きさらぎ駅

白雪ひめ

第1話 

きさらぎ駅は実在した。


1:たばた:22/09/01 00:45

 本当にあった話。

 誰も信じてくれないから、ここに書くことにする。



2 :名無しさん:22/09/01 00:47

>>きさらぎ駅とか何番煎じだよ



3:名無しさん:22/09/01 00:49

2 >>まぁ聞いてみよう




 

 大学も夏休みに入り、俺は家族と山間部にある祖母の家へ泊まりに来ていた。

 その日は猛暑日で、全国的にニュースになる程暑かったのを良く覚えてる。


 祖父と曾祖父(ひいそふ)はもう他界していて、お盆に家族でお墓参りに行くのが毎年恒例の行事だった。

 俺は父の運転する車に揺られながら、菊とリンドウの細い花束を抱えて窓の外を見ていた。

 山山山。畑畑。青い空。白い雲。

 真夏の田舎の景色は、どこまで行っても大して変わらない。


 曾祖母と祖母が、お盆について、俺たちに説くのもいつもの事だ。


「お盆はね、亡くなられた方やご先祖様が、浄土からここへ帰ってくる日なんだよ」

「へー」


 妹がてきとうに相槌を打ちながら、俺の腕から花束を引き抜いた。


「あたしが持つ」


 妹は高校一年生で多感な時期だが、俺に進路のことなど相談しに電話して来る位には仲が良い。


 ど田舎の道を走り、お寺の墓に向かった。

 駐車場で車を停めて、降りる。

 門から入って直ぐな場所に置いてある、手桶と柄杓(ひしゃく)を持って、手水(ちょうず)の水を入れる。

 冷たくて気持ち良い。

 みんなでぞろぞろと、たばた家の墓に向かう。

 お墓参りの道具を纏めた袋から、ライターと、線香の箱を取り出し、軽い事に気が付く。蓋を開けてみると、線香は一本も入っていなかった。


「あ、線香無い」


 母が頬に手を当てて大袈裟に言う。


「あらやだ、どうしよう」


 父が言う。


「スーパー行って買ってくるか」

「お母さんも行こっかな〜。ちょっと先にお墓綺麗にしておいてよ。雑草いっぱいだし」

「え」


 妹が両親に付いて言う。


「アイス買ってきてあげるからさ〜」

「‥‥シロクマで」

「分かった〜」


 仕方ない。

 曾祖母もいるし、短時間に済ませた方が良いだろう。


 俺は炎天下の中、黙々と雑草を除去し、たわしで墓石を磨いて綺麗にした。

 けっこう綺麗になって、満足しつつ、俺は息をついて階段の所に腰を下ろした。

 すると、向かいにあった墓が自然と目に入った。

 とても汚い。雑草が生い茂り、鉢も空っぽだ。石も苔が生えて緑になっている。

 酷い有様だ。

 子孫は手入れしていないのだろう。

 なんだか気の毒になって、俺はそのお墓も綺麗にしてあげようと思った。

 たまにやりたくなる親切心って感じだ。

 そんな軽いノリだった。


 今思えば、ここが大きな間違いだった。


 雑草も沢山引っこ抜いて、同じように墓石を磨いてあげた。空っぽの鉢を洗うと、随分マシになった。

 まだ家族は戻って来ない。


 俺は調子に乗って、もっと何かしてあげたくなった。

 流石にパック入りの大福をあげたらバレると思ったから、ポケットに入っていた飴玉を墓石の前に置いてみた。

 その時、家族が戻って来た。

 妹は直ぐに気がついた。


「あれ?そのお墓めっちゃ綺麗になってない?さっき雑草ヤバかったじゃん」

「暇だから掃除しといた」

「へー、たまには良いことするじゃん」


 妹は「お花が無いね」と言って、持っていた花束から二本菊を引き抜いて左右の鉢に挿した。


「ちょっと、何してるの」


 母は言うが、妹は無邪気に返す。


