Extinction・Escape

丫uhta

アラル


「うぐっ!」


 部屋に響き渡る男の呻き声。機械で出来た体を壁に預ける男の目は、威嚇とも悲しみとも感じられる琥珀色の目は、弱弱しくも確かな光を宿していた。そんな男の目の前に立つ女性もまた、男と同じ琥珀色の目をしていた。一つ違いがあるとすれば、女性の目には迷いと怒りが宿っている事だ。


 静けさ漂う部屋。男の千切れた肩の断面から滴る体液だけが静まった部屋の時を刻んでいた。やがて、男の開口で針の音は消えた。


「…この地球は、君の知っている昔とは違う。最早、我々が生きる事の出来る環境では無い…! 君も私も…限界まで衰弱すいじゃくし切っている。仕方が無かったんだ。人間は……が一番、手を出したくない種族。勿論もちろんそれは大きな賭けだった。だが、一番の方法だったんだ!」


「それで!? 結果は!?」


「それは……ぅっ!」


 男の力の無い言葉に女性は、目に涙を溜めながら足元に転がる千切れた腕を蹴り飛ばして男の首を締め上げた。締め上げられた男は、息を漏らしながらも次に来る攻撃に対して歯を食い縛った。途端、天地が逆転した。


「どうなんだよ!!」


 ドォン!!女性は、涙を振りほどきながら男を床に叩き付けた。一番大きい衝撃だった。頭から叩きつけられ、顔の半分が潰れた男は「ぐぁ!」と堪える様な呻き声を漏らした。

 掴まれたその手の形に抉れた首から伸びる血管の様な線が女性の指に引っ掛かって床に叩き付けた筈の男を持ち上げていた。

 顔の半分が溶けた様に潰れた男は、ぎこちない動きで女性を見つめた。これほどまでの事をされてるにも関わらず男は、怒るどころか、反論する事も無く、ただ、自分に向けられる暴力を当然の物として受け入れていた。


「なん、で…何でだよ!! は…! もう…嫌だ…!」


 泣き叫ぶ女性の涙が男の顔を濡らした。女性は、指に引っ掛かった線を解いて袖で涙を拭った。


「…既に、我々の事は、政府に知れ渡っているだろう……を一般人に託したのは、政府やからの注目ヘイトを我々に集めて…から注意をらし…て、回収するためだ……もうすぐ、政府が来る。怒るのは結構だが。どうか、おかしな動きはしない事を約束してくれ。最悪、そのまま回収出来ずに|連れて行かれ……」ゴン!!


 女性は、男の言葉を遮る様に男の顔を目掛けて振り下ろした拳は、男の潰れた顔を掠めて床を凹ました。その女性の手の甲からは、折れた金属の骨が鮮血と共に飛び出していた。


「…何が…何が回収だ!! お前はを何だと思ってるんだあ!! はぁ!はぁ!はぁ!……政府が消えて、あの子を助けれたら。その時は覚えてろよ…っ!!」


 女性は、飛び出した金属の骨を庇う様にもう片手で骨を押さえると呼吸を整えながら部屋を出ようとドアに足を運び始めた。

 その様子に男は、少し安心したかの様に溜め息を吐いてボヤける白い天井を見つめた。


「ああ、好きにしてくれ。君にまだ、諦めの気持ちが無い事が確認出来て良かった。はぁぁぁ……しかし…あの一般人…既に死んでいる人物だったのが気掛かりだな……」


「っ…! ぉぃ……今…なんつった?」


 遠退く意識を保たせようと男は、小さく呟いた。だが、その一言に足を止めて振り返る女性は、顔を青褪めさせながら声を震わした。

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