ブルークラブ
さて、イオナがこのまま俺たちと一緒に行動するには問題がある。
そう、服だ。
シルと同じく、魔力操作によって着脱可能な魔力糸の服が必要である。
幸いグレフ村にもそれを取り扱う店があり、金もギリギリ足りる。
そんなわけで魔力糸の服を売っている店に足を運んだところ……断られた。
何でも魔力糸の服に使う染料が、ここ最近届いていないらしい。
「途中の山道で厄介な魔物が大量発生しててねえ……行商の馬車が通れないんだよ。高ランク冒険者も出払ってるし、なかなか手が打てなくてね」
服屋のおばちゃん店主が困ったように溜め息を吐く。
どうやら魔物の大発生が、服を作るための素材の流通をストップさせているらしい。
なるほど。
つまりその山道の魔物をなんとかすればいいわけだ。
俺は情報を教えてくれたおばちゃんにお礼を告げ、その場を後にした。
「ふんふんふふ~ん♪ きょーうっもー、山歩き~♪」
「なんであたしが付き合わなくちゃいけないのよ……」
俺たちは魔物がいるというポイントを目指して歩いている。
楽しそうなシルと面倒臭そうなイオナが対照的だ。
「イオナと契約したばかりだからな。【フィードバック】の感覚を確かめておきたいんだ」
イオナの言葉にそう返事をする。
「だったらあたしはいらないでしょ。あんたら二人で行けば」
「駄目だよー! イオナにはロイのいいところをちゃんとわかってもらわないと!」
「その男にいいところなんてあるの?」
「あるよ! いっぱいあるよ!」
賑やかだなー。
イオナは不愛想なままだが、シルが徹底的に俺の味方をしてくれてありがたい。
しばらく歩いていくと、目的地に到着した。
場所は開けた河原。
そこにいるのは巨大なカニ――『ブルークラブ』の群れだ。
硬い甲殻と凶悪な威力を持つハサミが特徴で、ギルドが定めた
本来はもっと川の上流に出現するらしいが、なぜか最近下流に棲みつき、近くを通りかかる人間を襲っていたらしい。
ブルークラブの群れは俺たちを見ると臨戦態勢に入った。
『『『ギシャアアアアアアアアッ!』』』
「行くぞ、シル!」
「うん!」
剣になってもらったシルの柄を握る。
戦闘開始だ。
水場なのでちょうどいいな。
新スキルを試そう。
「【火炎付与】!」
さて、どのくらい威力が上がっているか楽しみだ。
バシュウッ!
俺が剣を振り抜くと、頑丈さで知られるブルークラブの甲殻はあっさり焼き斬れた。
『ギシュウウ……』
ブルークラブは一撃で絶命し、泡を吹きながら真っ二つになった体をその場に沈める。
すごい威力だ!
さすがにイオナは強かっただけあって、能力も他の召喚獣とは別格らしい。
「……で、あたしも戦えばいいの?」
遠くで見ていたイオナが面倒くさそうに聞いてくる。
「いや、別にどっちでもいいぞ」
「え?」
「基本的に、イオナを無理やり従わせるつもりはないんだ。よっぽど強い敵が出たら協力を頼むかもしれないけど、今はそれほどでもないし」
「そ、そう」
拍子抜けしたようにイオナが黙り込んでしまう。
まあ、イオナと仲良くなりたいのは本音だが、そこまで焦る必要もないだろう。
ピンチのときだけ力を貸してくれればいい。
というかすでに【フィードバック】による能力上昇やら【火炎付与】は借りているので、すでに十分助けられている。
『ギシュウウウウウウッ……』
俺が炎を纏った
辺りを確認すると、もう生きているブルークラブはいない。
戦闘終了だ。
「お疲れ様、ロイ!」
「ああ。シルもな」
人型に戻ったシルと手を叩き合う。
いやー、それにしても随分倒したな。
周囲一帯焼けたブルークラブだらけだ。
……ん?
「ねえ、ロイ。なんかいい匂いがしない?」
「するな。なんというか、香ばしい感じの匂いが……」
俺たちは【火炎付与】で焼けたブルークラブたちを見た。
……これは……いけるのか?
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