「いいじゃん、二本くらい!お爺ちゃん達はそんな器の小さい人じゃ無いでしょ」


 妹は手を合わせた。


「どうか安らかにお眠り下さい」


 俺たちは墓参りをして帰った。




 異変が起きたのは、その日の夜だった。

 真夜中で、クーラーはガンガン掛けているはずなのに、暑苦しくて目が覚めた。


 普段はベッドだから、布団は慣れないな、だから目が覚めたんだ、と俺は勝手に解釈し、なんとなく水でも飲もうかと思って、起き上がると畳の隅に誰かがいた。


 俺は速やかに布団に戻り、目を閉じた。

 心臓がバクバク鳴る。


 いやそんなまさかな。

 まさかな。


 パチッ、ミシッ、というラップ音がひっきり無しだ。この家は木造で確かに家鳴りは酷いが、ここまでじゃない。


 畳が軋む音がする。

 何かを引きずるような、畳の上を爪で撫でるような軽い、何かをしないと発生しない音が発生している。


 嘘だろ。


 目をきつく閉じる。

 その時、水滴が落ちてきたみたいに、額がすっと冷たくなった。

 耳元で女性の囁きが聞こえ、俺は悲鳴を上げて電気を点けた。

 そこには何も居ない。

 気のせい、気のせいだった。寝ぼけていたんだよ。


 そう脳みそが納得し始めた時、寝室と廊下を区切る、厚いすりガラス付いた扉の向こうで、何かの影が蠢いた気がした。

 その直ぐ後、玄関の所にパッと光が点灯した。

 あの光は人を探知して点灯するものだ。

 他に人は居ない。

 みんな寝ている。


 余りにもリアル過ぎて、怖さを通り越して信じられない気分だった。


 嘘だろ。夢だろ。


 そうだ、スマホに撮ろう。

 

 俺はすりガラスに視線を向けたまま、枕元のスマートフォンを起動させた。カメラモードにして、恐る恐る、すりガラスの玄関がある方向にカメラを向ける。

 赤い丸を押す。

 ポン、と間抜けな可愛い音を響かせて、録画を始める。

 俺は息を潜めて、しばらく撮影していた。

 だがすぐに電気は消えてしまった。

 何も起きないから、俺は撮影をやめて、見に行くか悩んで、結局止めて寝ることにした。


 この時、俺は「墓参り」と「オカルト現象」が繋がっていなかった。



 翌日、俺は朝食でみんなが揃ってから、開口一番に言った。


「昨日、幽霊を見た」

 

 少しして、みんなが笑い始めた。


「いや、俺もあり得ないって思ったんだよ、でもこれを見てくれ」


 俺はスマートフォンで録画した動画を見せる。


「ほら、あり得ない場所で電気点いているんだよ。誰もいないのに、玄関の光が点いてる」


 両親は野良猫かたぬき、ハクビシンのせいだと言った。

 祖母と曾祖母は動画が何なのかよく分かってなくて、直ぐテレビに興味を移していた。


 朝食が終わり、食器洗いを手伝っているお、妹がおずおずと言ってきた。


「さっきのやつ、もう一回見せて」

「え?なんで」

「‥‥あたしも昨日見たの。たぶん‥‥女の人だったと思う‥やだ、怖い!!ねぇお兄ちゃん今日は一緒に寝ようよ!!」

「えぇ嫌だよ」

「お願い!」

「‥」


 昨晩俺が寝たのは玄関側、廊下に面する畳の部屋で、妹が寝たのは廊下の曲がり角にある畳の部屋だ。

 大分距離は離れているはずだが、幽霊には関係ないのかもしれない。


 仕方なく、俺のいる畳の部屋に二人で布団を敷いて寝た。


「昨日、夏のホラー特集ってテレビやってたし、それに影響受けたんじゃ無い?」

「俺もさっきそう思った」


 なんてやり取りをしつつ、スマホゲームをして寝落ちしていた。

 そして、深夜。

 昨晩と同じように、寝苦しくて目が覚めた。

 暗闇の中で更に濃い影がある。


 あ、、いる。

 

