初めての召喚武装(※ステータス表記あり)

 さて、まずは本当に契約できているかの確認だ。


 試練の間で手に入れた青色の長剣は俺の手からは消えている。


 召喚獣や召喚武装は【召喚】スキルで呼び出さないと現れない。呼び出すまでは専用の異空間に隔離されているのだ。


「【ステータス】」


 呪文を唱え、自分のステータスを確認する。



――――――――――


ロイ

<召喚士>

▷魔術:【召喚】【送還】

▷スキル:【フィードバック】

▷召喚獣

▷召喚武装

導ノ剣:あらゆるものへの道筋を示す。


――――――――――




 【召喚】は契約した召喚獣や召喚武装を呼び出す魔術で、逆に【送還】は召喚したものを専用の異空間に格納することができるというもの。

 【フィードバック】は召喚獣の特殊能力やステータスの一部を自分に与えるスキルだ。


 この三つは<召喚士>なら誰でも持っている初期技能である。


 そして召喚武装の欄には新たに『導ノ剣』の文字が。

 よし、ちゃんと契約できているな。

 続いて俺は召喚武装『導ノ剣』の能力を確認するが、


「あらゆるものへの道筋を示す……?」


 よくわからない。

 とりあえず出してみよう。


「【召喚:『導ノ剣』!】」


 俺の手元に青い刀身をした長剣が出現した。


 持ってみると意外と軽い。とはいえ切れ味は鋭そうだ。

 剣を振ると青い光が軌跡を残すのが格好いい。


 これが俺の武器。

 初めて手に入れた召喚武装!


 ちょっと感動してしまった。


『――嬉しそうだな、汝よ』

「うおっ!?」


 なんだ!? 誰か近くにいるのか!?

 周囲を見回すが俺以外の人影はない。


『どこを見ているのだ。手元だ、手元』

「手元……まさか『導ノ剣』?」

『いかにも』


 手に持った『導ノ剣』の刀身に走る光の線が明滅する。

 肯定の意思表示だろうか。


「……喋れるのか。剣なのに」

『何を今さら。試練の時も喋っていただろう』


 言われてみれば、試練の間に来たときや試練をクリアしたときに脳内に声が響いたような気がする。誰が喋っているのかと思っていたが、声の主がまさか剣とは。

 変わった剣だな。喋る召喚武装なんて聞いたことないぞ。


「まあいいや。で、『導ノ剣』。お前は何ができるんだ?」

『我は星詠みの神器だ。汝が望むものを何でも探し出してやろう。さあ、望みのものを言ってみるがいい』


 望みのものねえ……

 俺が考えていると、ぐぎゅるるるる、と俺の腹が鳴った。

 ……腹が減ったな。

 さっきの試練で体の中から何かが出て行くような気配があったし、あれのせいだろうか。


「じゃあ、食い物を探してくれ」

『よかろう』


 そんな声と同時、『導ノ剣』が発光した。

 それに共鳴するように俺の足元から円状の青い光が出現する。

 青の光は何本かの線となり、下水道の奥へと伸びていく。


『さあ、道筋は示した。これを追うがいい』

「追えって……この青い光をか?」

『うむ。その先に汝の望むものがある』


 言われた通りに行ってみる。

 移動中、『導ノ剣』が話しかけてきた。


『ところで主よ。汝の名は何と言うのだ?』

「ん? ああ、ロイだ」

『ロイか。覚えたぞ。では、我から汝を呼ぶときはそう呼ぶとしよう』


 下水道の壁に設置されたはしごを登り、天井の蓋を押し上げて外に出る。

 するとそこは街の外だった。

 どうやら下水道の中を通って郊外まで出たらしい。

 綺麗な小川が流れていて、その近くには野生の桃の木がある。


「……本当に食い物があるとは」

『当然の結果だ。というか汝、我の事を信じていなかったのか』


 この状況からして、『導ノ剣』の能力は俺が求めるものへの道案内をするというものらしい。戦闘では使えないだろうが悪くない能力だ。


「お前、便利だな」

『当然だ。それよりロイよ、食わなくていいのか?』

「食うよ、もちろん。腹減ってるんだから」


 俺は夢中で桃の果肉に齧りつく。

 ああ……美味い。

 生き返るような気分だ。


「満腹だ……」


 腹が膨れたら次は眠くなってきた。


『満足したようだな』

「……ああ。お前、最高だよ。これからもよろしく頼む……ふぁあ」

『こちらこそだ、我が主よ』


 凄まじい疲労感が襲ってきている。

 やっぱりさっきの試練は俺の中の体力をごっそり削っていたんだろう。


 俺は初めての召喚武装を手に入れた満足感に包まれながら、桃の木の根元で眠りに落ちるのだった。





 ――この時の俺は気付いていなかった。


 『導ノ剣』の『あらゆるものへの道筋を示す』という規格外のサーチ能力の持つ意味に。

 『導ノ剣』はどんなものでも探し当てられる。

 それがたとえ発見困難とされている召喚スポットでも。



 つまり――俺はあれだけ入手が難しいとされていた召喚獣や召喚武装を、好きなだけ手に入れられるようになったのだ。



 その凄まじさを俺が理解するのは、もう少し先のことである。





『……眠ったか?』

「ぐう……」


 『導ノ剣』が話しかけても黒髪の青年は何の反応もしない。

 すっかり眠っているようだ。


『起きる気配はないな。ではもういいか――』


 『導ノ剣』は張り詰めていた糸をほどくように、声色をガラッと変えた。



「あ~~~~大変だった! 威厳のある喋り方、すっごく疲れる!」



 この軽い口調は、『導ノ剣』の素である。

 『導ノ剣』のような召喚武装は、自らを作った者から多大な影響を受ける。『導ノ剣』の制作者は陽気な性格なので、気を抜いた時の口調はこんな感じだ。

 『導ノ剣』は無理をして今まで硬い口調を使っていたのだ。


「でも仕方ないよね……私のこの話し方を聞いて、製作者メルギスまで軽く見られたら嫌だし」 


 要するに召喚武装なりの見栄である。

 自分の制作者まで軽く見られないよう、『導ノ剣』は厳かな雰囲気を演じていたのだ。


「とはいえしんどい! しんどいよー! ロイが寝てる間しか普通に話せないのはきつすぎるよ! 頑張るけどね! 見ててねメルギスうううう!」


 ある程度叫んですっきりした後、『導ノ剣』は眠るロイに意識を向ける。


「それにしても……まさか私の試練を突破しちゃう人がいるなんてねえ……」


 試練の間は主によって内容が決められる。


 どのような形で挑戦者の実力を測るかは召喚スポットの主次第。

 『導ノ剣』はそう簡単に誰かに従うつもりはなかった。弱い人間に使われるようなことになったら、自分を作り出したメルギスに申し訳が立たないからだ。


 ゆえに超高難易度の試練を用意した。


 自らを突き立てた台座には、近づくだけで精神力を吸い取る力があった。

 生半可な覚悟では『導ノ剣』を引き抜く前に倒れてしまうだろう。

 だがロイはそれを達成してのけた。


(弱い人間に使われるのはまっぴらだったけど……この人ならいいや、って思っちゃったんだよね)


 要するに、『導ノ剣』はロイを気に入ったのだった。

 そのすさまじいまでの心の強さを。


『これは面白いご主人様を見つけちゃったかも』


 そう言って、『導ノ剣』は内心で笑みを浮かべるのだった。

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