第13話 Zクラス、冥王に攻撃する
「いやいやいや、大賢者様はともかく、アンタが6つ同時?いや、今2つ使ってるけどさ。騙そうたって、そうはいかないよ!」
サラは疑問をそのまま口に出す。負けた方が能力的に上というのは理解ができない。
いや、大賢者様であれば、自身よりも能力が上でも勝てるようにも思えるので、冥王が言うこともデタラメではないのかも知れない。
そう考えると、サラは少し動揺してしまう。
「ヒョヒョヒョ。愚かなる人間よ!愚かなりに真実を目の当たりにし、動揺しておるな!愉快!愉快!」
ガイコツなら怒りそうなサラの言葉だったが、笑い飛ばしてしまった。このガイコツの冥王に対する信頼は揺らがないものがあるらしい。
「2つ同時なんて、SSSクラスにだっていないんだし、嘘をつく理由が見当たらない…。」
シンが呟く。2つ同時で大きな顔ができるというのに、ここで嘘をつく合理的な理由が見当たらないのだ。
冥王「ホホホ。まあ続けて飛翔魔法を見せましょうねえ。」
「浮かんだ…」
ジェイドが呟く。ただ浮かぶだけなら浮遊魔法だ。飛翔というからには動かなくてはならない。そう思いながら見守る。
「動いてる…」
マグシスも呟く。飛翔魔法は難易度が高い魔法だ。それを行使しながら平然としていることにも驚く。
「私も飛びたい…」
イリスは羨望の眼差しで見入る。貴族という檻から放たれ、自由になることを夢想している彼女にとっては、冥王の飛翔魔法はその象徴に見えた。
「ホホホ。続けて索敵魔法ですね。ワタシと大賢者が使うものは、敵とその攻撃を検知するものですねえ。
ガイコツさん、棒を皆さんにお渡し下さい。」
宙に浮かんだまま、冥王はガイコツに指示を出す。
「ヒョヒョヒョ。愚かなる人間どもよ!冥王様からの下さり物だ。受け取るがいい!」
冥王がガイコツに指示を出し、ガイコツが指示に従い、どこから出したのかよく分からない棒を生徒たちに配る。
「…丈夫で質の良い木。…名前も書いてる…。」
アーシェが棒を見ながら呟く。
『アーシェリリー・オーヴェル』と棒に彫っている。『アーシェ』は愛称で『アーシェリリー』が正式な名だ。しかし、アーシェはトゥール侯爵家の養女なので、『アーシェリリー・トゥール』が今の名前だ。本来なら無礼な話なのだが、父が健在で『アーシェリリー・オーヴェル』として、ここにいるような気分になった。今日の授業が終わる時まではこの夢に浸っていたかった。
「ホホホ。では、皆さん。後ろから2、3人くらいずつ、時間差をつけてワタシに向けて投げて下さい。」
「デュフ!」
「腐腐腐…棒×冥王…。」
「喰らえ!……当たんない!狩りで投げ槍を外したことなんてないのに!」
生徒たちは思い思いに棒を投擲する。サラは故郷のセレネ村で狩をよく手伝っていた。弓矢も扱えるが、投げ槍が得意で大物を仕留めるのに使っていた。家族から右肩の筋肉が左より大きいと言われて左でも投げられるように練習しており、槍には思い入れが強い。
その槍を外されたことにサラは悔しがる。
「このように、索敵魔法で敵とその攻撃を検知することで、ある程度の攻撃はかわすことができるんですよねえ。」
「普通の索敵魔法じゃない…そこからおかしい…。これが大賢者様、そして冥王のレベル…。え?冥王?いや、自分を冥王と思い込んでいる変人のはず…。」
シンは驚愕を口にする。一般的な索敵魔法は自分と敵との大まかな位置関係を把握するものだ。冥王が今使って見せたものは、攻撃自体を感知するものであり、感知した攻撃を躱したことは、魔法による補助の効果か、冥王自身の実力か不明だ。
そもそも、学園は目の前の教師について『自分を冥王と思い込んでいる変人だが、実力は本物』と説明している。
実力が本物であることは疑わないが、使う魔法や口振りからは『魔族最高の魔術師』である冥王としか思えない。そうであるなら、冥王が丁寧に授業をしている理由が分からない。
40年前の大戦で王都を飢餓寸前まで追い込む策略を弄し、邪法を用いて獣王軍を強化し、大賢者を敗北寸前まで追い込んだ。
このため、魔王による被害を直接受けたわけではない王都の人間の中には、魔王よりも冥王を忌み嫌う者が多い。
その反面、戦場ではあくまで大賢者との一騎打ちにこだわり、堂々と戦ったことから冥王に一目置く武人も少数ながら存在する。
そう考えると、冥王は自分たちを害することはないとも思えるのだった。
「ヒョヒョヒョ。愚かなる人間どもよ!拾っておいたぞ!受け取るがいい!」
いつの間にかガイコツが棒を拾い集め、生徒たちに返し始めた。
◇◆◇
「ホホホ。では、防御結界ですねえ。先程と同じように棒を投げてください。魔法でもいいですよ。」
冥王が生徒たちに攻撃するように支持する
「火球1!」
「氷矢1!」
ジェイドとマグシスが魔法を放つ。
「ボソッ…一応、使えるんだ…。
風刃3!」
イリスは二人に聞こえないように呟いた後、初級の中では強めの魔法を放つ。
「雷撃4!」
「魔法すごいデュフ!」
アーシェの魔法を見たベルが驚きの言葉を口にする。
「アンタがダメなのよ。腐腐腐…腐炎!」
それに対してローズが返す。そして爛れたような色の炎が冥王に放たれる。魔法は使えないベルは先ほどと同じく棒を冥王に投げる。
--ワタシの知らない魔法が…本当に何者なんでしょうねえ…。
ただ、冥王は五十年ほど前に部下から、妙な魔法を使う者に出会ったと報告を受けていた。しかし、四十年前の大戦の際に確認できなかったので、単発的に発生し、すぐに廃れた奇形のようなものに過ぎないものであろう思い、調べるのを止めた。ローズが放った魔法は報告で受けた魔法とよく似ていた。暗黒魔法に近い雰囲気を感じる。
「シン!アイツに一泡吹かせてやるよ!アレをやるよ!」
「え…?分かった風砲!」
シンはサラの言葉に従い、魔法を放つ。収束した気流を相手に放ち吹き飛ばすためのものだ。
シンはそれを棒の太さに合わせ、管を細く調整する。
「で加速!行けえぇぇ!」
サラはその気流のルートに合わせて棒を投げる。何度も練習して高い威力と命中精度を誇っている。
ーー棒を風魔法で加速ですか…やりますねえ。
冥王は感心する。魔王と人間の大戦が始まろうとしているこの時期に才能の欠片が集まっているように感じる。大賢者という圧倒的な力が失われた反作用で集まってきたと思えるほどだ。
ーーん?今度こそ棒×冥王…腐腐腐。
ローズはサラが投げた棒の勢いに妄想を膨らませる。
「「「え?」」」
全員の攻撃が冥王に直撃し、一瞬冥王の姿が見えなくなる。そして、冥王の姿が見え始めた。
「全部弾かれた…!」
アーシェは驚く。先程と全く変わらない様子で宙に浮かぶ冥王。自分たちの攻撃が効いたようには見えない。
「ヒョヒョヒョ!愚かなる人間どもよ!お前らの攻撃なぞ、冥王様におかれては躱すまでもないのだ!」
ガイコツは「どうだ」、とばかりに言う。生徒たちはガイコツの言葉をそのまま受け入れるしかなかった…。
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