 俺は妹を起こそうとして、隣に寝ていた妹と目が合った。

 妹が手を握ってくる。

 キモいなんて思う余裕も無い。

 人影はゆっくりと近づいてきて、俺は布団を被って目を閉じた。



『かえ、ろ』



 耳元でハッキリと聞こえ、妹が「ひゃええぇ!」と間抜けな悲鳴を上げて俺の布団に転がり込んで来た。

 勢いで明かりを点ける。

 誰もいない。

 だが、絶対に居た。

 妹が息を荒げて言う。


「今、帰ろうって、言ったよね」

「言った」


 そのオカルト現象が起きた日は、16日。

 日付に注目して欲しい。



 翌日、祖母と精霊棚の片付けをした。


 一度笑われているから、恥ずかしくてお化けが居るなんて主張は出来なかった。


 キュウリの馬とナスの牛。

 爪楊枝を足にして、キュウリもナスを馬や牛に見立てて飾るものだ。 

 キュウリの馬は、ご先祖様に早く帰ってきて欲しい願いを込めている。

 そしえ、ナスの牛は、ゆっくりあの世に帰って欲しい願いを込めている。


 そう、お盆には、「行き」と「帰り」がある。

 そしてお盆の精霊棚は13日の初めに飾り、16日には片付ける。


 お分かり頂けただろうか。

 俺達は最後のサインを見逃してしまったのだ。



 そうして、俺は家族と別れ、大学の寮へ帰った。

 帰ってきたその日の夜に、あの幽霊がいることに気がつき、心底驚いた。

 俺はなぜか、幽霊はお婆ちゃん家にいるものだと思っていたから、衝撃もすごかった。


 祖母の家ではなく、「俺」に憑いているのか。

 幽霊は部屋の隅に立って、こっちを見ている。

 俺が布団を被ると、女性は囁いた。


『かえりたい』


 どこに帰りたいんだろう。

 俺は思いながら、寝た。


 まだ学校は始まらないが、バイトをして帰ってくると、俺の部屋の窓ガラスに、誰か立っているのが見えた。

 その人影はじっと、俺を見下ろして、待っているみたいだった。

 

 俺は頭を抱えた。

 こういう映画の一シーン見た事がある。

 最悪だ。


 『かえろう』が『かえりたい』に変わっていた。今は無害でも、いつか『かえらせてくれ』に変わって、実害を被るかもしれない。


 その日の夜、妹から電話が掛かってきて、さらに驚いた。

 お兄ちゃん、お化けが出る、怖いよ、うわぁーん、と子供のように泣き始めた。

 放っておけず、俺は一度、両親と妹が住む実家に戻ることにした。


 俺は妹と共に、お祓いに行った。

 地元のお寺に行くと、住職さんに直ぐ言われた。


「これは祓えませんね」

「えっ!!何でですか?!」

「こちらが攻撃されてしまいます。随分あなた達に執着しているようですね。何か心当たりは?」

「執着?」

「お盆の間、どこか行かれました?」


 お坊さんは俺達と話をしてくれて、一つの結論を導き出した。


「あぁ、それですね。ダメですよ。誰のお墓なのか、どの神様を祀っているのか理解している所じゃないと、ちゃんと供養されていなかったり、得体が知れないのも沢山居ますからね」

「‥‥お寺のお墓ですよ?」

「戦争の時に亡くなられた方も入っていたら、身元が間違っていたりする場合もよくあります。それにしても、よく無いですね」

「な、何がですか!?」

「『かえろう』って言ったんでしょう?」

「はい」

「あなた達が連れて行かれる可能性がありますよ。浄土に」


 妹と震え上がった。


「ど、どうしたら良いですか?お札買えば良いですか?」


 お坊さんは笑う。


「もっと大きい所の神社かお寺に行ってみて下さい。私じゃ手に負えませんから。すみませんね」


 そうして、俺たちは地元にある寺や神社をたらい回しされた。

 最終的に、何の誰のお墓か、を確認して、向こうの神社で相談してくるようにアドバイスを受けた。


 新幹線で二人で祖母の家に一旦戻ることに決めた。

 俺は乗車券を二枚購入する。

 

