第2話「魔術師保護法」

 俺の住むレヴィーティア王国を含む大陸西部には「魔術師保護法」というものが存在する。

 この世界の人間は物凄く大雑把に分類すると三種類に分けられる。

 一つ目が、魔力を全く持たない人間。

 二つ目が魔力を持ち自らの身体能力を強化できる人間。

 最後に三つ目が魔力を持ち自らが魔力を変換・もしくは魔道具を用いて魔術を発動できる人間。

 エルトとサラとシェリーは二つ目の魔力を持ち自らの身体能力を強化できる人間。

 俺は三つ目の魔術師だ。ちなみに一般的に魔道具が使えればそれだけで魔術師と呼ばれる。仲間の三人は魔力を持っていても魔道具は発動できない。

 そしてエルトが先程俺に告げたセリフ。

『お前が魔術師のくせに何の魔術も使えないからだよ。このエセ魔術師!』

 エルトの言うように、俺は魔術が使えない。

 魔道具を使って身体能力を強化することしかできない。

 だったら魔術師を名乗らなければいい。と魔術師の定義を知らない人達からは良く言われるが俺は魔道具無しでは身体能力の強化は出来ない。そして魔道具を使う以上魔術師としてカウントされてしまう。

 だったらもう一人魔術師を入れればいいんじゃないか。と言う人もいるがここで問題になるのが「魔術師保護法」だ。

 ちなみに俺はこの法律で保護されたり恩恵を受けたりした事は一度も無い。

 発端は百年以上も前の出来事だが、魔術師だけのS級パーティとその弟子達がダンジョンで全滅するという事件が起きた。

 それにより貴重な魔術師を十人以上も一気に失ってしまったレヴィーティア王国ではこんなことが二度と起きないように、『魔術師は一つのパーティに一人のみとする』というわけのわからない法律を作った。パーティが全滅しても失う魔術師は一人で済むとか正直意味がわからない。

 だが何故か当時それを指摘する人がいなかったのかそれ以来冒険者パーティには魔術師は一人しか入れられないようになった。

 俺は声を大にして言いたい。

 なんでそんなアホみたいな法律を作ったのか。

 希少な魔術師を守るために魔術師保護法が制定されたというが、一パーティに一人となったおかげで地域によっては魔術師が余っているのが現状だ。

 つまり、俺がいる限り俺達のパーティは他の魔術師を追加できないのだった。

「今日だってお前が広域範囲の攻撃魔術を使えればキラービーの群れなんか一蹴できたんだ。任務に失敗する事も無かった」

 今日の失敗の光景が思い浮かぶ。キラービーの群れを捌ききれずにあきらめて撤退したのだ。

「でもロックゴーレムを倒したのは俺だぞ」

 自分の功績を口にする。

「ああ、杖で殴り倒していたな。本当なら風の魔術で一発なんだよ。なんで魔術師のお前が剣士の俺以上に先頭に立って打撃系の戦いを繰り広げているんだ」

「それは仕方ないだろう。昔からそういうスタンスだ」

 ロックゴーレムは固く魔術無しで倒すには骨が折れる相手だが風魔術に物凄く弱いという弱点もあった。

 魔術の使えない俺は渾身の力を込めてゴーレムを杖で殴り倒したのだった。

「幼馴染としてお前のことを容認してきたがもう限界だ。もう一度言うぞ。テオ。お前をパーティから追放する」

「わかったらさっさと消えて頂戴」

「そういうことよ。テオ。いいかげんに現実を受け入れなさい」

 エルトの言葉にシェリーとサラが続く。

 本当にここにはもう俺の居場所はないのだ。

「わかった」

 俺はこの現実を受け入れる事にした。

「エルト。今まで世話になったな」

「ああ」

 最も付き合いの長かった幼馴染に別れを告げる。

「サラ。幸せになれよ」

「ええ。さようなら。テオ」

 生涯でたった一人の恋人だった女性に別れを告げる。

「シェリー。……………二人と仲良くな」

「ええ」

 シェリー相手には特に名残惜しいものなんかがなかった。

「じゃあな。みんな」

 俺はみんなに別れの言葉を告げて背を向けた。

 返事は無かった。

 俺はそのまま振り返ることなく部屋を出てそのまま宿を出た。

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