことをした気はしてないが……まあ、イオナが友好的になってくれたのはありがたい。


「わかった。改めてよろしくな、イオナ」

「ええ、よろしく」


 イオナと固い握手を交わす。


「おおっ、ついにイオナもロイの魅力に気付いたんだね~! これからは一緒にロイを支えていこうね!」

「何よ魅力って……そ、そりゃ、嫌なやつじゃないとは思うけど」


 シルとイオナが仲睦まじそうに話している。この二人が打ち解けられて何よりだ。

 イオナが、ちら、と俺を見てきた。


「ね、ねえ、ロイ。あたし、これからはちゃんとあんたに力を貸すわけだけど」

「ああ、助かるよ」

「あたしがちゃんと役に立って、あんたがどうしても褒めたくなったら……あ、頭とか、撫でてもいいわよ」


 恥ずかしそうに視線を逸らしつつ、そんなことを言ってくるイオナ。

 もしかしてこれは。


「……甘えたいのか?」

「ばっ、ちがっ、がるるるるるるる!」

「やめろ唸るな! わかった、いくらでも撫でさせてもらうから!」


 俺は顔を真っ赤にするイオナをなだめるのに、それから数分を要した。





「もしもし、聞こえてるでござるかー?」


 着物に袴、腰には刀というこの地域では独特な服装の少女。


 冒険者のカナタは耳に当てた『通信石』に声をかける。


 通信石は魔力の籠った鉱石を加工したもので、遠方の相手と会話することができるアイテムである。


『ああ、聞こえているよ。カナタ、そっちの調子はどうだい?』


 通信石から聞こえてくる青年の声に、カナタは応じる。


「何日か前にアルムの街に着いて、色々と見て回ってるところでござるよ」

『そうかい。何か面白いものは見つかったかな?』

「面白いもの……あっ、道中で素晴らしい<召喚士>の御仁に出会ったでござるよ!」

『<召喚士>?』

「うむ。なんとかの御仁、一度に何体もの召喚獣を呼び出し、近くからあっという間に食材を集めてのけたのでござる! あれほど多くの召喚獣を操る<召喚士>は初めて見たでござるなあ」


 しみじみとカナタは告げる。


 もちろん彼女が言っているのはロイのことである。

 通話口の青年は感心したように答える。


『確かにそれは興味深いね。僕も会ってみたかったな』

「料理の腕も見事でござった!」

『うん、何となくどんな流れでカナタがその<召喚士>と知り合ったかわかったよ』


 呆れ交じりで青年が呟いたところで、会話は本題に入る。


『……それで、街の様子は?』

「いたって普通でござるよ。姫殿の言葉はまことでござるか?」

『ああ。彼女の予言が外れたことはないと、きみも知っているだろう?』


 カナタは複雑そうに確認する。



「――では、この街は本当にあと半月以内に壊滅するでござるか」



 カナタはとある依頼を受けてアルムの街に来た。

 それはアルムの街が近いうちに崩壊するから、被害を最小限に抑えろ、というものだ。


 依頼主はこの国が誇る予知能力者の『姫』。

 彼女の予言は必ず当たる。


「せめて何が起こるかがちゃんとわかれば気も楽になるでござるが……」

『残念ながらそれはわからないそうだ。現場判断に任せるよ』

「……拙者、そういうの苦手でござる」


 カナタは、しゅうー、と頭から煙を出しながら溜め息を吐く。


『はは、君ならできるさ。数少ないSランク冒険者の一人だろう?』

「むう、それを言われると弱い。全力を尽くすでござるよ」


 そんなやり取りを最後にカナタは通信を切るのだった。

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