「お兄ちゃんごめんなさい。あたしがお花とかあげなきゃ、こんな事にはなって無かったのに‥‥」


 妹はもともとお化けが苦手だし、今日はずっと半泣き状態だった。


「気にするなよ、元はと言えば俺が元凶だし。やってしまった事は置いておこう。取り敢えず、どう祓うか考えよう」

 

 妹が涙を拭いて頷く。

 俺がなんとかしなくちゃいけないと思った。


「寝てなよ、俺が見張っとくから」

「うん。ありがと」


 俺は新幹線に乗りながら、考えを整理した。

 幽霊は、お盆が終わって帰れなくなってしまったんだ。

 俺の変な同情心と親切心で、この世に引き留めてしまった。

 

 祓うというのは、何となく方法が間違っている気がした。

 例えその時祓えても、ダメな気がする。

 嫌な予感がする。

 できるだけ、幽霊も納得する形で円満に別れたい。そして可能ならば、幽霊をちゃんとあの世に帰してあげたい。



 祖母の家に帰ってきて、俺は祖母に事情を話した。

 祖母はお札をくれた。

 さらに、折り鶴と、小さな巾着袋に塩を入れたものをくれた。


「ありがとうお婆ちゃん」

「大丈夫、強くて優しい心には、悪い気は勝てやしないよ。◯くんと◯◯ちゃんは、良い子だから、連れてかれたりしませんよ」


 俺は祖母の言葉を信じる事にした。

 最悪祓えなくても、強い心を持っていればきっと大丈夫。

 俺が言い聞かせていると、曾祖母が俺の肩を掴んだ。


「婆ちゃん?」

「お風呂にいってんしゃい」

「え?」


 曾祖母は、台所の塩をケースごと持ってくると、俺と妹を風呂へ入れ、塩をどんどん掛けて来た。

 

「曾祖母、なんか上手く祓える方法無いかな?幽霊も納得できる形で」


 ケースの塩を全て使い切ると、曾祖母が大きな声で言った。


「きさらぎに行くしかねぇべなぁ」

「きさらぎ?」


 そう言って、曾祖母は部屋に戻って行った。

 俺は妹と顔を見合わせて、曾祖母の後を追う。

 曾祖母は、自分の部屋の箪笥を開け、何かを探していた。

 しばらくして、曾祖母は、俺に小さな紙を差し出して来た。

 赤みがかった|橙(だいだい)色で、よく見ると、それは切符だった。


ーーーーーーーーーーーーー


 熊谷村 → 45円区間

45.8.10 藍ノ川鉄道


ーーーーーーーーーーーーー


 俺は息を呑んだ。


 藍ノ川鉄道って、もう廃線になった鉄道だ。ここの近くにあって、今はもうほとんど線路も埋め立てられているはずだ。

 しかも、45というのは、西暦の数字だろう。

 1945年か、1845年。

 曾祖母は96歳だから、俺の歳から逆算すると、昭和元年で1926年だ。

 つまり、曾祖母が20歳の時に購入したものだろう。

 それがなぜ、ここに?

 切符に切り込みは入っていなくて、未使用だと分かる。

 

 妹が曾祖母にたずねる。


「これ、廃線してる切符だよね?」

「きさらぎに行くしかねぇべ」


 曾祖母は、俺に手を開かせ、切符を指差して言う。


「六つ目の駅で降りるんだよ。いいかえ?六つ目だよ」


 なぜか妹が、ゆっくりと口を押さえた。

 曾祖母は俺たちの顔を見て、言い聞かせるように言う。


「いいかい?六つ!六つだよ」


 俺は既視感に襲われた。

 違う、これは俺自身じゃない。


 そう、このセリフを俺は知っている。

 ジ◯リの名作、湯婆婆が千尋に切符を渡した時の‥‥

 湯婆婆は、千尋が間違えないように、何度も確認するのだ。


 降りるのは六個目、沼の底、だと。


 千と千尋の神隠しは色々な物をモチーフにしていると聞いたことがある。

 

