第7話 小さな家


クロエはジークを自宅へ招いた。


クロエが暮らしているのは、小さな一軒家だった。


中に入ると、木のテーブルに椅子が二脚置かれていた。


シンプルで落ち着く空間が広がっていた。


ジークは言った。

「ここに住んでいるのか?」


クロエは言う。

「ええ、そうよ。とても快適なの。今お茶を入れるわね。」


クロエが出したのは木製のマグカップだった。


お茶がユラユラと揺れている。


「ダダダダ。ウダダ。」


ジークに懐いた1歳のザックは、奇声を上げながらジークを登ろうとしていた。


ジークは、クロエに話しかけた。

「君はルルージュアだろ。ガージニア王国にある肖像画を見た。」


クロエは、言う。

「肖像画?ルルージュア王子の肖像画は残っていないはずよ。」


ジークは、ニヤリと笑って言う。

「どうしてそう確信できる?自分で処分したのか?俺が確認したのは、第8王子の肖像画だよ。よく似ている。」


(第8王子?確かに似ていたかもしれない。だけど兄は前皇帝と皇太子を暗殺したはず。肖像画は処分されたと思っていたのに、、、、)


クロエは震えた。


(王子は全員殺された。じゃあ、王子として生きて来た私はどうなるの?)


ジークは言う。

「悪かったよ。クロエ。そんなに怯えないでくれ。俺が君を害するはずないだろう。生き残った王女は沢山いる。クロエだって本当は王女だったのだろう。どうして男だと偽っていたのかは知らないが、、、、」


クロエは言った。

「私は、滅びの子を産む王女よ。だから貴方と一緒にいけないわ。」


ジークは言った。

「それは、ガージニア王国の言い伝えの事か?王女は沢山いるだろう。俺は、ガージニア王国を滅ぼした皇帝だと言われている。ガージニア王国の王女を娶り、子供が産まれたら言い伝え通りになるからと、何度も王女との縁談を勧められた。何の問題もないだろう。」


クロエは驚きジークを見る。

「違うわ。滅びの子を産むのは金髪碧眼の王女の事よ。だから私は王子として育てられたの。姉たちは皆言い伝えとは色が違う。」


ジークは笑って言った。

「やっと認めたね。クロエ。」


ジークは跪いて、クロエの両手に口づけをした。


クロエは驚きながら喜びを感じていた。


ジークは言う。


「結婚してくれ。クロエ。一生大事にする。もう君と離れたくない。だから一緒に帝国へ行こう。君やこの子の事は絶対に守るから。」


ジークは祈るように、クロエの手に頭をつけてわずかに震えているようだった。


「ウパパ。パパパ。」


息子のザックは、必死にジークの広い背中にしがみつこうとしている。


(私にはザックがいる。でも、ジークには誰がいるのだろう。あれから2年が経った。ルルージュア王子の事を覚えている人も、もういないかもしれない。)


クロエは、しゃがみ込み、ジークに顔を近づけて言った。


「私も貴方と一緒に生きたい。でも私がルルージュアだという事は隠し通して欲しいの。」


(ガージニア王国の王子は一人残らず亡くなっている。もしルルージュア王子の存在が明らかになったら、私や息子の存在が利用されるかもしれない。)


ジークは、嬉しそうに笑って言った。

「ああ、分かった。ありがとう。クロエ。うれしいよ。」


嬉しそうなジークを見て、クロエはそっとジークを抱きしめてキスをした。


「アーーー!アウ!」


息子は、キスをする母を見て急にジークを叩きだした。


クロエは微笑み言った。

「ふふふ、ごめんね。ザック。ママの一番は貴方よ。」


クロエは息子を抱きしめて、キスをする。


ジークは言った。

「やっと見つけたと思ったら、強力なライバルがいるなんて、、、」


クロエは言う。

「あら?一番はザックよ。貴方は二番目に私が愛している男よ。」


(ジーク、私はずっと貴方の事を愛している。なにがあってもこの気持ちは変わらない。きっと大丈夫。帝国でもやっていけるはずだわ。)


2対の赤い瞳に囲まれて、クロエはこの場所を後にする決心を固めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る