コスモポリタンの三十一音

江坂 望秋

甲子園

 葉月きて今年もようやく夏がきた かんかん照りの太陽の下


 甲子園球場アルプス人だかりしばらくぶりの熱狂を見る


 注目は今住むこの地とふるさとと大阪桐蔭高等学校


 グラウンド歩いたはずの四十九人 途切れ途切れの寂しき入場


 悲しいとき嬉しいときもぬぐうためポケットにそっとハンカチ入れる


 ツーアウトツーストライク二三塁 気になる観客そわそわ球児


 ふるさとの海より出でし燦然と輝く星に願いを込めて


 投げてよし打ってもよし走ってもよし地元の星は初戦勝利


 敦賀気比四番でエースは上加世田 「なんで強いの?」 「若いから」


 容赦なき大阪桐蔭高校のその容赦なさに涙と笑顔


 海の星湖畔に聳える強豪に満塁ホームラン打たれてがくり


 驚愕の九回表の大逆転 大阪桐蔭高校敗れる


 投げたのは二年生なの九回に背負っていたもの誰よりも重く


 泣くのなら泣いてしまえよ敗戦の涙の味はどんな味だろ?


 夕立の甲子園球場では最後の九州が敗れ去った


 去り際に『またな』と言っているだろう 二年生エース『さよなら』と言わずに


 キャプテンで四番でエースで満塁でホームランを打つ男が去った


 二週間ちょっとのみじかく熱き夏 初優勝はどちらの方に


 七回に深紅の旗が白河の関を半分またいだ気がする


 青空に雲が湧き出て天高く純白の球が飛んでいった


 そしてまたかんかん照りの太陽の下 葉月の夏が終わりを告げた

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