第2話 プロローグ② 戦いを見るものたち
--あわわわわ…。何なのあれ?
魔法が炸裂する音にSSSクラスの教室から出たフィオナは窓から見える光景に驚愕する。
「模擬戦だな。」
「学園長も楽しそうにしておられる。生徒には連絡が入っていなかったのだろう。各教室に連絡を入れて見学だな。」
「しかし、冥王とその部下に扮しての模擬戦とは凝っているな。実力も冥王本人と言われても信じてしまうレベルだ。」
そこに通りかかったヘクトールの特別講師として教鞭を取る三人の高位冒険者が感想を述べる。
--そんな訳ないでしょう?え、でも、え?え?
学園長アイヴァンと共に戦っているのは、かつてZクラス担任で『居眠りじーさん』と呼ばれていたゼニス。昨年、SSSクラスの担任となったフィオナは、Zクラスに煮湯を飲まされてきた。しかし、それもZクラスの『居眠りじーさん』が大賢者ゼニスと知ってからは、その結果に妙に納得していた。
そのゼニスとアイヴァンは王国最強と言ってもいい。その二人と互角に戦っているのが、伝承に語られる冥王の姿をした男とこれまた伝承に語られる冥王の部下のスケルトン。戦いぶりからすると、冥王とその部下である事は明白だ。
気がつけば、教室から生徒が出てきて戦いに見入っている。SSクラスやSクラス、そしてAからDの教師や生徒も同様だ。
生徒たちはただ見入っているだけだが、教師たちは違う。自分があの場で何ができるか。冥王に扮した男は、大賢者が放つ『オーディンの槍』を魔法の盾で防いでいたが、自分たちにできるか。冥王に扮した男は『オーディンの槍』と同等の威力の魔法を放っているが、自分たちにできるか。彼らのように飛翔魔法を行使できるか…
そんな思いに駆られた。
◇◆◇
旧校舎。老朽化が進んでおり、壁や床に穴が空いているが、Zクラスのみが使用している。Zクラスは適性のない生徒に「ヘクトール出身」という箔をつけさせるためのクラスだ。何故か卒業後にほどほどの成功を収める者が多いため、放置されていても問題視するものは少ない。
昨年まで大賢者ゼニスが担任を務めていたが、ゼニスは魔王軍の監視のために常に幽体離脱を行なわざるを得ず、結果として放置が常態となっていた。
ところが、ゼニスは退職し、昨年の魔王軍の学園襲撃の事後処理もあってか、Zクラスの後任は決まらず、担任すらいない状態で放置されている状態だ。とにかく、自習していろということらしい。
アーシェは放置されている状態を悪くは思っていなかった。オーヴェル男爵家の生まれだったが、幼い頃、父親を亡くし寄親のトゥール侯爵家に養女として引き取られた。
そこでは厄介者として扱われ、召使いの仕事も義務付けられた。家人や召使いからの心ない言葉はアーシェを傷つけた。ここ最近、男爵家から侯爵家に移った使用人たちが気を利かせてくれなければ、最後の誇りを失うようなことが増えてきた。
それに比べれば、Zクラスで放置されている状態は嫌ではない。アーシェの容姿に気後れしてか、誰も話しかけてこないからだ。
Zクラスの居心地は悪くはないが、Zクラスになったため、アーシェの利用価値が低くなったとトゥール侯爵は評価している。自らZクラスに入るよう指示したにも関わらず。
このため、アーシェがトゥール侯爵の駒として権力者に売られる時期が早まるだろうと感じている。いずれにせよ売られることは決まっているので、もう考えないことにするしかなかった。
どおおおおぉぉぉぉん!
そこに、魔法と魔法の激突による爆音が響き渡る。
クラス全員が教室から出て様子を見に行く。アーシェもその波に乗って見に行くことにする。
遠目に戦う者の姿が映る。
その瞬間、何故かアーシェは胸が締めつけられるような懐かしさを感じるのであった--
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