ハズレ職〈召喚士〉がS級万能職に化けました〜無能と蔑まれた俺、伝説の召喚獣達に懐かれ力が覚醒したので世界最強です~

ヒツキノドカ@書籍発売中

プロローグ

「おい、ロイのやつまたギルドの掃除なんてやらされてるぜ」

「ざまえねえぜ、冒険者の面汚しが」


 冒険者の陰口が聞こえてくる中、俺——<召喚士>のロイはモップを動かす。


 バカにされるのはいつものことなので、もう何の感情も湧いてこない。


「おやおやぁ~~? ロイ君、まだ掃除が終わらないんですか。<召喚士>ってのは本当に何をやらせても駄目ですねぇ~~!」


 床掃除をする俺の元に、このギルドの支部長がやってくる。


「ほら、ちゃんとやってくださいよぉ! 他の冒険者の皆さんに汚いギルドを使わせるつもりですか?」

「……すみません」

「もっと嬉しそうにしたらどうです? あなたみたいな役立たずにギルドの仕事を手伝わせて、冒険者としての経験を積ませてあげているんですよ? 感謝してほしいものですね」


 ……何が感謝だ。

 ギルドの雑用を押し付けているだけだろうが!


 冒険者になると、<剣士>や<魔術士>といった職業を授かる。


 その中でも俺の職業である<召喚士>は一番のハズレ職とされていて、他の冒険者やギルド職員からは蔑まれていた。


「うわっ!?」


 バケツを持って移動しようとしたら、俺はその場で思い切り転んだ。

 ニヤニヤと笑う支部長が足を突き出している。

 俺の足を引っかけて転ばせたのだ。


「おやおや、バケツの水がこぼれてしまいましたねえ」

「うぐっ……」

「ほら、ちゃんと拭かないと。手伝ってあげますよ、ロイ君」


 支部長は俺を踏みつけ、俺の服で床にこぼれたバケツの水をぬぐおうとする。汚い水が服に染み込み、不衛生な床に頬が押し付けられる。


「惨めですねえ~~! どうしました? 抵抗してもいいんですよ? <召喚士>らしく召喚獣や召喚武装を出して、ね!」

「――ッ!」


 支部長の言葉に頭が真っ白になる。


「ああ、できないんでしたね! ロイ君、召喚獣も召喚武装も持ってないんですもんねえ!」


 支部長の言う通り、俺は<召喚士>でありながらまだ召喚契約ができていない。


 抵抗の手段なんて今の俺にはなかった。


「あなたのようなゴミはゴミらしく、床に転がってるのがお似合いですねえ! あっははははははは!」


 同業の冒険者には見下され、支部長たちギルド職員にもバカにされる。

 それが俺、<召喚士>ロイの日常だった。


 しかしそんな日々は、ある日を境に一変することとなる。





 その日俺は支部長に命じられて下水道のドブさらいをやらされていた。

 作業が終わって帰ろうとしたところで――俺は足を止めた。


「召喚スポット……!?」


 下水道の一角に、高さ二メートルほどの水晶が鎮座していたのだ。


 召喚スポット。

 <召喚士>が契約を行うために必要不可欠のもの。

 だが、その見つけにくさは想像を絶する。


 理由その一、出現場所がランダム。

 理由その二、数日で消えてしまう。

 理由その三、現存するどんな手段でもサーチ不可。


 他にも『契約は先着一人のみ』、『召喚スポットは<召喚士>以外には見えないので目撃証言も集められない』といった性質があり……とにかく凄まじく発見困難なのだ。


 そして<召喚士>は契約なしには何もできない。

 <召喚士>が全職業中最弱と呼ばれるゆえんである。


 しかしその召喚スポットが目の前にある。


「夢……じゃ、ないよな」


 白昼夢でも見ているかと思って自分の腕をつねってみる。

 痛い。

 ということは夢じゃない。


(……落ち着け、あれを見つけたからって契約できるとは限らない)


 召喚獣や召喚武装と契約するには、彼らの課してくる試練をクリアする必要がある。


 召喚スポットというのは、そういった試練を受けるための場でもあるのだ。


 俺は召喚スポットの前まで行き、水晶に触れた。

 試練を受ける手順は実に簡単だ。

 目の前の空間の歪みに触れ、呪文を口にする。


「――【我は汝との契約を望む】」


 次の瞬間、俺は召喚スポットの内部に吸い込まれた。





 そこは青い光を放つ小部屋のような場所だった。


「ここが『試練の間』か……」


 試練の間は契約の試練を行うための場所だ。

 現実の空間ではなく、召喚スポットの作り出す精神世界である。

 脳内に声が響く。


 

『試練に挑みし者よ。我を台座から引き抜いてみせよ』



 部屋の中央には台座があり、そこには剣が突き立っている。

 この剣を抜くことが試練、か。

 それをクリアすればこの召喚武装の剣が手に入るということだろう。

 やってやる。


「うおおおおおおおおっ……!」


 剣の柄に手をかけて引き抜こうとする。


 体の中から何かが吸われているような感覚がした。

 それによって徐々に力が抜けていく。

 まさか魂でも吸われているのか?

 力を入れなきゃいけないのに、どんどん体が重くなっていく。

 苦しい。

 息がうまくできない。

 けど――このくらいで諦めてたまるか。

 ここで逃げたら俺はずっと惨めなままだ。そんなのは冗談じゃない。


 俺は今ここで人生を変えてやる!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 ズシャアッ!


 抜けた!


 俺は青い光を放つその剣を呆然と見つめた。

 なんて綺麗なんだ。こんな美しい剣は見たことがない。

 また声が響く。



『よくぞ試練を突破した。汝を我の主と認める。……我は『導ノ剣しるべのつるぎ』。汝の呼び声あらば力を貸そう』



 しるべのつるぎ。

 どうやらそれがこの剣の名前らしい。


 それが聞こえた途端に俺は召喚スポットからはじき出された。


 精神世界から、現実の下水道へと戻ってくる。

 目の前では召喚スポットが消えていくところだった。


 なるほど、クリアされた召喚スポットはこうなるのか。


「やった……やったぞ! 本当に召喚契約ができたんだ!」


 達成感のあまり俺はガッツポーズをした。


 これから始まるんだ。

 俺の冒険者としての新しい人生が。

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