 妹がたずねる。


「それ以外の駅で降りたら、どうなるの?」


 曾祖母は首を振って妹の頬をバチパチと叩いて怒った。


「六つっと言っとるじゃろ!!」

「う、うん。ごめんなさい」


 曾祖母は言う。


「何個目?」

 

 妹が答える。


「六つ目」


 曾祖母は頷く。

 妹が訊く。


「駅についたら、どうしたら良いの?」

「向こうのものは、自然と離れていくよ」

「そうなの?」

 

 曾祖母は頷く。

 俺はたずねる。


「帰りはどうするの?」


 千と千尋じゃ一方通行だ。

 曾祖母は答える。


「歩いて帰りんしゃい」


 それだけ言うと、曾祖母はベッドに横になり、すぐに寝てしまった。

 妹が言う。


「お兄ちゃん、これ、千と千尋のあの電車と同じじゃない?ハンコを返しに行く時に、湯婆婆が、千尋に切符をあげるところ」

「俺も思ったよ。ちょっとあのシーンについて調べてみよう」

「うん」


 ネットで検索してみた。

 

 まず、分かったこととして、千尋が乗っていた電車は、あの世行きだから、帰りが無く、線路を歩いて帰ってくる事になる。


 さらに、六個目の駅なのは、仏教で「六道輪廻(ろくどうりんね)」というものがあり、その先へ行ってしまうと外道に落ちて戻れなくなってしまうから。


 などという考察があった。


 他にも、「きさらぎ駅」について調べてみた。すぐにヒットし、驚いた。


 サジェストで上に出て来たのは


 きさらぎ駅 2ch

 きさらぎ駅 都市伝説

 きさらぎ駅 実在

 きさらぎ駅 嘘

 きさらぎ駅 浜松


 都市伝説で有名な駅らしい。

 きさらぎ駅自体は、2ちゃんねる発祥の都市伝説で、はすみというユーザーネームの書き込みが発端となっている。


 女性は、静岡県浜松市にある遠州鉄道で帰宅していたが、通勤に利用している電車が、20分以上もの間走り続けており、周囲の乗客も全員寝ていて違和感を覚える。

 そのうち電車が止まり、仕方なく降りた駅は「きさらぎ駅」だった。

 しかし、「きさらぎ駅」という名前の駅はその路線に存在しない。

 駅を出ても草原と山しか見えず、女性は線路を歩いて帰ることにし、伊佐貫というトンネルを抜けてから、人を見つけ、親切に車に乗せてもらった所で、書き込みが消えた。

 この人が無事帰宅できたのか、それとも何処かへ連れ去られてしまったのかは、誰にも分からない、という背筋が凍る話だ。


 それから、きさらぎ駅は各地で発見されるようになり、皆んなが作り出したオカルトという風潮が強まったが、よく考えて、もし俺がスレ立てするんだったら、何番煎じ、とか言われるに違いないし、やるなら別の名前にする。


 全国津々浦々で見掛けられるのは、本当にきさらぎ駅が、《どこにでもある》からかもしれない。

 駅名ではなく、この世とあの世の境に存在する門的なものなのでは無いか、という考察があった。


 もしかしたら、それに近いのかもしれない。

 だとすると、曾祖母のアドバイスも筋が通る。黄泉に近い場所だから、自然と幽霊は離れてくれる。

 

「道理に叶う」

 

 妹が頷く。

 うつらうつらしている曾祖母に確認した。


「婆ちゃん、帰りは線路に沿って歩けば、帰れるの?」


 曾祖母は小さく頷き、細い声で言った。


「あたしの言う通りにしぃや」

「いつ電車は来るの?」

「黄昏時よ」


 これもまた、記憶に新しい。

 俺と妹は視線を躱す。

 

 黄昏時、誰ぞ彼(たれぞかれ)、またの名を、逢魔時(おうまがとき)

 現実と黄泉が交わると言われている刻限だ。

 

「やるしか無い。お兄ちゃんだって、早く日常に戻りたいでしょ」

「あぁ。課題が山積みだよ」


 その日の夕方、俺たちは、きさらぎ駅に行く事を決行した。

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