第16話 王子

ライガック・ガージニアは、ガージニア王国第一王子として生を受けた。

ガージニア王国では、誰もがライガックへ頭を下げる。だが、ライガックは成長するにつれて、帝国皇太子と比べられるようになった。隣の帝国には優秀な皇太子がいるらしい。ガージニア王国の王族は骨董品だ。ガージニア王国の第一王子は傲慢で残酷だと噂されている事を知っていた。



沢山いる妹王女や、弟王子達はライガックに従う。正妃であるライガックの母は、側妃たちの弱みを握っていた。母に倣いライガックも、相手の弱みを握り掌握するようになった。



弟王子達の中に一人だけ、異様な存在がいた。引きこもり第9王子のルルージュア・ガージニア。いつも俯き、視線が合わないくせに、剣技の対決では、異様なスピードでライガックをあしらう事がある。忌々しいルルージュア。



あの戦争の日に、使用人に命じてルルージュアを始末させたはずだった。だが、生きていた。



ルルージュアは、皇帝の子供を産み妃となって帰って来た。



その場所にいるべき人物はお前ではない。



必ず、復讐してやる。俺こそが皇帝に相応しい。




必ず。









ライガックとイアンナは公爵邸の隠し通路から脱出して、二手に別れた。


ライガックは、後頭部の頭痛に耐え、移動する。


馬を用意して、移動し、隠れ場所の洞窟へ辿りついた。


洞窟の奥にはガージニア王国の財宝が運び込まれている。


この場所を知っているのは、ライガックとイアンナだけだ。


洞窟の周囲は鬱蒼とした森で、中は複雑な迷路になっている。隠し部屋の前には分厚い鉄扉があり、鍵がないと入る事ができない。鍵はライガックとイアンナだけが持っていた。


隠れ場所の中には備蓄品がたくさんある。また、機会を狙い襲撃すればいい。今度は赤目の幼い息子を狙う。


次こそは失敗しない。


ライガックは眠りについた。


頭がズキズキとする。逃げている時は気づかなかったが、強く打っていたらしい。


ふと、物音がしてライガックは目を開いた。










そこには化け物がいた。

「ああ、よがあっだあ。さがしていたの。」





ライガックは恐怖に震える。


相手はイアンナのふりをしている化け物だ。イアンナのドレスを着て、茶髪の鬘を被っているが、顔が違う。能面のような気味が悪い顔。確実にイアンナではない。なぜバレたのだ。ここはイアンナしか知らないはずだ。化け物は鍵を持っていた。イアンナ持っている筈の。


怒りに震える。


化け物がライガックに近づいてくる。


ライガックは、化け物を突き飛ばした。化け物は、驚き、後ろへ倒れる。



そこは崖になっていた。崖の下は川が流れている。


「きゃあーー。どうして。」


ライガックは言った。


「イアンナどうした!刺客にしては弱いな。その服はイアンナから奪ったのか!」


化け物は言う。


「奪っていない。イアンナは、、、、わ、、、た、、、し。」



何を言っている。顔が違う。なにもかも潰れたような顔。確実にイアンナではない。




俺は、崖から化け物を突き落とした。


「あああ、、、」


化け物は川へ落ちていった。





イアンナは死んでいない。頭がいいイアンナの事だ。かならずここにたどり着く。


イアンナが来るまで外へ行く事ができない。


こんな場所まで追っ手を放ち、探しに来るぐらいだ。


皇帝は焦っているのだろう。









だが、何日経っても、何週間経ってもイアンナは現れなかった。


ライガックは、痺れを切らし洞窟の外へ出て、近くの町へ向かった。








そこには、沢山の化け物がいた。顔が能面のみたいな化け物たちは、俺を見ると人間の声を発して近寄ってくる。


中の一人が言った。


「おい、どうした。顔色が悪いな。おや頭を怪我したのか?」


俺は言う。


「くるな!化け物!人間の姿をしているが、俺は騙されないぞ。顔が可笑しい。みんな同じ顔をしやがって!」




白衣を着た人物が言った。

「化け物?後頭葉にダメージを受けたのか?顔が判別できないらしい。相貌失認とは不憫だな。手助けがいるなら、、、」


化け物が人間の言葉を喋っている。意味不明の単語を言い、俺を嘲る。


俺は、踵を返し慌てて逃げ出した。



俺は探されている。


無数の能面のような顔をした化け物たちに、、、、










俺は、洞窟から出られなくなった。



保存食はまだある。外には化け物たちがいる。どうなっている。



時折、後頭部がズキズキと痛む。そうだ、あの時からだ。人間が皆化け物になったのは。

初めて見た化け物はイアンナの服を着ていた。俺が突き落としたあの化け物は、、、、、、




俺は被りを振る。



こんなに皇帝に力があると思っていなかった。ガージニア王国は滅ぼされたが、俺の身代わりとして、ロニア第一王女の首を差し出したが、気付かれる事がなかった。馬鹿な皇帝だと思っていた。だが、俺を探す為に、あんなに沢山の化け物を用意するなんて、あいつは狂っている。




だめだ、皇帝を殺す事なんてできそうにない。




やはりイアンナを待つしかない。



もう、皇帝になるつもりはない。



滅びた王国なんてどうでもいい。



イアンナと再会したら、ここにある財宝を使って遊んで暮らそう。イアンナとは初めて出会った時から気が合った。





だから、化け物達よ。





俺の事はもう、





探さないでください。


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