ランクアップ

「はああああっ!」

『『『ギィイイイイッ!』』』


 グレフ村のそばにある、魔物が出現する場所『暗闇の洞穴』。

 村に到着してから数日後、俺はそこに出現するコウモリ型の魔物、『ウインドバット』の群れと戦っていた。


『ギィッ!』


 ウインドバットが翼をはためかせ、風の刃を放ってくる。それを見切って避けつつ俺はしみじみ思う。……やっぱり、アルムの街のそばに出る魔物とは強さが違う。


 アルムの街に近い『魔喰いの森』に、この手の特殊攻撃をしてくる敵はいなかった。

 敵の強さに加えて、洞窟という地形のせいで視界も悪い。

 少し前の俺がこの洞窟に足を踏み入れていたら命はなかっただろう。


 だが、今の俺なら対処できる!


「シル、敵の位置を教えてくれ!」

『了解!』


 青い光が俺の足元から伸び、洞窟の闇に潜むウインドバットの位置を明かす。

 俺はそれを追って次々とウインドバットを仕留めていく。


『ギキャアッ!』


 悲鳴を上げてウインドバットのうち何体かが洞窟の奥に逃げていこうとする。

 逃がすか!


「【蔓操術】!」

『ギィッ……!?』


 俺が発動したのは、数日前に契約したばかりの『樹ノ蔓茸』のスキル。俺の腕に絡まるようにツルが生え、その先端は鞭のように伸びて逃げようとするウインドバットをとらえていた。


「せえのっ――」


 ウインドバットを捉えたまま俺はツルの鞭を横に薙いだ。

 先端にウインドバットの一体をからめとったツルはさながら鎖付き鉄球モーニングスターである。


 俺がツルを振る舞わすと、ゴンッ! という音を立てて他の逃げようとしていたウインドバットをまとめて叩き落した。


『『ギィイッ……!?』』


 逃走に失敗した仲間の姿に、残っていたウインドバットが動揺して動きを止める。


 俺はその隙を逃さず、ウインドバットの群れを全滅させるのだった。





「これが依頼にあった『ウインドバットの羽』十体ぶんです」


 ウインドバットを倒したあと、死骸を解体して素材を剥ぎ取った俺はグレフ村に戻り、冒険者ギルドの窓口に提出していた。

 受付嬢はぎょっとしたように目を見開く。


「そ、そんな、依頼を受注してまだ一日も経っていませんよ!? あなた本当に<召喚士>ですか!?」


 やはり<召喚士>が活躍するのは珍しいようだ。

 信じられないものを見るような目で見られている。


「ロイには私がついてるからね!」

「は、はあ……?」


 人間の姿のシルが胸を張り、受付嬢がぽかんとする。話をややこしくするんじゃない。


「とりあえず、依頼達成の手続きをしていただけますか?」

「は、はい。では、ギルドカードを出していただけますか?」

「はい」


 俺はギルドカードを差し出した。


 これはギルドに所属する冒険者なら誰でも持っているもので、達成した依頼や、職業などが簡単に記録されている。早い話が冒険者の身分証明書である。


「えっ」

「どうかしましたか?」


 驚いたように固まる受付嬢に尋ねると、受付嬢はこんなことを言った。


「――おめでとうございます。ランクアップです! ロイさん、あなたは今日からEランク冒険者です!」


 一瞬、俺は言葉の意味がわからなかった。


「ランクアップ!? 俺が!?」

「はい! 間違いありません!」

「……何? 何をそんなに喜んでるの?」


 疑問顔のシルに説明する。


「冒険者には下からF、E、D、C、B、A、Sのランクがあって、依頼をこなしたり、強い魔物を倒したりすることでランクが上がっていく。ランクが上がればそれだけギルドの待遇もよくなるんだ」


 たとえば今まで聞けなかった情報が聞けたり、受けられなかった依頼を受けられたりとか。


「でも、Eランクってそんなに高いランクじゃないんじゃないの?」


 シルの質問に受付嬢が答える。


「他の職業ならそうかもしれません。しかし、<召喚士>でEランクに上がれる人なんてそうそういないんです!」


 <召喚士>に限れば、Eランクになれるのは五十人に一人、Dランクは百人に一人、Cランクに至ってはほぼ皆無とされている。


 しかも<召喚士>の依頼は薬草採取などの地味な依頼をコツコツこなして数年がかりでやっと、というパターンがほとんど。


 俺のように短期間で依頼をこなしてランクを上げるというのは珍しいだろう。


「加えて冒険者になって一年未満でランクアップを果たした<召喚士>は、記録上数人しかいません。ロイさんは素晴らしい素質を持っていますよ!」


 興奮気味に受付嬢が言ってくる。


「そうなんだ……さすがロイだね!」

「お前のおかげだと思うけどな。でも、そうか……! 俺も今日からEランクか!」


 短期間で成果を挙げられたことに俺は内心で拳を握るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る