リ・バース 影野‼︎

こゝ幸々願 

第0話 影野という男

「ただいま〜」


「あら、おかえり〜。って誰も帰ってきてないじゃない。幻聴かしら」


俺の母親は不思議そうに玄関を見つめそう呟く。


「いいや、太郎だよ。帰ってきたよ」


いつものことだから今となっては別に気にすることもないけど、


「あら、太郎 よーく凝らして見たら、あんた居たのねぇ。壁かと思ったわよ」


さも当たり前のように息子を壁呼ばわりする態度に、ほんの少しだけ傷つく。しかしながら、もう慣れたものだ。


「またですか」


「ごめんごめん! だってしっかり壁と同化してたんだもん」


いや待て、塗り壁じゃねぇよ。


と、心の中だけでツッコミを入れると、二階の自室へと向かった。



「はぁ。今日もクラスメイトの誰とも話さなかったな」


俺、影野太郎は誰よりも影が薄い。


これは幼少期からずっとで、一種の特異体質のようなものだと考えてくれていい。


さっきの親の反応も俺を揶揄っているわけではなく素でアレなのだ。


家族にすら存在を認知されない人間なんてこの世に俺以外いるのだろうか。


当然、クラスメイトにも存在に気づいてもらえず、とうとう高校二年生になってしまった。


ちなみに中学校は、友達がいないまま、卒業してしまった。

挙句、卒アルにすら忘れられて載らない始末。


それもあり、高校こそはと息巻いて勉強し、そこそこの進学校にまで入学したのに、未だに誰も友達がいないだなんて、一体どうしてだろう。


なんて悩んだところで、現代には青い狸のような猫型ロボットは存在しない。


だから俺はおそらく、ずっとこのままなんだ。


影の薄い。最強のモブとして生きていく。


つもりだったんだけど、で、俺は変わらなければいけない。


影が薄いどころか、もはや影そのものの自分としては、あまり目立つことは好きではない。


でも、多少の強引さは必要だよな。


——俺は明日から本気で人生を変えるつもりだ。





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