第20話 人の力
遥か昔、人間には特別な力があると言われていた。天使や悪魔にはできない、人間にしかできない力だ。だが、それが判明するよりも先に、俺はニートになってしまった。何か特別なことがあったわけではない。
いや、何も特別なことがなかったから俺はニートになったのだろう。俺本人を変えるような劇的な何かがあったら、俺はいまごろ真っ当な生活を送っているはずだ。
そんな劇的な何かがなかったから俺はニートになった。
だから、俺には人間だけが使える特別な力を知らない。そもそも人間に興味の無かった俺には知る由もない。
でも、生徒たちが俺にその解答を教えてくれた。
この前の授業で生徒たちが使おうとしていた魔法陣だ。
あの魔法は結局失敗してしまい、発動することは無かったが、あれは恐らく人間にのみ使える特別な力なのだろう。なんせ俺はその魔法陣を使えなかったのだ。
俺がその事実に気づくまで、そう時間はかからなかった。
あの魔法陣は特別な魔法陣だった。
一人で魔法を発動するのではなく、複数人で魔法を発動する。
その発想は悪魔にも天使にもできなかった。例え、その発想に至ったとしても成功することは絶対にないだろう。なぜなら、天使と悪魔は他人と協力することが本能的にできないからだ。
正確には、天使同士、悪魔同士で協力することができないと言い変えた方が良いか。
天使は学級委員長のような性格をしており、どいつもこいつも全体が綺麗になるようにまとめようとする。それ自体は良いことだろう。だが、クラスに学級委員長が二人も三人もいれば、話は変わってくる。人間だったら、そこで誰かが手を引くのだが、天使共はそうではない。共通の敵でも生まれない限り、自分が仕切ろうとしたがる。
逆に悪魔は天使とは真逆だ。不良生徒のような性格で、とにかく纏まりがない。どいつもこいつもが自分のしたいことを勝手にやり始める。まあ、好きなことをしているためなので、たまに善い行いをしたがる奴が天使みたいな扱いを受けることもあるが。基本的には俺みたいなゴミばかりだ。俺は怠けることが大好きで、それのみに執着してサナや俺の担当する生徒たちに迷惑をかけている。控えめに言ってゴミだろう。
そんなこんなで天使と悪魔は同族同士で力を合わせることができない。
だが、人間はそうではなかった。互いに協力し合うことができる。それが恐らく人間が持つ特別な力なのだろう。そして、その力を使えば、複数の魔導士で一つの魔法を発動させることができる。
授業の時は失敗していたが、既にある程度は確立されているはずだ。
俺が生徒たちに興味を持った理由もこの辺りにある。どうせ俺は長く教師をやれる程できた奴ではない。その内に飽きるか面倒になるかして教師を辞めるだろう。何だったら今の時点でやめることを考えていたりする。所詮俺はその程度のゴミだ。
だが、やめる前に一つだけやりたいことができた。
俺がニートになる前、天使と悪魔がくだらない喧嘩をしていた頃。その時代には無かった人間の魔法を生徒たちに発動させる。それが今の俺に唯一できたやりたいことだった。
まあ、今はそれよりも同胞に会うことの方が楽しみなんだけど。
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