第22話 一番センスがあるのは……

 食事会を終えると、五人はカラオケに行くことになった。

 喜多代は自分で作戦をバラしたため、最早レオと協田の参加を断る理由はなかった。

 やがてカラオケ店に着き部屋に入ると、早速レオが「まずは替え歌で盛り上がりませんか?」と提案した。


「替え歌?」


「はい。実は私、替え歌のレパートリーを何曲か持ってるので、手始めにそれを披露したいんです」


「へえー。それは面白そうだな。じゃあ景気付けに、なんか一曲歌ってくれよ」


「分かりました。じゃあ、一番自信のある曲を歌いますね」


 そう言うと、レオは慣れた手つきでタブレット検索し、『ヘビーローテーション』を選曲した。


「♪ニシキヘビ、シマヘビ、アオダイショウ、頭の中、じゃんじゃん溢れるスネークが。ヘビのローテーション」


 レオが一小節歌い終わると、室内はたちまち爆笑の渦に包まれた。


「はははっ! なんだよ、ヘビのローテーションって」

「面白過ぎるんだけど」

「よくこんなの思い付いたな」

「というか、まだ日本に来て三年しか経ってないのに、なんでこの曲を知ってるのよ」


「この曲はアイドル好きのワイフに教えてもらいました。じゃあ次はもっと古い曲を歌います」


 そう言うと、レオは『少女A』を選曲した。


「♪自衛隊、自衛隊、迷彩服着て戦車に乗って。自衛隊、自衛隊、俺は俺だよ。関係ないさ。特別じゃない。どこにもいるさ。俺は少年B」


「はははっ! なんだよ、少年Bって」

「じれったいのところを、自衛隊に変える発想が笑えるわ」

「『戦車に乗って』のところが特に面白かったな」

「というか、あんた普段こんなことばかり考えてるの?」


「はい。皆さんに喜んでもらうために、暇さえあればいつも考えています。ということで、早速次に……」


 レオが言い終わる前に「おい、ちょっと待てよ。お前、このまま一人でずっと歌う気か?」と、協田がキレ気味に訊ねた。


「あと二、三曲歌おうかと思ってたんですけど、ダメですか?」


「せっかくみんなで来たんだから、順番に歌った方がいいだろ。ということで、次は俺が歌うよ」


「えっ、協田さん、替え歌のレパートリー持ってるんですか?」


「なめるな。替え歌の一つや二つ、即興で作れるさ」


 そう言うと、協田は『プリテンダー』を選曲した。


「それでは『プリテンダー』の替え歌で『別れてえんだー』を歌います」


「♪グッバイ。僕の運命の人は君じゃない。辛いけど仕方ない。だから頼む。別れてくれ」


「ぎゃははっ! さすが協田さん。女たらし振りがよく表現されてますね」

「この歌詞、全然笑えないんだけど」

「まあ女性からすると、この歌詞は共感できないだろうな」

「というか、これあんたがいつも女に言ってるセリフでしょ?」


「おい、おい。俺はこんなセリフ一度も言ったことないよ。これはあくまでも替え歌なんだから、本気にするなよ」


「まあ、そういうことにしといてあげるわ。じゃあ、次は私がいくわね」


 そう言うと、喜多代は『夜に駆ける』を選曲した。


「それでは、【YOASOBI】ならぬ【火遊び】の『夜にける』を、お聞きください」


「♪騒がしい夜の住宅街。私が家に火を点けたせいで」


「ぎゃははっ! それ、完全に放火魔じゃないですか」

「歌手名と歌詞の両方を変えるなんて、さすが服ちゃんね」

「この替え歌はレベルが高いな」

「まあ、俺の方が面白かったけどな」


「別にどっちが面白くてもいいわよ。じゃあ、次は坂本さんの番だけど、替え歌のレパートリーって持ってますか?」


「いや。そんなの持ってないけど、みんなのを聴いているうちに一つ思い付いたから、それを披露するよ」


 坂本はそう言うと、『香水』を選曲した。


「では、『香水』の替え歌で『洪水』を歌います。♪夜中に、いきなりさ。近所の川が溢れ。そのせいで、もう寝ていたみんなは、たちまちパニックさ」


「ぎゃははっ! おだやかな口調で、もの凄いこと歌ってますね」

「今思い付いたにしては、とてもよくできてるわ!」

「坂本さん、替え歌の才能ありますね!」

「まあ、俺ほどじゃないけどな」


「才能があるかどうか自分では分からないけど、これを機にレパートリーを増やすのもいいかもしれないな」


 意外にも、坂本は手応えを感じているようだった。





「じゃあ、最後は私の番ね」


 伊代はそう言うと、『うっせえわ』を選曲した。


「♪はあ? うぜえ、うぜえ、うぜえわ。あなたが思うより変態です!」


「ぎゃははっ! 変態ってなんですか」

「さすが岡ちゃん。相変わらず面白いわね」

「『うっせえ』の部分を『うぜえ』に変えてるのも、今時っぽくて良かったな」

「まあ、まずまずの出来だったけど、それでも俺には及ばないな」


 あくまでも自分が一番だと言い張る協田を無視し、「坂本さんに褒められて嬉しいです!」と、殊勝な態度を見せる伊代だった。







 

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