第2話 モテモテの協田に嫉妬するレオ
あくまでも協田を誘うことに拒否反応を示すレオは、お調子者で有名な派遣社員の日高進を誘うことにした。
「日高さん、今日の仕事帰り、女性社員を誘って飲みに行きませんか?」
「いいねえ。じゃあ、俺が店を予約しとくよ」
「お願いします」
やがて終業時間になると、レオは同じ派遣社員の藤原久美と大重聡子に声を掛けた。
「藤原さんに大重さん、今から日高さんを交えた四人で飲みに行きませんか?」
「今日は旦那の帰りが遅いから私はいいけど、大重さんどうする?」
「旦那は今出張中だから、私もなんの問題もないわ」
「じゃあ、決まりですね。日高さんが店を予約してるみたいなので、そこへ行きましょう」
レオは意気揚々と日高に伝えに行った。すると……
「ごめん、レオ。急用ができて、行けなくなった」
両手を合わせて謝る日高に、レオは「急用ってなんですか?」と、やや怒り口調で訊いた。
「今日が人気ラーメンチェーン店の開店日だってこと、すっかり忘れててさ。早く行って並ばないと、品切れで食べられなくなるんだ」
「そんなの、別に今日行かなくてもいいじゃないですか」
「いや。こういうのは、開店日に食べることに意味があるんだ。なんたって、その店にとっての記念日だからな」
「そんなこと言っても、所詮チェーン店でしょ? スタッフもそんなに思い入れはないと思うけど」
「たとえそうでも、とにかく俺は今日行かないと気が済まないんだ。じゃあ、そういうことで」
そう言うと、日高はさっさと帰って行った。
「ほんと、日高さんはしょうがない人ですね。じゃあ、仕方ないから三人で行きますか?」
「二対一だとバランスが悪いから、もう一人誘わない?」
「それだったら、私、協田さんがいいな」
「協田さんはダメです!」
食い気味に断るレオに、二人は怪訝な顔をしながら、「なんで?」と訊ねた。
「協田さんは今日用事があるみたいなんです。さっき本人がそう言ってました」
「おい、おい。そんな嘘までついて、俺を行かせたくないのかよ」
いきなり背後から聞こえてきた協田の声に、レオは「なんで協田さんがここにいるんですか?」と、目を丸くさせながら訊ねた。
「さっき、日高さんが今日の飲み会を断っている声が聞こえてきてな。ほら、あの人、声が大きいだろ?」
「もしかして、日高さんの代わりに、飲みに行こうと思ってるんですか?」
レオは協田を行かせたくないため、わざと冷たい態度をとった。
「ああ。ついでに言うと、さっきちらっと俺の名前が出たのも聞こえたんだ」
「協田さん、じゃあ私たちと飲みに行ってくれるんですか?」
久美が目を輝かせながら訊ねた。
「ああ」
「ラッキー!」
「ああ、こんなことなら、今日もっといい服着て来れば良かったわ」
喜ぶ二人に、レオはそれ以上何も言えなくなった。
「じゃあ、俺の行きつけの居酒屋が近くにあるから、そこへ行こう」
協田がそう言うと、久美と聡子は飛び切りの笑顔で頷き、レオはそんな二人を見て苦笑いするしかなかった。
やがて店に着くと、レオたちは四人用の席に案内され、生ビール四つとつまみを適当に頼んだ。
「この店初めて来たけど、なかなか雰囲気がいいわね」
「だろ? ここは割と客層がいいから、よく利用してるんだ」
「じゃあ、今日はあんまりはしゃげないわね」
「どうして? せっかく飲みに来たんだから、思い切り騒ぎましょうよ」
「レオ、ここはそういう店じゃないから、あんまりうるさくしたらダメよ。でないと、次から協田さんが来づらくなるでしょ?」
「わかりました。じゃあ、なるべく騒がないようにするよ」
レオは不満気な表情を見せながらも、久美の言った事に頷いた。
「ところで、協田さんて、休みの日は何をしてるんですか?」
聡子が興味津々に訊くと、「俺は、もっぱら小説や脚本の執筆に時間を充ててるな」と、協田はあっさりと答えた。
「ええっ! 協田さんて、そんな崇高な趣味を持ってるんですか?」
「今は趣味の範囲に収まってるけど、行く行くはプロの作家として活躍するのが俺の夢なんだ」
「すごーい! その夢が実現するよう、私ずっと協田さんを応援するわ」
「私も。協田さんなら必ず実現できるわ」
早くも女性二人が協田の虜になっていることにイラ立ちながらも、レオは「じゃあ、私も応援します」と、殊勝な態度を見せた。
「と言っても、俺も今年で35歳だからな。もうあまり時間は残されてないんだよな」
「35歳なんて、まだ全然若手ですよ。私の知り合いに、50歳を過ぎて作家になった人もいるし」
「そうよ。作家になるのに、年齢なんて関係ないわ」
「ありがとう。二人のおかげで、なんかやる気が出てきたよ。こうなったらもう、何が何でも作家になって、二人に俺の作品を観てもらいたいもんだな」
「そうなったら、私必ず観るわ!」
「もちろん私も観るわ!」
二人に釣られるように、レオも「じゃあ私も観ます」と言ったが、彼女たちは彼のことなどまったく眼中になく、淡々と夢を語る協田に夢中になっていた。
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